高次元電磁砲
「お前らは子供たちを連れて避難しろ! 急げ!」
鼓膜を突き破らんばかりのアラームの中で、俺は喉が裂けるほどの声を張り上げた。
引き取った孤児たちを怯えさせまいと、若い構成員たちが必死に子供たちの肩を抱き寄せ、奥の防空シェルターへと誘導していく。
「ボ、ボスはどうするんですか!?」
「こいつは俺がここで食い止める。時間稼ぎくらいは……!」
——そう、言いかけた、その刹那だった。
言葉の後半は、鼓膜を灼く轟音にかき消された。
視界が真っ白に染まる。ルミナスの指先から放たれた『高次元電磁砲』が、アジトの堅牢な隔壁ごと空間を撃ち抜いたのだ。
改造された俺の肉体と、展開した電磁シールドが、かろうじて俺自身の直撃を防ぐ。だが、凄まじい衝撃波が全身の骨を軋ませた。
煙が引いた瞬間、俺の目は、さっきまで言葉を交わしていた部下のいた場所を捉えた。
そこにはもう、誰もいない。
半径数メートルが、一瞬にして完全な消し炭と化していた。さっきまで生きていた人間が、形すら残さず、ただの黒い灰の塊に変わっている。
ルミナスは、その灰を「邪魔ね」とばかりに退屈そうにつま先で蹴り飛ばし、こちらへ歩み寄ってきた。
「あーあ、だるーい! これ撃つと、再充電に丸1日かかるのにさー! ほんと、一発で死んでくれない雑魚って、コスパ悪くて嫌い」
頬を膨らませて愚痴をこぼす姿は、まるでお気に入りのおもちゃを汚された子供のそれだ。
だが、その瞳に宿る冷徹な殺意を、俺の見識は見逃さない。
「……っ!」
次の瞬間、ルミナスの姿が視界から消えた。
いや、速すぎる。
「まずは、その生意気な顔から潰してあげる!」
一気に距離を詰めたルミナスの拳が、空気を爆裂させて俺の顔面に迫る。
『魔法少女』というメルヘンな肩書きのくせに、奴は国の最高科学が結集した白兵戦のバケモノだ。その徒手空拳には一切の隙がない。
ドガッ!!!
交差させた両腕で辛うじて受け止める。だが、改造を施した俺の骨が悲鳴を上げ、足元のコンクリートが蜘蛛の巣状に爆砕した。
「あはは! 止めた! すごーい、おじさん結構硬いんだね!」
間髪入れずに放たれる、回し蹴り、正拳突き、容赦のない打撃の嵐。
研究し尽くしたはずの彼女のモーション。頭では分かっている。軌道は見えている。
しかし、圧倒的な質量と速度を前に、俺はただ耐えることしかできない。
防戦一方。
防壁を固める俺の腕の隙間から、大人の女の艶然とした笑みと、無邪気な子供の残酷さを湛えたルミナスの瞳が、楽しげに俺を見つめていた。




