魔法少女との邂逅
「くそっ、また、持たなかったか……!」
訓練室の冷たい床に膝をつき、俺は荒い呼吸と共に血を吐き出した。
全身の細胞が、皮膚の裏側で悲鳴を上げている。
この身体には、両親の手によって特殊な改造が施されている。
人類の科学の限界を超えたルミナスの圧倒的暴力。あれに対抗するためには、生身の肉体のままでは掠っただけで即死する。だからこそ、俺は自ら志願して、この「化け物に対抗するための肉体」を手に入れた。
強大な力には、相応の負荷が伴う。しかし、悔やんでいる時間も、痛みに蹲っている暇もない。
目を閉じれば、浮かんでくる顔がある。
研究に没頭し、滅多に家に帰れなかった両親の代わりに、幼い俺を育ててくれた組織の古参の仲間たち。不器用ながらに俺を我が子のように愛し、飯を食わせ、戦い方を教えてくれた彼らもまた——その大半が、この10年の間にルミナスに殺された。
仲間を守れなかった悔しさに、涙を流す猶予さえ世界はくれない。
俺がすべきことはただ一つ。奴を打倒する力を得るために己の心身を極限まで鍛え上げ、そして、手に入れた膨大な戦闘データからルミナスの戦い方を、その癖を、呼吸を、研究し尽くすことだけだ。
——そして。
ついに、その瞬間が訪れた。
けたたましく鳴り響く警告アラーム。崩落する本部の天井から差し込む、不気味なほど純白の光。
硝煙と瓦礫の煙を割って、ゆっくりと舞い降りてきた影。
「見ぃつけた。ここが、害虫たちの新しい巣ね」
直接対峙するのは、これが初めてではない。だが、至近距離でその姿を捉えた瞬間、俺の胸に冷たい何かが去来した。
そこにいるのは、10数年前の古い写真に写っていた、あの可憐で無垢な『少女』ではなかった。
月日は流れ、彼女の身体はすっかり成熟した『大人の女性』へと変貌を遂げている。出るところが出たしなやかな肢体、妖艶さすら感じさせる美貌。
しかし、その歪な微笑みを見た瞬間、確信した。
この女の精神は、あの頃から一歩も進んでいない。万能の力を与えられ、周囲に全肯定され続けた結果、おもちゃを壊して喜ぶ『幼い少女』のままで止まっているのだ。
「さあ、おじさんたち。今日も楽しく、正義の処刑を始めましょう?」
大人の肉体に、怪物の力、そして残酷な子供の心。
世界が恋い慕う、最悪の『魔法少女』が、目の前で嗜虐的な笑みを深めた。




