組織の誕生
「国家がその過ちに気づいた時には、すべてが遅すぎたんだ」
俺はデスクの引き出しから、古い1枚の写真を引っ張り出した。
白衣を着て、まだあどけなさが残る被験者の傍らで穏やかに微笑む、若き日の父と母。
そう、俺の両親もまた、あの怪物をこの世に産み落とした科学者の一員だった。
ルミナスが暴虐の道へと走り出し、国家さえも盲目的な賞賛に狂っていく中で、両親は誰よりも早くその危機に気づいた。自分たちが創り出してしまった「正義という名の災厄」に、激しい罪悪感を抱きながら。
だからこそ二人は、数年間にわたり綱渡りの裏切りを続けた。秘密裏にルミナスの研究データを盗み出し、同時に国家の目を盗んで巨額の資金を横領。
いつか訪れる決戦のため、ルミナスに対抗しうるこの組織をゼロから作り上げたのだ。
そして両親が遺した最大の切り札であり、最大の皮肉が、今も俺たちの活動を支えている。
手元の端末に、目まぐるしく変動するチャートを表示させる。
画面に浮かび上がるのは、国家がルミナスの膨大な維持費・製造費を賄うために発行した専用仮想通貨——『ルミナスコイン』。
世界中の盲信的な信者たちが「正義への寄付」として買い漁るこの暗号資産の裏で、その発行トークンの大半を握っているのは、他でもない『悪の組織』である俺たちだ。
国家の喉元に刺さったトゲのように、両親が仕込んだシステムは今も健在だった。ルミナスコインの価格が高騰すればするほど、その差額益が自動的に我が組織の口座へと流れ込む。
「自分を維持するための金が、自分を殺すための武器に変わっているとも知らずに……滑稽だな」
ルミナスの輝かしい活躍がメディアを賑わせ、コインの価値が跳ね上がるたび、俺たちの武器や防具、そして引き取った子供たちのための食料や教育費が充実していく。この圧倒的な矛盾こそが、俺たちが10年間、国家と化け物を相手に戦い続けられた理由だった。
両親は殺された。だが、彼らが遺した牙はまだ折れていない。
「父さん、母さん。あなたたちの贖罪は、俺が引き継ぐ」
ルミナスを創ったのが両親なら、それを終わらせるのはその息子の役目だ。
潤沢な資金の数字を確認し、俺は静かに戦意を研ぎ澄ませた。




