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無能たちの特訓

武道の授業の時に小野、羽束師、舞島の様子を見ると、木刀も持たずに後ろの方で様子を見ているだけだった。


それを言ってしまうと僕だって本気ではやっていない。


というか、相変わらず沢井奈は僕の方を睨んでくる。

僕も負けずに睨むことにするが、彼は決した僕の方に近寄ってくることはない。


沢井奈の仲間だった連中ももはや露骨に目を逸らしている。


武道の先生も僕と沢井奈の模擬戦を促すのだけれど、沢井奈の奴は決して模擬戦には応じないのである。


僕も他のクラスメイトの様子を見る限り、模擬戦を戦うべき実力の高い人はいなさそうなので武道の時間はウロウロと武術修練場を歩き回ることで終わってしまっている。


どうしても木刀を持とうとしないあの三人には、一度、木刀を持ってみろと言ったのだけれど、他のクラスメイトに目をつけられるのが嫌だと言って彼らは全力で辞退して嫌がったのでもう諦めてしまった。


結局は彼らの訓練は放課後に特訓するしかない。


誰もいない武道修練場では三人ともそれなりには器用で、素振りをさせてもそれなりに様になった振り方をしている。

問題は十回くらい振っただけでもう肩で息をしていることである。


つまりは体力がないのである。


それで、とにかく学校の周りを走らせることにした。

おそらく一周で1キロくらいの距離ではないだろうか。


けれども、驚いたことに彼らは半周したところでぶっ倒れてしまった。


「嘘だろう?」

僕はもう驚愕に近い感情だったが、驚いているだけでは何も変わらない。とにかく木陰に三人を連れて行って休ませると、近くの自動販売機で飲み物を買ってきて飲ませた。


たっぷり30分くらい休んだ後にやっと彼らが体を動かせるようになったのでほとんど歩いているのと変わらないスピードで残りの距離を走り終えたのである。


何とか走り終えた彼らは学校の門の前で恥も外聞もなく倒れ込んで動こうとすらしなかった。

まさか死んだのでは?と思って心配して様子を伺うと、何とか呼吸は続けているようだった。


たっぷり一時間は待っていたと思う。


やっとのことで彼らは動き始めた。

多分今日はこれ以上の負荷は無理だろう。


「明日も頑張ろうな。」

僕がそう言うと彼らは返事する余裕はなかったようだけれど、大きく頷いてくれた。


翌日、彼らが来たのは始業ギリギリだった。


「先生、全身が痛くて動けません。」

珍しく木刀を持っていると思ったら杖として使っていやがった。


放課後には逃げるかと思ったが、三人とも校門に集まってくれた。

「痛い〜、いたたた。」と呻きながらもう走っているのか歩いているのかわからないスピードで「走っ」た。


前日にぶっ倒れた所に来た時に「休むかい?」と聞いたが彼らは首を横に張って走り(歩き)続けた。

校門まで辿り着くとみんなぶっ倒れてしまったのは昨日と同じだった。


その後も1週間ほどは痛い痛いと言いながら走る日々が続いた。

いつの間にか、彼らが痛い痛いと呻くことはなくなり、一応走っていると言える速さで走ることができるようになってきた。


と言っている間にもう4月の末である。

ゴールデンウイークの前に最初の迷宮演習がある。

といっても、これは迷宮探索の作法を教えるようなもので大したことはないらしい。


念のため、三人に同じパーティを組むよねと確認すると、三人とも「先輩について行かせていただきます。」と言う。


いや、僕は同級生なので先輩じゃないんだが。

僕が何度か先輩はやめてといったのだけれど、彼らは側として僕のことを「先輩だ」と言い続けた。

ついに僕も根負けして「好きにすればいいよ。」と言ってしまった。


三人はにっこりして「はい先輩。」と晴々とした顔で返事したわけである。


僕は三人の名前を加えた四人でのパーティを申請書に書いて古川先生に提出した。


他のパーティはよくわからないけれど、沢井奈は結局、あの腰巾着二人とパーティを組んだようである。


いや、いくら沢井奈でも一人はみ出したら心配だものね。


パーティの結成が済むと古川先生は翌日の迷宮演習についての注意事項を確認し始めたのである。


授業が終わると野々宮さんが珍しく僕のところに近づいてきた。

何か文句でも言うつもりなのだろうか。

内心では少し警戒していたが、近づいてきた野々宮さんは「池宮くん、小野くんたちを助けてくれてありがとう。」と言った。

意外である。


「いや、古川先生に言われただけだから。」

「でもあれだけ授業に消極的だった彼らが何とか授業に取り組むようになってきたのはあなたのおかげだわ。」

「買い被りすぎだよ。」

「うん。それでも私はあなたにお礼を言いたかったの。」

そう言うと野々宮さんはくるっと身を翻すとあのギャル二人と一緒に教室を出て行った。


さあ今日もぼっち飯を食べよう。

僕はいつもの横田さんの作ってくれたお弁当を堪能することにした。


♢♢♢


翌日は迷宮実習である。

一年生は全員、古城塚古墳のダンジョンに集合である。


古城塚古墳は市の外れにある初心者用のダンジョンである。今でも初心者の探索者がしばしば探索しているダンジョンであるが、僕の両親はここのスタンピードに出会ったことがあるらしい。


集合場所に行くと、羽束師君と舞島君はすでに来ていた。三人で小野君がくるのを待つ。


ふと見ると、見覚えのある人がいた。

羽束師君と舞島君に断って件の人に会いに行った。

「お久しぶりです。藤木さん。」


「おや、大和君じゃないか。そうか、君もご両親の母校に通うことにしたのかい。」

「ええ。いろいろありまして。」

「まあ、君なら大丈夫だろう。今はスタンピードの兆候もないしね。」

「はい。今日はよろしくお願いします。」


藤木さんは元「聖騎士団」のリーダーである。


今は引退して美しい奥さんと可愛い娘さんと暮らしている。

藤木さんはこの古城塚のダンジョンのスタンピードの時にうちの両親と出会ったらしい。その後も新宿ダンジョンの調査探索でドラゴンを倒した伝説の人だ。


まあ、藤木さんによるとほとんどうちの父が倒していたのを真白母上の投げたハンマーが父の頭に当たって意識不明になったから藤木さんたちが止めをさせたと言うことでラッキーだったんだよと言うことである。

もう10年以上前のことなので本当のところはもはやわからないのだけれど。


いつの間にか一年生達が集まってきていた。

ざわざわしているが、「伝説の聖騎士団のリーダーですよね」とか「ドラゴンスレイヤーだ、初めて見た。」とかみんな藤木さんに興味津々みたいだ。


丁度、小野君がきたみたいだったので僕は三人組を呼んだ。

「今回の僕のパーティメンバーです。羽束師と舞島と小野です。こちらは元「聖騎士団」のリーダーの藤木さんだよ。みんなよろしく挨拶して。」


彼らも聖騎士団のリーダーの藤木さんの名前は知っていたらしく、カチコチになりながら頭を下げていた。


藤木さんは柔らかく頭を下げて言った。

「ダンジョン探索はまず安全第一だからね。無事に帰ってくることが最優先だよ。まあ、大和君がいるからそう心配はないと思うけれど。家に安全に帰り着くまでがダンジョン探索なんだ。」


多分、藤木さんに会ったことはあの三人にはいい影響があったんじゃないか。

珍しくやる気が出ている感じである。


反対に沢井奈は僕の方に凶悪な面を向けている。どうやら僕が藤木さんと仲良くしていたのが気に入らなかったみたいである。


「ふん。藤木さんはいい人だからこんなクズ野郎でも相手しただけじゃないか。魔法適性のない無能に話をするなんて甘やかしすぎだよ。」


何だか自分勝手すぎる主張には苦笑するしかない。

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