解放
「これ以上の茶番は不要だ。直ちにルミナスを回収し、磔台を撤去しろ」
民衆の間にじわじわと広がる不満の芽を摘むため、俺は迅速に動いた。これ以上あいつを晒し者にしておけば、新政府の足元がすくわれかねない。何より、あの場所はすでに「断罪の場」ではなく、大衆の身勝手な娯楽場へと成り下がっていた。
数時間後、3年ぶりに十字架から下ろされたルミナスは、新政府の秘密施設へと移送された。
頑強な拘束具はすべて外されたが、その両手には、魔法の連続発動をジャミングして無効化する特殊な機能手袋が装着されている。
……だが、そんな大層な備えなど、今の彼女には必要ないことは一目で分かった。
虚ろな目で床に座り込む彼女の細い手足には、かつて世界を恐怖に陥れた暴虐の面影など、欠片も残っていなかった。
俺はゆっくりと彼女に歩み寄り、冷徹に、しかしどこか静かな声で語りかけた。
「もうお前を罵倒する人間はいない。……もちろん、お前が犯した罪が赦されたわけではない。だが、お前はもう二度と、自分の意志でも誰かの命令でも、人を傷つけるような真似はできないはずだ」
俺は彼女を見下ろし、部屋の扉を指し示す。
「これからは、自分の足で、自由に歩いていけ」
それが、かつて世界を狂わせた『傀儡の魔法少女』へ、俺が与えられる最後の処遇だった。新政府の庇護下から追い出し、ただの無力な人間として、この新しい世界で静かに生き、そして死ねない肉体のまま老いていけ、と。
だが、ルミナスは感情の消えた顔をゆっくりと上げ、「え?」という、心底理解できないといった表情でこちらを見た。
「自分の足で歩け……? そんなのできるわけないじゃん……」
彼女は力なく自嘲するように笑い、涙の枯れ果てた、虚ろな瞳で俺を睨み据えた。
「自由って、なに……? 何それ。私には、お父さんもお母さんも、国の人たちも、みんな『こうしなさい』って言ってくれた。敵を殺せば、みんなが『ルミナスちゃんすごい』って褒めてくれた。……私は、言われた通りに戦うことしか知らないの。自由になんて、されたら……私には、何も残らない……」
彼女の声は、低く、重く、部屋の空気に溶けていく。
「そう言って……何もできない私を、捨てるのね。また、私を一人にするんだ……」
かつては世界を滅ぼしかけた化け物が、今はただ、親に置き去りにされる子供のように怯え、俺を呪っている。
命令してくれる主を失い、全肯定してくれる観客を失った彼女にとって、「自由」とは救いなどではなく、暗闇の荒野に一人放り出されるのと同義の、最も残酷な刑罰だったのだ。
縋るような、それでいてすべてを諦めたような彼女の視線を浴びながら、俺は何も答えず、ただ静かに背を向けた。




