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救援隊

野々宮はイライラしていた。

(どうして池宮君たちの班は帰ってこないのよ。)

私はちょっとイライラしていた。

もう帰ってきていないのは2チームだけである。

特に池宮君のグループは帰ってきたチームに聞いても誰も出会ってすらいないというのである。


学級委員長としてトラブルがあった時には対応する必要があるのである。


ダンジョンの入り口あたりをウロウロしていると、声が聞こえてきた。


「ああ、そろそろ先生に会わなくていいのか?もう最後のパーティが帰ってきちまうぞ。」


思わず声のした方を見る。


そこには両角と冨樫がいた。

両角は言った。

「ふん、あいつはオークどもに喰われてしまえばいいのさ。沢井奈の敵討だよ。」


思わず私は彼らの方に突進していた。

二人は私が来たのに気づいて全力で逃げようとした。


間一髪、私の手は冨樫の服を掴んだ。全力で引っ張ると彼はべちゃっと倒れ込んでしまった。


「今なんて言ってたのよ。」


冨樫は黙って俯いているだけだった。


「今から先生のところに行くからそこで詳しく話しなさい。」


冨樫は暴れるかと思ったが、案に相違して黙って私に引きずられていった。


古川先生は藤木さん達と談笑していた。


私に気がついた古川先生は冨樫を賜えている姿に驚いたみたいだった。


「野々宮、冨樫がどうかしたのか?」

私は冨樫を先生の前に投げ出すように押して「さあ、あなた、ちゃんと話しなさい。」と言った。

我ながら氷のような声だった。


先生の前によろめき出た冨樫は「あの、池宮達のグループは中級の方に行きました。」と言った。


思いもかけない冨樫の言葉に古川先生も「は?」と一言返すのが精一杯みたいだ。


藤木さんは難しい顔をして「もう大和達が入ってから一時間は過ぎていますからモンスターはリスポーンしていますね。」と言った。


監視班の学生が首を振って「救難信号は入っていません。」と言った。


藤木さんは「とにかく救援隊を募ろう。」と言った。


藤木さんと奥さんの響子さん、そして、おそらく高3の上級生達が救援隊に集まってきた。


私も響子さんのところに行って「私も救援隊に入れてください。」と言ってみた。


響子さんはちょっと困った顔をして言った。

「気持ちはわかるけれど、最悪の事態も考えられるから上で待っていた方がいいわ。」


最悪の事態、つまり池宮君のパーティの誰か、もしかすると全員が死んでしまっている可能性だ。


私は首を横に張った。

「大丈夫です。理解しています。」

多分私の顔色は真っ青だったと思う。


藤木さんは「野々宮委員長は白魔術が使えるのだろう。古川先生、いかがですか?」と言う。

古川先生は首を縦に振ってくれた。


「じゃあ急ごう。時間が惜しい。」

藤木さんはそう言ってパーティをまとめ始めた。


中級ダンジョンへの道は響子さんの横で歩くことになった。

基本的に白魔術師は先頭には役立たずなのでパーティの真ん中で護衛されることになる。


最初の扉を開けて部屋に入るとホブゴブリンの一団がいた。

藤木さんと前衛の戦士部隊にホブゴブリンは瞬殺された。


「もうリスポーンしているな。」

魔術師達は「入ってきた扉は一方通行ですね。」と言う。

「不運か。」


おそらく、池宮君達はこの扉を入ったことで帰れなくなったということなのだろう。


「あ、こんなものがありますよ。」

別の学生が小さな器具を拾い上げた。

「……救難装置か。」


その器具は真ん中がへしゃげていて明らかに壊れていた。

「不安が重なったな。じゃあ先に進もう。」


「どういうことですか?」

私は藤木さんに聞いてみた。

「うん。ここには認識票が落ちていないからな。きっと彼らはここのモンスターは倒して奥にあった可能性が高い。」

藤木さんは地図を持っていたのでパーティを三つに分けて手分けして地下一層を探らせた。


私は響子さんと藤木さんと一緒の班である。


さすがは藤木さん、ホブゴブリン達を難なく屠りながら進んでいった。地下に通じる階段で三班が合流した。

ボスのオークを倒した後は私と響子さんは傷ついた班員の治療にあたる。


そうして、地下二層に突入した。


ホブゴブリンやオークを屠りながら急いで進んでゆく。


「ここのモンスターは人を丸呑みすることはないから冒険者の死体は残るんだよね。」

藤木さんは不穏当なことをさらりと言う。


今の所、死体も遺留品も残っていないから池宮君は恐らく地下五階のポータルを目指しているんだと思う。」

すると、隣の上級生がものすごく嫌そうな顔をして「ヤツですか。」と言った。


藤木さんは「ああ」と肯定した後、「だから早く池宮君達に追い付かなければ。ヤツを倒すのは流石に大変だから。」と言った。


ヤツって何なのよ。

私はイライラしたが、藤木さんと先輩の会話に割り込むわけにもいかない。


響子さんは私の背中を優しく撫でてくれた。


私たちはさらにスピードを上げて地下を踏破していった。


♢♢♢


僕と小野君はミノタウロスと対峙している。

舞島君と羽束師君はずいぶん傷を受けたのでむしろ遠巻きに避難してもらっている。


ミノタウロスの斧はかなりの強敵で、なかなか間合いを積めることができない。

何度か切り込んで行ってはいるが、軽傷しか負わすことができていない。


それで、こう着状態に陥っている訳である。


ミノタウロスは巧みに斧を操って小野君をぶっ飛ばした。

小野君はなんとか斧の直撃を避けたが、柄の部分で強打され、吹っ飛ばされた。

息はしているようだが動きが取れないようだ。


ミノタウロスの表情は牛頭なので読み取るのは難しいのだが、今は明らかに上機嫌でもう勝利を確信している様子だった。


僕は多分苦虫を噛み潰したような顔をしていると思うが、幸か不幸かここには鏡なんてないので僕の顔を確認することはできない。


僕は右手に魔力を集中することにした。


近寄るためには斧を一撃喰らうことは覚悟しなければならない。

右手で斧を防ぐことができるかどうかは賭けである。

下手すれば右手は失うことになるかも知れない。


僕は頭を振って悲惨な未来を振り払った。


多分僕が賭けに負ければこのパーティは全滅である。


魔法は弱気になったところから負けてゆく。


僕は右手の硬さが硬くなって斧を弾き返すイメージを必死で想像した。

脳内ではもう僕の右手は銀色に輝きを放っている。


「よし」

左手で霜の剣を構えると僕は右手を前に突き出してミノタウロスに走り込んだ。


ミノタウロスが待ってましたとばかりに斧を振りかぶって僕に打ちつけてきた。


僕はその斧に右手を合わせた。


もう心眼でしか見ていないけれど、僕の右手は火花を散らしながら斧を受け止めた。


そのまま斧を振り払う。

予想外に斧を受け止められたミノタウロスは崩れた体勢を支えようと足を出したところが僕たちの血で濡れたところだった。


どうと倒れたミノタウロスの鳩尾に僕は霜の剣をその柄まで刺されと体重をかけて全力で突き刺した。


「ブウォーォォォ!」

ものすごい声が上がった。どうやら僕の刺した剣は心臓を切り裂いたらしく、ものすごい血が僕に吹きかかってきた。


その途端、僕は鉄の塊に横から叩かれて吹っ飛んだ。

さっき僕がいなした斧である。


頭はなんとか守れたが、ぐしゃっと骨が破壊された音がした。

なんだか呼吸ができない。


最後に見た景色はミノタウロスが大量の血溜まりに倒れている姿だった。

「多分勝った。」

俺は安心した拍子に意識を手放してしまった。


♢♢♢


「ふむ、地下五階はまだリスポーンしていないな。」

藤木さんがいう。

地下四階も地下五階もほとんどモンスターはいなかった。


「まだリスポーンしていないということよ。」

響子さんが感心したように言う。


「あなたのボーイフレンドはかなり優秀よ。」

響子さんがそんなことを言うのできっと私の顔は真っ赤になっていると思う。


多分、池宮君は私のことはガールフレンドなんて思ってくれていないと思う。


顔は笑顔を絶やしていないけれど、現実を認識して心の中でズーンと落ち込んでしまった。


そんな調子で歩いていると、藤木さんが言った。


「よし、ここがボス部屋だぞ。と言っても閉まっているな。」

他にパーティはいないのだから多分池宮君たちが今ここでミノタウロスと戦っていると言うことだろう。


「戦闘が終わるまでここで休息だ。扉が開いたら迅速に飛び込むぞ。」


もし池宮君たちが戦闘に負けていれば速やかにミノタウロスを倒して、すぐに地上に戻って聖教会に連れて行って蘇生の魔法をかける手筈になっている。


なんとか池宮君には生きていてほしい。

祈るような気持ちの中、ひたすら待つしかない。

永遠とも思える時間のなか、ドアがゴトッという音を立てた。


「よし突入!」

藤木さんがサッとドアを開けた。


目の前に見えたのは巨大な牛頭の大男が倒れていたのがフワリと消えてゆく瞬間だった。

大量の血糊も同時に消えてゆき、そこには大きな斧と宝箱が残された。


「はっ!池宮君は?」

思わずミノタウロスの消失する瞬間に見惚れてしまったが、そこから視線を外して辺りを見回すと、奥に小野君がいて、舞島君と羽束師君は部屋の隅っこで呻いていた。

池島君は?


キョロキョロと見回すと部屋の左奥の方になんだかゴミの塊のようなものが見える。

恐る恐る近づいてみると丸まって倒れていた池宮君だった。右手と足が明らかに変な方向を向いている。


近づいてみたが意識はないようでこちらの方を見ようともしない。

「きゃーっ!池宮君!」


頭は打っていない様子だったが、明らかに出血が続いている。


「ヒールよ!ヒール!」

もう私は無我夢中でヒールをかけ続けた。

私の手の中をすり抜けてしまわないで!


その時、後ろから抱きしめられたことに気がついた。

「玲子ちゃん、大丈夫。大丈夫よ。」


池宮君はまだ意識はなかったけれど、穏やかな呼吸をしていた。


そっと後ろを振り向くと響子さんだった。


「池宮君を楽な姿勢にしてあげましょう。今から彼を上に連れて行くわよ。」


上級生の人が簡易タンカを持ってきてくれていて、池宮君をそこに移すと運んでくれるらしい。

辺りを見回すと残りの三人はすでに立ち上がっていたが、私と目が合うとあからさまに視線を逸らされた。


藤木さんが「良く頑張ったよ。池宮君が回復したのは野々宮さんのおかげだよ。」と優しく言ってくれた。


ボス部屋の奥には魔法陣の描かれた小部屋があり、そこから私と池宮君たちは地上に戻ることになった。

もう生徒たちはすでに解散していたようだったけれど、古川先生だけが残っていてくれた。


「野々宮さん頑張りました。」

古川先生は私のことを労ってくれた。


池宮君と3人はすでに待機していた救急車に乗せられて病院の方に向かって行った。


藤木さんと響子さんは私に「そこまで送ろうか。」と言ってくれた。


響子さんは「今日は良く頑張ったね。白魔術も上手になっていたよ。これからも来てくれるなら魔法の練習していいわよ。」と言ってくれた。


「よ、よろしくお願いします。」

私は頭を下げることしかできなかった。


「救急車に乗った途端に大和のやつ目を開けたからな。全く寝たふりの上手い奴だよ。」

藤木さんはちょっと呆れたように言った。


「じゃあ私のヒールで池宮君の意識も戻っていた?」

「そうだよ。あれだけ上手なヒールが使えるなんてよく頑張ったよ。」

「ありがとうございます。もっと精進します。」


「大丈夫よ。頑張りはちゃんと実を結んでいたわよ。心配しないで。」

響子さんにそう励まされて私は駅で二人と別れた。

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