旅立ち
「手を引いてやる」と言ったその足で、俺はルミナスを連れて、組織が運営する子供たちの集まる施設へと向かった。
もちろん、中にまでは入らない。子供たちがかつての化け物の姿を見て怯えるといけないからだ。俺たちは、敷地の外にある、彼らの姿が遠くに見える丘の上に立った。
窓の向こうでは、かつてルミナスの足に縋りついたあの子たちが、仲間たちに囲まれて笑顔で笑い合っている。
「ここには……俺たちの戦いに巻き込まれて、親を失った子供たちがたくさんいる。俺は、あの子たちの盾になると決めたんだ」
俺の言葉を聞きながら、ルミナスは遠くの子供たちを見つめていた。
やがて、彼女はハッとして自分の頬に触れた。拷問のような大衆の罵声の中でも、もう完全に枯れ果てたと思っていた涙が、再び溢れ、温かく指先を濡らしていたことに驚いていた。
自分が何を壊したのか。その罪の深さを理解すると同時に、壊されたはずの命が、こうして泥の中で必死に、健気に生きようとしている光景が、彼女の壊れた心を優しく包み込んでいく。
「……う、ぐすっ……」
言葉にならない声を漏らし、子供のように泣きじゃくるルミナスに、俺はそっと胸を貸した。
俺のコートを掴み、声を上げて泣き続ける彼女の背中を、ただ静かに抱きしめる。
正義とか、悪とか、もうどうでもよかった。
俺たちがここでどれだけ苦悩しようとも、どうせ放っておけば、世界はまた誰かを正義に祭り上げ、誰かを悪と呼ぶ不毛な戦いを始めるだろう。
もう、そんな終わりのない戦いの中枢に身を置きたくない。お互いに、そんな疲弊しきった気持ちだった。
それから、数ヶ月後。
俺は新政府のトップの座を降りた。これからは、俺以外の人間たちがこの国の舵取りをしていく。
肩書きをすべて捨て、ただの男に戻った俺は、すっかり落ち着きを取り戻したルミナスに語りかけた。
「旅にでも出るか」
「どこに?」
「いろんなところに行こう。そして、人間のキレイなところも、愚かなところも、すべてをこの目で見に行くんだ」
「それって……面白い?」
少しだけ首を傾げる彼女に、俺は小さく苦笑した。
「そんなのは、俺にもわからん。でも、1人で永遠を生きるより、2人のほうが楽しいはずだ。少なくとも、話し相手には困らない」
俺の言葉に、ルミナスは一瞬だけ目を見開き、それから——かつてメディアで見せていた偽りの笑顔ではない、年相応の、穏やかで本当の笑顔を浮かべた。
「うん。……そうだね。」
そして、俺たちは誰にも知られることなく、歴史の表舞台から静かに消えた。
それからの俺たちの足跡は、どんな記録にも、歴史の教科書にも、どこにも残らない。ただ、死ねない身体を持った二人が、今日もこの世界のどこかで生きている。
ただ、それだけの存在になった。




