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【迷惑度:災害級】「人間だけが居ないミニチュア」を創るため、現実世界をブチ抜く男。――略奪しては模造品に閉じ込める。今日は3センチの火山に『勇者の残骸』を投げ込み、聖剣を溶かして路銀を稼ぐ。  作者: 葛石
第1章 深淵から引き摺り出して、上空から落とす

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狂人の実装

高度を落とした空飛ぶ鈍亀は、ついに首都の活気溢れる街並みへと滑り込んだ。

鏡面のように美しかった外壁は、深海の重圧と怪物の爪によって無残に歪み、耐水の術式が焼け落ちた跡が、無惨なクレーターとなっていた。

その鉄屑のような外観は、栄華を極める王都の空において、明らかな異物だった。


借地の住所へワンルームを停泊させる。

重い体を動かし、クローゼットに向かう。

礼服は、主動力炉が限界突破した際の熱波で炭化していた。


だが、コンテストに参加するには、一度だけ主催者の事務局に顔を出し、物理的なエントリーナンバーを受け取らねばならない。

それがこのイベントの最低限のルールだった。


鋼鉄の扉を開ける。

二週間ぶりに嗅ぐ首都の空気は、人の熱気と、匂いが混ざり合った、いつも通りの不快さに満ちていた。

男は足早に事務局へと向かった。


事務局の空気は、男にとって最悪の極みだった。


中央広場に設けられた巨大なテント。

そこには、着飾った宮廷料理人や、腕自慢の冒険者たちが列を成していた。

彼らは己の持ち込む「幻の食材」がいかに素晴らしいかを語り合い、互いの服装を値踏みし、笑い声を上げている。


男は、その行列の最後尾に並ばず、真直ぐに、列を無視して窓口へと進んだ。


「おい、並べよ! 常識を……」


罵声を浴びせようとした男が、言葉を失って引き下がった。


焦げ落ち、煤けた礼服を纏う異常な男。

深淵で全てを失った男が放つ、生物としての本能を凍りつかせる異常な殺気。

周囲の料理人は、反射的に道を開けた。


「登録しろ」


男が発した、地を這うような低い声。


「え、あ……。はい。……応募用紙に必要事項を、ご記入ください……」


男はザリザリと、紙を削り取るような筆致で必要事項を記入する。


「……あの、ご提出される食材の『調理場』は、どちらに設営されますか? 会場内に最高級の厨房を用意してございますが……」


「不要だ」


「は、はい……?」


「不要だと言っている」


華やかな「至高の食材コンテスト」の受付。

だが、若い女性職員は「調理場は不要」と断言する狂人を審査できず、震える手で木札を差し出してしまった。

男はその木札を奪い取ると、一瞥もくれずに踵を返した。


エントリーナンバー、241。


男は事務局を後にした。

周囲の料理人たちは、突如現れた死神に気圧され、その姿が見えなくなるまで言葉を失っていた。

ようやく料理人たちが、事務局を包む沈黙を打ち破る。


「……や、やべーヤツが来た」


「……自分の工房ごと『召喚』するタイプ、……か?」


「……241番。アイツには近付かないほうがいい……」


事務局を出た瞬間、男は礼服を見る。

視線が五月蠅いのだ。


炭化した礼服は、男が思っていた以上にこの華やかな街で悪目立ちしていた。

すれ違う者たちが一様に足を止め、気味の悪いものを見るような視線を投げかけてくる。


男は近くの路地裏にある「既製服の安売り店」へ飛び込んだ。

そこには流行とは無縁の、労働者が着るような無難な色合いの服が並んでいる。


「……これとこれを。今ここで着替える。古い方は捨てておけ」


店主が呆気にとられている間に、男は炭化した高価な礼服をゴミ箱に放り込んだ。

銀貨を数枚、店主に手渡すと地味な灰色の平服に着替えた。

荷物を抱えるという「無駄」を嫌った結果だ。


外界での用件は、これで全て完了した。

滞在時間はわずか三十分。

男は灰色の群衆に紛れるようにして、足早にワンルームへと戻った。


「聖域」に戻った男は、すぐに入り口の鋼鉄の扉に何重ものロックを掛けた。


ようやく、呼吸が整う。

男は新調した服を脱ぎ捨て、作業着へと着替えた。

ここからが、本番の作業だ。


――スープで支配する。


男は歪んだ作業台に向かい、道具を取り出した。

他の料理がすべて、砂利に感じられるほど、圧倒的な熱量で彼らの鼻腔を踏みにじる。


僅かに残った高耐圧の「空の瓶」。

男はピンセットを手に取ると、以前、成り行きで命を救った少年を思い出しながら「圧縮弁」を滑り込ませた。

モノクル越しに丁寧に「噴出瓶」を作り上げていく。


瓶が終わると、男は手近な黒いゴミ袋を正確な比率で裁断し、ダクトテープで丁寧に張り合わせた。

荷造り紐を束ねただけの、あまりに無機質で頼りない「黒いクラゲ」。

カサカサと乾いた音を立てるその安っぽい膜に、彼は失ったコレクションの復讐を焼きつけた。


男は、深海のスープを、一滴の無駄もなく噴出瓶に充填する。

開封されるまで時の止まったスープは、まだ深海の奥底にいるかのような深淵の香りを漂わせた。


味覚という名の機能を服従させる、広域汚染兵器が完成した。

最後に、缶詰にも黒いクラゲを取り付けると、男は「鉄の箱」の補充口を開き、それらを投入した。


「……ふぅ」


準備は全て出来た。

後は、料理コンテストの開催を待つだけだった。

男は操舵輪を掴むと、戦場に向かってワンルームを浮上させた。

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