正義は必ず勝つ
床に蹲み、虚ろな瞳で俺を睨むルミナス。その弱々しい姿が、あの日、崩壊したビルの片隅で親の亡骸にすがりついて泣いていた子供たちの姿と、不意に重なった。
胸の奥が、嫌な音を立てて軋む。
理不尽な暴力を振るう化け物だと思っていた。だが、その中身を完全に叩き壊して残ったのは、誰かが支えてやらなければまともに息もできない、ただの歪な子供だったのだ。
「……勝たなきゃ、正義になれない、か」
俺は自嘲気味に呟いた。
『正義は必ず勝つ』。ルミナスがかつて無邪気に口にしていたその言葉は、裏を返せば「勝った者が正義であり、負けた者はどれだけ理があろうと悪になる」という、この世界の冷酷な仕組みそのものだ。
俺たちは勝った。だから今、こうして新政府を名乗り、ルミナスを悪として裁いている。だが、大衆はもう俺たちに飽き、新たな不満の矛先を探している。この終わりのない「正義と悪」の椅子取りゲームに、俺自身、もう心の底から疲れ果ててしまっていた。
何より、俺には誰にも言えない秘密があった。
「俺もお前と同じなんだよな……」
俺は自分の手のひらを見つめた。
先の戦いで負ったはずの、骨まで達する大怪我や、超高温の火炎による大火傷。それが、わずか数ヶ月で跡形もなく、完璧に再生してしまった。組織の医療班が極秘裏に下した診断は、俺の絶望を決定づけた。
両親が施した「化け物に対抗するための改造」。それは、ルミナスと同じ、食事も睡眠も必要としない、実質的な『不死の肉体』を俺に与えていたのだ。
ルミナスを倒せば、すべてが終わると思っていた。両親の贖罪も、仲間の仇討ちも、すべて終わって、いつか静かに眠れるのだと。
だが現実は違った。俺にはこれから、気の遠くなるような、終わりのない永劫の時間が残されている。何を目的として、どう生きればいいのかさえ分からない、底なしの絶望。
目の前で蹲る、心を失った不死の元・魔法少女。
そして、権力の頂点で孤独に佇む、死ねない身体になった元・悪の組織のボス。
俺たちは、この歪んだ世界が生み出した、全く同じコインの裏表だった。
「……捨てるわけじゃない」
俺は、部屋を出ようとしていた足を止め、ゆっくりとルミナスの方へ振り返った。
ナイフのように鋭かった俺の声から、いつの間にか棘が消えている。
「お前が一人で歩けないというなら……俺が、その手を引いてやるしかないだろう」
それは、かつての仇に対する情けだったのか、それとも、同じ永遠の絶望を背負う者への、同病相憐れむ義務感だったのか。
ルミナスが、信じられないものを見るかのように、ゆっくりと顔を上げた。虚ろだった彼女の瞳に、ほんの一筋、微かな光が灯る。
誰もいなくなった世界で、死ねない二人の、あまりにも静かで奇妙な対話が始まろうとしていた。




