76話目
76話目です
誤字・脱字があったら申し訳ありません
最初に投稿始めてから10年経ちました。
長いですねー
詰め所にて目的のナイフを渡し、報告書も書き上げると、待っていたように外の電灯が光を灯した。
時刻としてはまだ夕方ではある。
しかし、寒さに押しやられて日が沈むのは早まってきている。
誰もが影を身に纏い、傍にいる人の顔だけを見て帰路を流れていた。
詰め所の窓の光がうっすらと届く歩道で、白の制服へと着替えに詰め所の更衣室を借りに行ったワッフルを待つ。
放課後でもある今の時間は俺達の前を通り抜けていく高校生も多い。その身が着る制服は午前中に幾度も見掛けたあの制服だった。
「進展無しかー……」
通っていく制服を横目に追いかけていたレグが、詰め所を囲む壁に凭れ、斜め上の空に向かって言葉を放った。
誰に向かってでもないその声に、詰め所の扉を見ていたクーシルがんーと唸る。
「明日、どうなるんだろうね?なんにも変わらなかったら、やる事なくなっちゃうよね?」
ナイフの結果を報告する為、朝に会ったあの女性の騎士に再び会いに行ったが、まだ捕まっていない残り二人の強盗犯について、状況の進展は何もないとの事だった。
元々、情報があまりに無いからと代わりの形で任されたのがナイフの捜索だ。
それが終わっても尚動きがないとなれば、クーシルの言うように明日の実地訓練に何も見通しが立たなくなる。
「無理矢理頼むわけにもいかねーしな」
「だよねー……」
あくまで俺達は学生という身分での協力者。
騎士側から迷惑になると思われない範疇での行動を常に心掛けなくてはいけない。
詰め所で実地訓練になり得る別の事件を探してもらうという手も考えには浮かんだが、途中まで進んだ事件を急になんの用意もなく、学院生に説明し、任せるというのも難しいだろう。
「どうしよう……」
ミミコ先生も俺の隣で、自分の髪を悩ましげにふわふわと撫でていた。
「あ、来た」
クーシルの声に詰め所の方を見れば、ブレザーを今まさに羽織りながら外に出てくる人間がいた。
背後の明かりで浮かび上がるのはシルエットだけだが、わたわたとした動きや背丈はそれだけでもワッフルと判別が出来る。
肩から大きなバッグを提げた影が俺達の前まで走ってきた。
「おまたせしました!変装完了です!」
「ちゃんとお礼言った?」
ミミコ先生が尋ねるとワッフルは強く頷く。
「もちろんです!なんだったら褒めてくれました!頑張ったねーって!」
満足げに微笑むワッフルに先生も釣られて笑い、それじゃあと全員で歩き出す。
この暗い状況に秘策を重ね、すっかり安心しているらしい。俺の隣を歩くワッフルに、横を抜けていく学生への焦りは見えない。
「あ、ランケさん。ちょっといいですか?持っててもらえます?」
急いで着替えてきたようで、ブラウスの襟や白の制服のボタンはまだ開いている。
バッグを肩に掛けながらそれを留めるのは中々難儀らしく、彼女が渡してきたのを受け取って肩に提げる。
手を楽にしたワッフルは電灯の下で立ち止まり、あちこちのボタンを一つ一つと留めていく。
遅れて俺も止まるが、他の四人は気付いていないようで距離がゆっくりと離れていく。
「オッケーです」
最後のボタンを留めたワッフルは、俺にバッグを渡すよう両手を伸ばしてくる。
「いい、このまま持ってく」
行きの時は中身が分からずに出来なかったが、服と分かれば持っていても良いだろう。
俺がベルトを肩に掛け直すと、隣からなんだか温かな吐息がくすっと聞こえてきた。
「ありがとうございます、ランケさん」
「少し離れたな。急ぐか」
「はいっ」
前を行く四人も遅れた俺達に気付いて立ち止まってくれている。
あまり待たせるわけにもいかない、ワッフルと並んで足を速める。
そんな時、道の角から聞こえてきた人の声。そして間もなく現れた二人組の女子生徒。
「うわっ」
「おぉっ」
道の端を歩いていたワッフルが同じく端を歩いていたその内の一人とぶつかりそうになり、咄嗟に躱そうと互いにたたらを踏む。
「ご、ごめんなさい……!」
「すいません、こっちも」
同時に頭を下げ合って、それではと横を抜けていく。
それからまた、今度はスピードを落として向かおうとした時、ちらと目の端に写った二人組の女子生徒、それもぶつかりそうになった方がこちらに振り返ったのが見えた。
「…………ほー?」
「へぁっっ!?」
名前らしいものを呼ばれた途端、ワッフルの身体が大きく跳ねた。
二人組の女子生徒、その片方がずんずんとこちらに迫ってくる。一歩踏みしめるごとに影が剥がれ、姿がはっきりとしていく。
身に着けている制服は着崩されているものの、何度も見掛けた高校生達の物と同じ。
そして、見憶えのある薄い黄色の髪が電灯に光った。
「やっぱほーじゃん。チュー、ほーいた」
呼ばれたチューという女子生徒も、赤い髪のお団子を跳ねさせてとたとたと駆けてくる。
俯いてだらだら汗を流し始めたワッフルを、一緒になって覗き込む。
「おー、ほーだな」
「ち、ちがう、ぜんぜん違うっ!ラ、ランケさん!借りますっ!!」
ワッフルがぴょんと跳ねて俺から帽子を奪い取り、ぶかぶかのそれを深く被って俺の背中に逃げ込む。
「絶対そうじゃん」
「ほー以外ありえん」
二人は俺の身体から左右に顔を出して、影に隠れるワッフルにやはりそうだと頷き合う。
この二人……写真で見たあの二人で違いない。
あの頃よりも雰囲気がいくらか大人びているが、それ以外で大きく変わったものはない。
薄い黄色の髪の女子が『モカモカ』と言い、赤い髪でお団子を乗せた女子が『チュー』という名前だった。
写真の中では止まっていた二人のあの瞳が、今は動いて俺を見上げてくる。
「ほーだよね?後ろの」
「ランケさん……!」
肩越しに後ろを覗けば、ワッフルが縋るような目付きをして手をぱしぱし背中にぶつけてくる。
彼女としては会う予定ではなかったのだ。
白の制服という秘策を無駄にさせない為には、誤魔化す他に手はない。
そうだよね?と確かめてくる二人に少し考えて言葉を放つ。
「か、彼女は……ワッフルではない」
「なんで『ほー』が『ワッフル』って分かるの」
淡々と返され、はたと気付く。
「…………そうだな」
「ランケさんっ!」
「すまない……」
べしべしと威力を増すワッフルの手に謝っていると、動かなくなった俺達を気にしてだろう、前にいた四人がこちらに向かってくる。
「えっ、あ、あれってさ……!」
「あー……まじか……」
「見つかっちゃったんだ……!」
あの写真を見た事のある先生たち三人は、目の前にいるモカモカとチューに目を丸くさせる。
「……あぁ」
シルバレードもそんな三人の反応に、変装をした理由が目の前にいる彼女らなのだと、おおよそを察したように息を小さくこぼした。
━━━━━ ━━━━━ ━━━━━
シルバレードがくしゅんと放ったくしゃみの音で、近くのファミレスに場所を変えた。
窓際の四人掛けのテーブルを二つ使い、片方のテーブルには俺とワッフル、そしてモカモカとチューが掛け、ミミコ先生とレグ、シルバレードにクーシルがもう一つのテーブルを埋めた。
色々話をする前にまずこちら側の自己紹介となったが、俺に順番が来るよりも早く店員が注文を取りに来た。
それぞれ決めた夕食を、ミミコ先生が取りまとめて伝える。
店員がそれを注文票に書き込み終えた時、チューと一緒に一つのメニューを見ていたモカモカが、あっと手を挙げた。
「山盛りポテト、いいですか?頼んじゃっても」
「うん、気にしないで」
今回のこの食事の代金は、全て実地訓練の費用から賄われる事になっている。
ミミコ先生から遠慮しないで良いと確認を取ると、シルバレードの隣に座るクーシルが続いてぴしっと手を挙げた。
「唐揚げ!唐揚げ単品のやつ追加で!」
「唐揚げですね」
これで終わりかと思ったが、ミミコ先生も読んでいたメニュー表にあっと声を上げて、店員に見せながら目を止めた場所を指差す。
「じゃあえっと、ごめんなさい。みんなに、このサラダ、一つずつでお願いします」
「かしこまりました。……以上でよろしかったでしょうか?」
「はい、お願いします」
「それでは繰り返させていただきます」
最後まで読み上げられた注文を聞いて、ミミコ先生がはいと返事をする。
注文票を仕舞った店員は節々にフリルの付いた制服を遊ばせて、店の奥へと歩いていった。
「危なかった……サラダ、見落としちゃってた」
持っていたメニュー表を先生が脇に片付けると、クーシルが腕をだらっとテーブルに置く。
「誰も意識して言わなかったのに……!」
「野菜もちゃんと摂らないとだよ」
「ファミレスはそういうの無しじゃないっすか……」
レグとしてもあまりサラダは気に入らないようで、クーシルとねー?なぁ?と視線で同調し合う。
ミミコ先生はそんな二人に大して取り合う事もせず、ソファ席に凭れたモカモカとチューに顔を向けた。
「頼んじゃったけど、二人とも大丈夫?お家でご飯もう用意しちゃってたり……」
特に何も言わずに付いてきた二人に、家での夕飯が無駄にならないか心配を尋ねる。
しかしモカモカは、薄い黄色の髪を大丈夫ですよとひらひら横に振った。
「今日、ちょうど外で食べてくるって奇跡的に話してたんで。行きたいお店あったんだよね?」
「また後日だな。オゴリのご飯のが美味い」
うむと相槌を打ったチューがこの世の真実だとばかりに言った事に、モカモカもそうそうと楽しげに顔を緩める。
ミミコ先生もまぁそれならと苦笑いをして、途中で止まった自己紹介を再開させた。
「えっと、それじゃあ次は……」
「クーちゃん聞いたんで、次はその、キレイな人ですね。ほんとキレイ……」
ソファ席に座るシルバレードをその雰囲気に若干緊張しながら、モカモカの手がそっと指す。
まばらに人のいる店内をぼんやり見回していたシルバレードは、あまり興味無さそうな顔でシンプルに応えた。
「シルバレード・ゼア・リーネス。言っとくけど、僕はクラス違うから」
「え、じゃあ何故ここに……」
「……なんとなくかな」
自分の唇を下から人差し指でぐにっと押して、少しの間を使い、シルバレードがこぼす。
「な、なんとなくで違うクラスいれんの……?学院って謎だわ……」
彼女の唇がそれ以上何も話す気がないのを察してか、二人の目は次に自分達の前に席を取る俺を捉えてくる。
「ランケ・デュード・グランドルだ」
「ランケか、良い名だな」
「あぁ、ランケだ。ありがとう」
赤い髪のチューが繰り返した名前に、間違いはないと金色の髪を頷かせる。
「で、ふっ、隣が……」
にやにやとしながらモカモカの視線は、俺の隣に座るワッフルへ流れる。
流石に諦めたのか俺から取った帽子は脱いで手に持っているが、その桃色の目は近くの窓を見て動かない。
「ワ、ワッフル・デュード・グラン……」
「ロロルね、知ってる」
「お母さんの名前も知ってるぞ」
「はぁ……」
諦めたように項垂れたワッフルからモカモカとチューは視線を外し、出来る限り背筋を伸ばしてこちらに身体を向ける。
モカモカはそこから更に制服の袖を捲って、幾分自由そうになった両手を太ももの上に置く。随分と律儀な振る舞いだった。
「それじゃあ、次はうちらがしないとですね。うちが『モカモカ』で」
「チューが『チュー』だ、よろしく頼む」
二人は作ったピースをくっつけて、いぇーいとにこやかに挨拶をする。
クーシルがそれに元気良く応えた。
「よろしくねっ!モカモカ、チュー!」
「クーちゃんもピースくっつけよーぜー!」
「おー!なにこの目的のない形ー!」
「はぁぁぁ……」
クーシルと和気藹々で盛り上がる二人に、ワッフルが長いため息をこぼす。
こんな風に呆れているワッフルは中々見たことがなかった。
「はー……でも、けっこう雰囲気変わったね……!」
二人をまじまじ見ていたクーシルが無意識そうに口にする。
写真の頃と頭の中で見比べたのだろうが、クーシルに知られているとは思っていないモカモカは、当然不思議そうに眉を寄せる。
「えっ?クーちゃん、初対面だよね?」
「はっ……!」
しまったと口を手で抑えたクーシルにワッフルは大丈夫ですと視線で伝え、モカモカのはてなに訳を明かす。
「写真、持ってったの」
「あ、そうなの?いつのやつ?」
「中学の。教室で撮ってもらったやつ」
具体的な時間を聞き、モカモカがあーはいはいはいと心当たりを見つける。
「ララ先がカメラ買って、試しでって撮ったやつか。なつー」
「そんなのもあったな。……そうだ、ララ先、最近結婚したぞ」
「ほ、ほんと!?先生が!?」
「ちょっと前に会って聞いた」
冷めたような態度だったワッフルも、席を立ち上がる勢いでその昔の担任だろう人の結婚話に興味を示す。
「じゃなくて……!」
が、すぐに冷静になって、浮かしたスカートをおずおずと席に落とす。
それから睨むと言うには少し弱いものの、鋭い目付きで前の二人を刺した。
「て、ていうかだけど、なんでわたしって分かったの?」
一番聞きたかった所なのだろう、尋ねる声にはちゃんとした説明を求める力が込められていた。
「や、分かるでしょ」
片やモカモカの方は大した話ではないと語るように、あっけらかんとした声で軽く答える。
茶化している、というよりも、そうなるのが当たり前だとでも言うようなトーンだった。
「で、でもほら、白の制服だよ!?ゆ、有名でしょ?髪だって染めてるんだし……!」
ワッフルは白の制服を二人に見せつけながら、ピンク色から濃い紫になった髪の毛を指で伸ばす。
どうしてなのかと迫る彼女のその顔を、モカモカは一点に見つめた。
「顔、普通にほーじゃん」
「か、顔……」
「昔のまんまだ」
チューの言葉が納得のダメ押しになったのか、力の抜けたワッフルから小さな声だけがこぼれる。
「か、顔かぁ……」
「なに?変装してたってこと?髪、丸々変えたのも、それだけの為にで?」
「せ、制服はそう……。髪は……か、賢く、見えるから。が、学院デビューしてみたの」
俺の時には力強く言えたことが、昔からの友人となると途端に弱々しく、自信を無くした目が右に逸れる。
その窓の先では歩道に植えられた街路樹がみな、風で同じ方向に穏やかに流されていた。
かたりと震えた窓の音に混じって、モカモカからふっと小さな微笑むような吐息が聞こえた。
「ま、いんじゃない?似合ってるし」
「そう?……バカにしてない?」
「してない本気。……あ、そうだそうだ。それよりさ、言い忘れてた事ある」
そう言うとモカモカはチューにのしかかるように身を寄せ、こそこそと耳打ちをする。
何かを伝えられたチューはふむと息を吐いて、分かったと言葉を返す。
「モカモカ?チュー?」
頭にはてなを浮かべるワッフルを二人が正面に見据える。
そして、優しげで温かな声を一つに揃えた。
「おかえり、ワッフル」
そう口にした二人の笑顔は、写真で見たあの時の笑顔に実にそっくりだった。
「…………ただいま」
二人からの再会の言葉に恥ずかしそうに頬を赤く染めながら、つんと尖った唇が返事をする。
湧き出る嬉しさを誤魔化そうと必死にむくれる、いじらしい子供のような横顔だった。
「ま、まぁでも、あんまり一緒にはいられないからね。実地訓練あるもん」
恥ずかしさを振り落とすように、ワッフルはそそくさと話を変える。
毎月行う俺達にはとても馴染みのある言葉だが、二人の顔には初耳の色が出る。
「実地訓練とはなんだ?」
「仕事?あ、課外学習的な?」
共にその言葉の意味を紐解こうとして、むっと眉を内に寄せる。
「まぁ、そんなとこかも。それでロプトーン来たの」
「うちらに会いたくなってじゃなかったんだ……」
「実地訓練、明日なんにも決まってないけどね」
クーシルが困った笑みで八重歯を見せ、今日迎えた結末を口にする。
どうなるか分かってはいないが、この状況で行けば明日は何も無い可能性が高いだろう。
「そうですけど、流石に二人とどうこうはダメですよ」
が、どうあっても実地訓練は実地訓練。
眼鏡の奥を真剣な目にして、ワッフルは厳しく一線を引く。
と、食事の匂いが鼻を付いた。
フリルを遊ばせて、店員が配膳用のワゴンをカラコロと押してくる。
載っているのは俺達が注文した料理のみ。途端に全員の気が緩み、それぞれ椅子やソファに背中を押し付ける。
俺達の前でワゴンは止まり、その一番上にあった鉄板を店員が慣れた所作で取り上げた。
「こちらは……」
店員が置き場所を尋ねると、クーシルが腕を上に伸ばす。
「はいっ!あたしですっ!あたしのハンバーグ!」
「鉄板、お熱くなっているのでご注意ください」
他にも各自注文した物が、テーブルにコツコツと音を立てて並べられていく。
埋まったテーブルの上でカトラリーの渡し合いを終えると、立ち上る湯気でうっすらと隠れながら、全員でいただきますと手を合わせた。
━━━━━ ━━━━━ ━━━━━
きっちりデザートまで食べ切って、ファミレスでの時間が終わりを迎えた。
終始話は弾んでいたがそれでも話し足りなかったようで、モカモカとチュー、そしてワッフルは、信号の近くで何か口を動かしては、溢れてきたような笑みを見せ合う。
そんな楽しげ様子を車道を挟んだ場所から見守っていると、クーシルがジャージからカメラを取り出した。
人波から外れ、信号の赤みに光る三人をレンズが捉える。
笑顔が三つ揃った時、シャッターがパシャリと切られた。
「いいの撮れたかも」
「ふふっ」
クーシルとミミコ先生が微笑み合う中、銀色の髪が俺の腕をわずかに掠めてくる。
「ね」
「ん?」
「あっち」
シルバレードの視線はワッフル達の方を向いておらず、全く別の道を一点に見つめていた。
「なに?なんかあったか?」
「いや……」
レグも俺とシルバレードの向く方に視線を合わす。
そこでは人波に紛れて騎士が何やら別の騎士に話し掛けていて、聞いていた方が途端急ぐように、話し掛けていた騎士と連れ立ってどこかへ走り去っていく。
「あれは……」
「……また捕まったりしてな」
似たような光景を昨日も俺達は見ていた。レグも同じ記憶が蘇ったと言葉にする。
「…………分からんな」
気にはなるが追いかける訳にもいかない。
見えなくなった騎士から視線を戻すと、三人に動きの変化があった。
笑い合う事を済ませ、今度は頷きが増え出す。
ここからでは何も聞こえないが、そろそろ話も終わるのだろう。
ワッフルが最後にうんっと大きく頷くと、青に変わった信号を見て横断歩道をとたとた駆け足で渡ってくる。
走り出した彼女を見送るモカモカとチューが、こちらに向けて折り目正しい一礼をした。
「ご飯、ありがとうございました!それじゃあ!」
「バイバイだ!」
ミミコ先生に頭を下げ、全員に別れの言葉を口にした二人はくるっと背中を向ける。
「じゃあなー!」
「またねーっ!」
レグとクーシルが腕ごと大きく手を振り、俺も頭を少し下げて別れの会釈をする。
小さくなっていく二人も上半身を捻って、見送るこちらに手を振り返してくる。
「ほー!頑張ってねー!」
「実地訓練、ちゃんとやるんだぞー!」
後ろ髪引かれたのか背後を覗いたワッフルに、二人が明るい笑顔を見せつける。
「んー!じゃあねっ!」
殊更大きな声で唸って、ワッフルは二人に別れを叫ぶ。
響いた彼女の声に満足げに表情を崩した二人は、道の先へと駆け出していった。
「おまたせしました!それじゃあ行きましょう!」
道を渡りきったワッフルがにひっと笑う。
「いいのか?これっきりかもしれないというのに……」
もはや二人の姿はどこにも見えない。
明滅していた青い光も消え、赤が厳しく立ち塞がっている。
それでも尋ねてしまった俺に、ワッフルは明るい声で答えた。
「大丈夫です。めっちゃ話せましたから!」
そう言って、ホテルへの方向に躊躇いも無く彼女は進み出していく。
少し物悲しくもあるが、それがワッフルの決断なのだ。
空もかなり暗くなってきた。暗さは人の足を速めさせる。
昨日よりも少しだけ吸い慣れたこの街の空気は、家路へと促すかのようにその冷たさを増していた。




