3 悪魔の声
所詮、作者の想像に過ぎないかも知れない。
けれど、今起きている事が本の事とあまりにも似すぎている。
もし南が本当に悪魔に取り憑かれているのであれば非常に危険だ。
廊下を走り抜けて下駄箱でローファーに履き替えてから、もう一度携帯を使って南に電話を掛けた。
やはり何回鳴らしても電話に出てくれない。
「お願い。無事でいて……っ」
いつ電話がきてもいいように携帯を握り締めたまま、南の通う塾までの道のりを一直線に走り続けた。
最初に莉菜が南へ電話をする数分前、南は塾に向けていつもの道を真っ直ぐ歩いていた。
南の塾は、今歩いている小さな商店街の道を真っ直ぐ道なりに進み、大通りの並びにに建てられているビルの二階だ。
教室のフロアが結構広い為、一クラスに四十人いてもスペースに余裕がある。
クラスは入学の時に受験した成績順に別れていて、きちんとしたカリキュラムだと奥様方には結構評判がよかったりして、近所では人気の高い塾だ。
けれど、歩いている南の表情は決して明るいものでは無く、誰がどう見ても気持ちが沈んでいるのは一目瞭然だった。
別に、塾に行くのが嫌だからといったわけではない。
塾とは関係無しに、親との距離感で悩んでいるのだ。
いつも慕われるのは成績優秀な姉の方ばかり。
姉は勉強も、スポーツも全てが完璧で、一方の南は姉とは全く正反対である。
高校に入ってから勉強にもついて行けず、スポーツも苦手、姉は両親に誉めてもらえるが、いい成績を残せない南は誉めてもらった事が一度もない。
「お姉ちゃんは優秀なのに、どうしてあなたは駄目なのかしらね」
いつも姉と比べられて、そう毎日母親から怒られる事に慣れてしまっている自分がいたりする。
でも、やはり誉めてもらいたい気持ちはあるわけで、両親に頼んで塾に入れてもらった。
なのに、成績は上がりもせず下がりもせず平行線を辿るばかりで何一つ変わらなかった。
一気に成績を上げて母親に誉めてもらいたかったのに、このままでは怒られる事から抜け出せない。
どうにかしなきゃという気持ちがプレッシャーになり、日に日に焦りが募っていく。
「お姉ちゃんなんか、いなくなればいいのに……っ」
つい酷い言葉からポロリと出てしまった。
どうしようも出来ない気持ちのやり場に拳を作ると、
《ソレガオ前ノ闇カ》
背後から奇妙な声が聞こえた。
バッと振り返っても誰もいない。
聞こえた筈の声の主はどこにも姿が見えず、恐怖でぶるりと身体が震え立つ。
さっさと塾に向かおうと一歩踏み出した時だった。
鼓動が一段と大きく跳ね上がった。
その瞬間、手も足も動かなくなってしまった。
《ドウダ?我ガオ前ヲ楽ニシテヤロウカ?》
「……楽、に?」
さっきまで姿見えない声に怖いと感じていたのに、気が付けばその声に心を委ねている南。
《イツモ誉メラレテバカリノ姉ガ憎インダロ?》
そうだ。
いつも両親から溺愛されている姉が憎い。
憎くって憎くって仕方がない。
「……憎い」
南の言葉に反応するように、体にまとわりついているモヤが身体を包み込んだ。
《我二身ヲ委ネヨ。サスレバ、オ前ノ願イ叶エテヤロウ》
言葉を受け入れた南の瞳は完全に生気を失い、力を失った手からは鞄がすり抜けて落ちた。




