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安井遺跡の冒険

なんとかホブゴブリンを倒した俺たちはしばらく立ち上がれなかった。


羽束師君は立ち上がると後ろの壁になってしまった入り口の部分を鑑定している様子だったが、頭を振って言った。

「先輩、やっぱり一方通行の扉だったみたいですね。」


「こっちはトラップがあるらしいからな。」

三人の顔色を見てもなんの慰めにもなっていない様子だった。


小野君は「あっ」と言ってポケットから何かを取り出した。

緊急時の通報装置である。見た感じ、真ん中がへしゃげていた。

どうやらホブゴブリンの攻撃を受けてしまったようである。

とにかくスイッチをオンにしてみたが、装置が動く気配はなかった。


「ホブゴブリンからの一撃を防いでくれたみたいだから良しとするしかないよ。」

僕は慰めるように言ったが、なんの慰めにもなっていないことは承知である。


再び重苦しい沈黙が僕たちを覆う。


その沈黙を破って舞島君が言った。

「それで、先輩、どうしましょう。」


僕は何もいえなくて気まずい沈黙が再び落ちてくる。


いや、解決法は一つないわけではない。けれども、それを言って三人が受け入れてくれるかどうかはわからない。


僕はやむなく口を開いた。

「戻れないのだからこのまま下に降りて行こう。地下五層のボスを倒したら地上に戻るポータルがあるはずだ。」


スンと再び沈黙が覆った。


「脳筋だ。実に脳筋な解決策じゃないですか。我々はどうせ魔法適性のない無能。脳筋で解決するのが本則であることは間違いない。拙者、先輩に賛成でござる。」


羽束師君である。

思わず他の二人も頷いていた。

「脳筋か。」

「確かに我々は脳筋がふさわしい。」


ちょっと待て。

「おい、いくら脳筋でも無鉄砲に突っ込むのはダメだ。ポーションもないのだから怪我をするのは致命的になりかねない。」

僕がそう言うと三人は頷いた。


いくら僕たちが魔法適性のない無能だと言っても実際には魔力はあるわけで、それを「身体強化」や「身体防御」としては使うことができる。


それで、ゴールデンウィークの間に彼らにも魔力操作についてはやってもらっている。


小野君は結構上手に魔力操作ができて身体防御は可能である。


羽束師君は魔力も少ないし、顔を真っ赤にして頑張っても魔力は1cm程しか動かないらしい。

舞洲君はその中間である。


僕は小野君を前衛にして羽束師君は後衛でむしろ鑑定を掛けてもらうことにした。舞島君は羽束師君の護衛という役割である。


「了解仕った。」

羽束師君は結構ノリノリで鑑定をしてくれるらしい。


「ピコーン、棒を発見でござる。」


羽束師君が指差した先には長さ3m程もある長い棒が転がっていた。


「い、いや、き、気にしないっすよ。」

僕の横で小野君は3メートルの棒を持っていた。


羽束師君の鑑定で罠を見つけることは可能なのだが、鑑定を使いまくると羽束師君のMPがすぐに底をついてしまうのである。それで、小野君にあの3メートルの棒で行手を調べて罠を発見するという方法を試すことになった。


「小野君、見る人はいないからきっと大丈夫だよ。」

僕は慰めにもならない慰めの言葉をかけるしかなかった。


「この期に及んで恥ずかしいとかないですものね。」

小野君はそういうと、棒で3メートル先の地面をコツコツと探り始め、僕たちはゆっくりと進み出した。


この棒は結構有能で、落とし穴を発動したり、火を吹く壁を見つけたり、上からトゲトゲのついた板が落っこちてきたりしたが、棒の先が焦げたりギザギザになった程度で、僕たちは罠を躱していくことができたのである。


その間にホブゴブリンのグループに遭遇したが、小野君はその時には勇敢に戦ってくれた。

棒をコンコンさせることにストレスでも感じていたのかもしれない。


地下一層のボスはオークだった。

ホブゴブリンより一回り大きなオークは力も強く、棍棒を振り回してきた。


あんなゴツい棍棒を下手に剣で受けてしまうと剣が折れかねない。


「躱せ、躱せ!」と僕は叫んだ。


舞島君と羽束師君は全力で躱している。

体力的に大丈夫かなと思ったが、ゴールデンウイークに走り込んだせいか、彼らの体力も思ったよりも増えていたみたいである。


三匹のオークを僕が二匹仕留めたところで小野君が一匹を仕留めてくれた。


思わず僕は小野君と拳を当てて勝利を祝ったわけである。


このダンジョンではモンスターは倒れると速やかに地面に吸収されて後に魔石とドロップが残る。

アークのドロップは「オーク肉のフィレ」であった。

結構ボリュームがあったが、母親から譲ってもらったマジックバッグに入れるとスポリと収まってしまった。


見ると小野君が震えている。


「どうしたんだい?」

僕が小野君に尋ねると小野君は僕に言った。


「先輩、、ジョブが生えてきました。」


ジョブが生えてくるなんて変な言葉だとは思うが、僕も時々使う言い方である。


「何のジョブが出てきたの?」


「剣士です。」


「えっ?よかったじゃない。」

剣士は戦士の上級バージョンで剣術スキルの獲得にボーナスがつく。


戦士系のジョブとしては結構評価の高いジョブである。


舞島君が小野君に「君のお父さんも喜ぶよきっと。」と言う。


小野君は「うちの親父は田舎道場の道場主なので、息子が剣士になってくれたら少しホッとするのではないかと思うんです。」と少し目に涙を光らせながら言う。


「もうオークを倒したんだし、お父上の立派な後継だよ。」

僕はそう言ったが、(それは無事に地上に帰り着いたらだけれどね)という部分は心の中に飲み込んでおくことにした。


そんなこんなで舞島君が剣士の小野君に棒で探査させるのは悪いと言いだした。

それで先頭を3メートルの棒を持つ舞島君にして僕と小野君は羽束師君を挟んで護衛するというフォーメーションに変更したのである。


それからは舞島君を先頭に進むことになった。

彼も探査は上手だった。

地下二層では罠は少なくなっていたが、舞島君の操る棒は的確に罠を発動させ続けていたのである。


おかげで僕たちは罠にかかることなくホブゴブリンやオークを倒すことに専念できたのである。


僕だけでなく小野君が攻撃力を発揮したのは本当にラッキーだった。

彼はホブゴブリン・アーチャーの矢を片っ端から受け流してくれたので遠距離攻撃できない僕たちにとっては心強い盾になってくれた。


おかげで地下二層、地下三層と攻略していった。


地下四層もガンガン攻略できていた。

(もしかするとこのまま地下五層まで辿り着けるのではないか)


もちろん僕の甘い予想など地下四層のボスに吹き飛ばされることになった。

オーガである。


僕たちみたいな初級者にオーガなんて酷すぎるよね。

でもいくら泣き言を言ったところで、ダンジョンに文句を言うわけにもいかない。


オーガは皮膚がカチカチに硬いので普通の県ではほとんど歯が立たないのである。


僕たちが全力で切り掛かってもあっさり跳ね返されてしまうし、ぶん投げられることになって、僕も小野君もついに傷だらけになってしまった。

舞島君と羽束師君はもう部屋の隅で震えている。


(ヤバすぎる。ちょっと無理そうなので奥の手を出すか。)


僕はマジックバックを開けた。

そこから剣を二振り取り出した。

その一方を小野君に投げ渡した。


小野君が剣を抜くと、その剣はブワッと炎を纏って輝いた。

「ま、魔法の剣?」

「ああ、そっちは炎の剣だな。」

僕の方の剣を抜くと等身が霜が降りたように凍っている。

「こっちは霜の剣だ。」


この魔法の剣は父が異世界で習い覚えてきた剣の魔法化をうちの母が製品化して世界中に売り捌いているものである。

昔は伝説の魔法師団長も同じものを作っていたらしいがうちの母が買収したので今は池宮が独占販売している。


「さすが池宮の御曹司。持っているものが違うね。」

小野君は思わずと言ったように口にした。


そうなのである。そもそもこの剣は一本百万円くらいするし、有名な池宮コンツェルンの商品なのでこういう反応が当然なのである。

ううっ恥ずかしい。だから出したくなかったんだよね。


けれども相手はオーガである。出し惜しみしていればこちらが負けてしまう。


僕は剣を握り直してオーガに立ち向かう。

オーガはもう勝った気分でこちらを嬲りに来ている様子である。


僕が正面から突っ込んでフェイントをかけた。


オーガは僕に釣られて僕と切り結んだ。

勝ったつもりでいるオーガは背中がガラ空きである。


その先にすかさず小野君がオーガの背中に深々と剣を突き刺した。


「凄え、オーガが豆腐みたいに切れた。」

グワっと狼狽したオーガを今度は僕が前から鳩尾に剣を突き刺した。


さっきまでの苦戦が嘘のようにオーガは倒れた。


僕たちも怪我して血まみれである。

幸い、中級ポーションが宝箱に入っていたので僕と小野君はすぐにそれを飲んだ。

(ポーションは羽束師が鑑定してくれた。)


半分づつ分けて飲んだのだが、すごい効果で僕と小野君の怪我はほとんど治ってしまった。


やっと地下五層である。

ここはオーガの巣みたいだったが、さすがは魔法の剣である。普通の剣と違ってオーガの肌をスパッと切り裂いてしまう魔法の剣の前ではオーガすら歯が立たないようだった。


鼻歌を歌うくらいのあっさりとした気分で僕たちは地下五層のボス部屋に辿り着いた。


「さすがは魔法の剣ですなあ」

羽束師君がまるで自分の手柄を自慢するように言う。


「剣に使われているよなあ。」

小野君は謙虚に言う。


「まずしっかり休んだ最後のボスに立ち向かおう。」


休息の後、僕は言った。

「さあ、最後の敵だ。油断しないで。」

そして扉を開けた。


「は?」


中には牛の頭をして筋骨隆々の大男がいた。

手には巨大な斧を持っていた。


「み、ミノタウルス?」


「先輩!あいつ、魔法の武器しか効きません!」

羽束師君が叫んだ。


「僕たちの剣は魔法の剣だ。みんな散開してミノタウロスに的を絞らせるな!」


舞島君と羽束師君はバラバラに部屋の中を逃げ回る。

けれども、ミノタウロスの巨大な斧は彼らを的確に追いかけていた。致命傷を負うまでには至らないが、斧がかするだけで血飛沫が飛ぶ。


けれども痛いなんて言ってられない。逃げるのをやめたら確実に死が待っているのである。

僕と小野君は逆襲のため攻撃を始めた。

しかし、ミノタウロスは僕たちの攻撃を軽く斧で否してしまう。


オーガも無理だと思ったけれど、ミノタウロスだってもっと無理だよ。

無理だ!無理無理!


僕が絶望に駆られてそう喚きそうになった時、舞島君が床の血糊に足を滑らせて転んでしまった。


ミノタウロスはニヤッと笑うとトドメを刺そうとしてか、舞島君に狙いすまして一撃を繰り出そうとしていた。


小野君を見ると真っ青な顔でひたすら剣を握りしめていた。


僕しか動け無さそうだ。

僕はヤケクソな気分で魔力のありったけを自分の足に叩き込み、一気にダッシュした。

そのままミノタウロスに突っ込んでゆき、その右肘に剣を突き立てた。


「ブモォーッ!」

ミノタウロスはよろめき、斧は舞島君のすぐ横に叩きつけられた。

どうやら舞島君には斧は当たらなかったようで、慌てたのだろうか、舞島君はゴロゴロと転がって斧から逃げ出した。


ミノタウロスはどうやら激怒しているようで、僕に向かってもう一度「ブモォーッ!」って吠えた。


僕は相変わらず足に魔力を送って素早く斧を避けながらカウンターアタックをかけるタイミングを見計らっていた。

不定期掲載ですいません。

なんとか続けています。

よろしくお願いします。

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