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憑依された沢井奈君

僕は木の箪笥みたいな家具を宝箱の横まで動かしてその後ろから横から剣を差し込んで宝箱の鍵を捩じ切った。


鍵はぱかんと開いたが次の瞬間、黒い毒の矢が何本も鍵のところから飛び出して行った。

一本は横に飛び出してきて木の箪笥に突き刺さった。

慎重に対応していて良かった。


落ち着いたところで宝箱の中を見ると、中級ポーションやマナポーションのポーション類と謎のメダリオンと剣があった。


羽束師君に鑑定してもらうとポーション類は普通であり、メダリオンは「聖女のメダリオン」というものらしい。効果効能はわからないらしい。

剣を鑑定してもらうと羽束師君はいきなりうおおと叫び声を上げると目を覆った。なんでもこれを鑑定しようとすると眩しい光で鑑定どころではなかったそうだ。


彼によると剣の名前は「魔剣デュランダル」だという。それ以外は何もわからなかったらしい。


「そりゃ先輩が取るべきです。」という声が大きかったので僕はその剣を取ると抜こうとした。

寂しい笑いで僕はその剣を戻した。抜けなかったからである。


残りの五人も次々に抜こうとしたんだけど、誰も抜くことができなかった。

みんなで低い声で笑うしかなかった。


羽束師君と小野君、舞島君はやっぱり僕が持っていて欲しいというし、ギャル子達や野々宮さんも自分が抜けない剣など不要と言うので抜けない剣は俺に押し付けられることになった。


隠し扉のところまで戻ると、改めてメダルを探しに奥に進むことにした。


途中でゴブリンに出会ったので、一匹は野々宮さん達、一匹は小野君達が倒すことになった。


「ふふふ、やっぱりあの怪物は強かったのね。簡単に倒せたじゃない。」

野々宮さんは自嘲するように言った。


奥にたどり着いてそれぞれメダルを取ると何の問題もなく出口まで辿り着いた。


「いったいあのモンスターは何だったのよ。」

野々宮さんは不機嫌である。


いずれにしても先生にはあの隠し扉のことを報告した。


「はあっ?」

多分E組かどこかの担任は呆れ返った声を出した。それで電話で藤木さんを読んだ様子である。

慌ててダンジョンから出てきた藤木さんは話を聞いて僕と羽束師を連れてもう一度ダンジョンに入ることになった。


野々宮とマキちゃんは何とか冷静さを取り戻したらしく、外で待っていてくれた。


「こんなところに隠し扉があったのか。」

藤木さんはちょっとワクワクした様子で隠し扉を通った。

少し行くとあのモンスターの死体と開いた宝箱がある。


「ホブゴブリンか。よく倒せたなあ。というか、首を一閃か。」

「野々宮達のグループがやられていたので。」

マキちゃんの革鎧は下着から半分くらい引き裂かれていたわけである。


「大和君が助けに行ってくれて良かったよ。」


その後、もう一度捜索をしたが何も見つからなかった。

「ああ、ここで発見したものは確認できたから君たちのものにしてくれて何らかまわない。それが探索者の権利だからね。」

藤木さんは僕たちを安心させるように言った。


「それにしてもこのダンジョンはさすがに全て探索し尽くして隠し扉はもうないと思っていたけれどまだ隠し扉が見つかるんだねえ。」

藤木さんは少し慨嘆するように言ってさあ戻りましょう。と僕たちを促した。


隠し扉を出たところで隠し扉を元に戻したら本当にただの壁と見分けがつかなくて、なぜ野々宮達がここを見つけたのかわからない。


「運命というものがあるのですよ。君たちだってここに行ったのでしょう。他のパーティは入っていないんです。そういうことはダンジョン探索ではよくあることなんですよ。」


「そうか、マキちゃんと野々宮委員長が先輩の運命だったんですね。」

「まて、いきなり二股で修羅場になる運命なんてありえないだろう。」

「ふふふ、先輩ですからね。何でもありですよ。あのホブゴブリンを一撃で胴と首を切り離した時は俺だって惚れましたもん。」

「待て、僕にはそんな趣味はないぞ。」


そんなバカな話をしながら出口に向かっていると、後ろから「助けてくれ!」という叫びが聞こえてきて、沢井奈の取り巻きだった二人が全速力で走って俺たちを追い抜いて行ってしまった。


「両角と冨樫ですね。」

小野君がいう。

そうか、あの取り巻きはそんな名前だったのか。

少しすると、奥の方から沢井奈がフラフラと歩いてくるのが見えた。


「おい、沢井奈、何やっているんだ。」

僕が声をかけたが、彼は僕に気が付かないように歩み去った。


「え?僕に気が付かない?」

「間違いなく正気を失っていますね。」

「追いかけよう。」


僕たちは沢井奈を追いかけて出口に急いだ。


出口を出ると、すでに大騒ぎになっている。

沢井奈は取り巻きの二人、両角と冨樫だっけを追いかけ回しているようである。

いったい奴らは何をしたんだ。


僕はあの二人と沢井奈の間に体を潜り込ませると、沢井奈の打撃を剣で受け流そうとした。


ガキン!


予想外の打撃力に驚かされた。

僕を認識していないのは明らかだが、僕のことを邪魔者と認識したみたいで、彼は僕に攻撃を加えるようになった。


ガンガンと思いもよらない強烈な打撃を繰り出してくるので受け流すのが大変である。


藤木さんが「ポゼッション(憑依)されたんだと思う。ポゼッションでは憑依した依代の攻撃力のリミッターを外すからいつもよりも打撃力は強くなるぞ。」と叫んでくれる。


藤木さん、理屈はよくわかるけれど、何の解決にもならない。


本当にこんな馬鹿力で攻撃し続けていると沢井奈の骨にダメージが発生しそうである。


避難している生徒の中に野々宮の顔を見つけた。

「野々宮さん、浄化できない?」と大きな声を出して聞いてみた。


野々宮は半泣きで首を横に振ると「そんなのまだ無理だよ。」と言った。


なら仕方がない。

沢井奈はもう白目を剥いているし、意識はなさそうである。

力技で行くなら剣の柄を沢井奈の頭にぶつけて意識を失わせるのがいいかもしれない。


言うのは簡単だが、実際には憑依している奴は沢井奈の筋肉を限界まで酷使している。

素早く動いて激烈な打撃を打ち込んでくるのでなかなか沢井奈に近づく隙はない。


むしろ、彼の打撃を逃げきれずに浅い打撃を受けるようになっている。

身体強化で何とか打撃に耐えているから傷になっていないだけである。


もうこのまま身体強化で殴ってやろうか。

いや、僕はまだ魔力のコントロールが甘いから全力で殴ったら憑依してあるモンスターはともかく、沢井奈の体は持たないのではないか。


とにかく、刃物を振り回されては誰かが当たって怪我する可能性もあるのでまずは刃物をぶっ壊してしまおう。


僕は右手に魔力を集めると、沢井奈の剣を横から殴りつけた。

剣は見事に折れて真っ二つになった。

さすがのモンスターも折れた剣を見て呆然としているみたいである。


沢井奈に憑依しているモンスターはからりと折れた剣を捨てると僕に殴りかかってきた。

僕はその手を取って払いのける。


うまく払い腰で転倒させたりしていたが、全く痛みを感じていないみたいで、いくら投げ飛ばしても平然と立ち上がってきた。


しまいには力比べみたいに両手をハイタッチするように合わせて押し合うことになった。

こちらは魔力で増強しているのに向こうは素で向かってくる。それでもこちらが押し倒せないのはやはり鍛錬不足ということなのかもしれない。


どちらも動かないのだけれど、実際はものすごい力で押し合っている。

呼吸も激しく酸素を取り込んで力比べをしていると、つっかけで普段着の藤木さんの奥さんが走り込んできた。

藤木さんの奥さんはいきなり浄化の呪文を唱えた。


その途端に沢井奈の力が抜けてギャオって叫んで苦しみ始めた。

僕はいきなり相手の力が抜けたので転びそうになったが、何とか踏みとどまって今度は沢井奈が逃げ出さないように羽交締めにすることになったのである。


藤木さんの奥さんは浄化の呪文を連発した。

そんなことができるのはものすごい実力である。


次第に苦しんでいた沢井奈の体から灰色の煙みたいなものが滲み出てきた。


僕の体にも染み込んできそうだったので魔力を全身に分散して僕の体にその怪しい煙が染み込まないように防御する。


その煙みたいなやつが憑依していた本体なのだろう。

沢井奈の体はもう力が抜けてだらんとなっている。


煙は集まって何だか凶悪な人相の魔人になってきた。


沢井奈を地面に寝かせてやると、再びあの煙の魔人を見る。

と、その時、野々宮さんのポケットから光が漏れていることに気がついた。多分あのポケットには聖女のメダリオンが入っていたのではなかったか。


僕は野々宮さんに「ポケット!」と怒鳴った。

野々宮さんは僕の声に気がついて輝くメダリオンを取り出した。そのメダリオンからは光線があの煙の魔人に放出されている。


光線を浴びた煙の魔人はいきなり苦しみ出した。


光はどんどん眩しくなり、突然消えた。

その時には煙の魔人の影も形も残っていなかった。

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