言葉の刃
旧政府の主要人物たちは、国民の怒りと司法のメスによって、そのほとんどが処刑台へと送られた。だが、不死の身体を持つルミナスに、死による救済は与えられない。
俺が彼女に用意した断罪——それは、広大な中央広場に特製の十字架を建て、そこに彼女を磔にすることだった。
遮断マスクは外され、かつて世界中が熱狂したその美貌は、いまや民衆の前に晒されている。
そして俺は、彼女に罵声を浴びせることを国民に許可した。
「よくも、よくも私の娘を! 人殺しの化け物!!」
「正義の味方ぶって、俺の家も店も全部めちゃくちゃにしやがって!」
「死ね! 死ねないなら、一生そこで苦しめ!!」
連日のように、広場には人が押し寄せた。ルミナスの『正義の戦い』によって家族を、友人を、家や財産、あるいは平穏な日常を奪われた人々だ。地を震わせるような怒号と怨嗟の言葉が、容赦なく彼女の耳へと突き刺さる。
不死の肉体を持つ彼女にとって、石を投げつけられようが、銃弾を撃ち込まれようが、肉体的な傷はすぐに塞がってしまう。
だが、この「世界中からの凄まじい拒絶」は、どんな物理的な刃よりも、彼女の精神を深く、残酷に切り刻んでいた。
「みんなに褒められたい」「認められたい」という純粋で歪んだ承認欲求だけを原動力に、化け物へと成り上がった元・魔法少女。彼女にとって、昨日まで自分を崇めていた大衆から「悪」と指さされ、 呪われることこそが、最大の劇薬であり絶望だった。
「ごめんなさい……ごめんなさい……っ!」
十字架の上で、ルミナスは枯れた声を絞り出し、涙と鼻水に塗れながら何度も謝罪の言葉を口にした。
しかし、その謝罪が響くことはない。
どれだけ涙を流そうとも、死んだ人間は生き返らない。失った財産も、壊された人生も、二度と元には戻らないのだ。
何より、彼女には自分が犯した罪の総量を、その重さを一人で背負いきれるだけの「覚悟」など、最初から持ち合わせていなかった。万能の力に甘え、全肯定のぬるま湯に浸かっていた子供の精神には、何万人もの遺族の恨みはあまりにも重すぎた。
「あ、あは……ちがうの、私は……私は、ルミナスちゃん、だよ……? みんな、応援、して……?」
数週間が経つ頃には、彼女の瞳から光が完全に消え失せていた。
向けられる罵声に対してまともな言葉を返すこともできなくなり、ただ虚空を見つめ、壊れた玩具のように、ぶつぶつと意味をなさない譫言を繰り返す。
世界中から向けられる憎悪の嵐の中で、かつて世界を震撼させた魔法少女の心は、内側からゆっくりと、確実に崩壊していった。
俺は広場を見下ろすバルコニーから、その光景を静かに見つめていた。
両親や仲間たちの無念が晴れたわけではない。だが、これが彼女の、そして彼女を怪物に仕立て上げたこの世界の「ケジメ」なのだ。
俺は背を向け、新政府の執務室へと歩き出す。
狂った時代は、ようやく終わりを迎えた。これからは、生き残った子供たちのために、新しい未来を築いていかなければならない。




