古城塚の迷宮
古川先生達の教師陣も次々に到着して迷宮実習が始まった。
藤木さんと学年主任の千田先生の説明によると、迷宮の奥にはメダルがあるのでそのメダルを取ってきたらいいらしい。ただし、途中にはゴブリンが放されているのでそのゴブリンを少なくとも一体は討伐して魔石か耳をゲットしなければならないらしい。
まあ、最初の一歩としては妥当な線だろう。
1-Aのパーティから順にダンジョンに入ってゆく。地図もあるから迷うことはない。
ゴブリンが自然に出現する場所にはギルドメンバーや教員が待機して、出現したゴブリンは片っ端から退治しているらしい。
一時間ほどすると先に入ったパーティから出てきた。皆さん、小さな魔石かゴブリンの耳と「大冠高校ダンジョン探索記念」と刻印されたメダルを持っている。お昼頃になってやっとC組の順番になった。大体5分に一組ずつダンジョンの中に入ってゆく。
野々宮達の女の子パーティが入った後、もう一組別のパーティが入り、次が僕たちの番である。
中に入ったけれど、向こうから時々帰ってくるパーティと出会うのであまり孤独感は感じない。
(あまり怖くない肝試しってところかなあ。)
三人は敵襲を警戒して慎重に進んでいるみたいだが、僕の索敵には特に引っかかるモンスターはいないのでそのまま進んでゆく。
「先輩、ここはどうします?」
不意に舞島が指差した。
そこには地図にはない入り口が開いていた。
「秘密のドア?」
僕が変なことを言うと、羽束師君が「それがし、鑑定のスキルを持っているでござる。しばしお待ちあれ。」といきなり武士みたいな言葉を使い出した。
僕も索敵スキルを使う。奥には三つの白い点と一つの赤い点がある。
赤い点は強敵である。
「それがしの鑑定ではここは魔法で隠された扉で奥には財宝があるかも知れませぬ。」
羽束師君がいきなり言う。
「財宝の前には番人モンスターがいるかもよ?」
僕は注意を促した。
けれども三人とも奥に行くべきだと言う。
お前ら財宝に目が眩みすぎだろう。
小野君が「多数決ですから。」と言って僕に奥に入ることを促した。
ああ、何事もなく演習が終わることを期待していたのに。
どうして僕はこんなにトラブルを引き寄せるのだろう。
仕方なしに僕は奥に歩みを進めることにした。
隠しドアの奥には曲がり角があった。三人は何の気なしに曲がろうとしたが、さすがに僕は手ぶりで止めた。
「しっ、静かに。」
向こうから微かに女の子が叫んでいる声が聞こえた。
そっと角を曲がって近づくと、野々宮とギャルが倒れていた。
奥には醜悪なヒューマノイドモンスターがおり、奥に倒れているギャルの鎧を剥ぎ取ろうとしていた。
おそらく力任せに鎧を破ろうとしているのだろう。
胸の片側が半分露わになっている。
どうやらモンスターは興奮しているみたいで粗末な腰蓑の捲れたところからは醜悪な男性器が膨張しているのが見える。
ギャルは必死で抵抗しているがその抵抗は弱々しく、ちょっと危険な状態である。
「なんて羨まし、いやけしからん事態だ。緊急だな。」
僕は剣を抜くと一足飛びにモンスターのところに飛び込んだ。その瞬間、剣を振るうとモンスターの首はポトリと落ちた。首を失ったモンスターはどさりと横倒しに倒れた。
今日は姫を見開いていたギャルの子はいきなりうわーんと泣き出すと俺に抱きついてきた。
「お、おい大丈夫だ。もうモンスターは倒したぞ。」
「うえーん。助けてくれてありがとう。怖かった。」
助けを求めてあの三人を見ても、なぜか小野と舞島はうんうんと頷くだけである。
羽束師は「ふむふむ、それがしの鑑定によるとこのモンスターはつよつよゴブリンですぞ。」とどうでもいいことを鑑定していた。
僕には野々宮さんの取り巻きギャルとしか認識されていない女の子は涙で汚れた顔を僕の肩に擦り付けていた。
どうせぼっちだからと最初から諦めずにせめて名前くらい聞いておくのだった。
ちょっと後悔したが今更遅いのである。
とりあえず、彼女も少しは落ち着いたみたいである。
「今ら他の二人の無事を調べるからちょっといいかな?」
僕がそう言うと女の子は「うん」と言って僕の左腕にしがみついた。まあこれなら動けるか。
と言うか彼女の胸が結構僕の腕に当たるので気が散りそうになる。彼女の胸は結構大きいみたいだ。
野々宮さんともう一人のギャル子ちゃんはモンスターの鉤爪による怪我はあるけれどそれ以上の被害はなかったみたいだ。
呼吸もしっかりしているから命に別状はないんじゃないかと思う。
その時、小野君が「先輩、宝箱を発見しました。開けていいですか?」と叫んだ。
「待て待て。開けるなよ。まずは羽束師君の鑑定が先だ。」
「わかりました、先輩。不肖羽束師、鑑定させていただきます。」
なぜいきなり敬語?
まあいいか。
「先輩。これは宝箱ですぞ!罠があります!」
よかった、いきなり開けてたら大変なことになるところだった。
「羽束師君、罠の種類はわかる?」
「いえ、それがしの鑑定はレベル1でござる。いや、今の鑑定でレベル2に上がったぞ。先輩、もう一度鑑定のチャンスを下され。」
「お、おう。何回でも鑑定していいぞ。」
「で、ではもう一度鑑定をば。」
ふと背筋に冷気を感じた。
そっと後ろを振り向くと野々宮さんがゆらりと立っていた。
「どういうこと?なぜマキが池宮君の腕に取り縋っているの?説明して。」
あ、この子はマキっていう名前なんだ。
そんな呑気なことを言っている場合じゃなかった。
「えへへ。それはですね、池宮先輩が私の貞操の危機を救ってくれたからなのです。もうマキは池宮先輩のもの。私と池宮先輩は一心同体なのです。」
なんでや。どうして君らは僕を先輩扱いするの?僕と君らは同学年なんだが。
僕がそんなバカなことを考えている間に野々宮さんはもう氷点下の女になってしまっていた。多分心の中ではブリザードが吹き荒れていることだろう。
「は?誰がマキと池宮君が一心同体なんて許すのよ。そんなこと許されないわ。」
どう考えてもこれは修羅場である。けれども僕には何の責任もないと思うのである。僕はこの三人を助けただけなんだぜ。
「おほほ。私は太陽、野々宮さんは北風よ。太陽は北風に勝つのよ。どうしたって現に池宮君に抱きついているのは私だもの。」
ああ、そんな挑発したらどうなることか。
「ふふふ。」
あ、野々宮さんが切れたかも知んない。
「えいっ。腕は二本あるということを忘れたあなたの負けよ。」
野々宮さんが僕の右腕に抱きついてきた。
おい、両腕を取られたら動けなくなるじゃないか。
「池宮君、私を助けてくれてありがとう。私の全てはあなたのものよ。私とあなたはもう一心同体なの。」
ああ、もうどちらの女の子もいかれてしまっている。
「あのー、お取り込み中失礼しますが、それが市の鑑定結果をお伝えしてもよろしいですかな?」
「ああ、待っていたとも、ぜひ教えてくれ。」
この修羅場を抜けるためにはもう羽束師君の言葉しかない。
「宝箱には毒矢の罠が仕掛けられているそうです。」
「よしっ」
僕は僕の手に取り縋っている二人の女子に言った。
「さあ、お嬢さん方、僕は毒矢の罠のある宝箱を開けなくちゃならないんだ。できたら安全な場所に避難して下さいな。」
僕の言葉に二人の女子は悪鬼のような顔でお互いを見て、「ならば仕方ないわね。1,2,3の合図で同時に離れましょう。抜け駆けなんてしたら殺すわよ。」とは穏当な言葉を掛け合って、同時に僕の腕から離れた。
「はい、さあ、二人とも安全なところに隠れていて。」
そう言って僕は目覚めたばかりのギャル子ちゃんも含めて三人の女の子を小野君たちに渡すのだった。




