9話 まとめと確認と喧嘩
Side:コーダル・アルフォン 蜥蜴獣人
『闘士の門』現ギルドマスター
世の中、訳の分からない事が沢山ある。
そんな事など分かっていたつもりだった。
この国、獣国レオナルドの貴族として生まれ、物心ついた時に、【闘士の門】のギルドマスターとなった時に、不測の事態など沢山経験するであろう事を。
それに対する覚悟を、しっかりとスレイや教育係の皆と共に学んできた。
しかし、自分の想像以上の事が起こった時、しっかり対応できているのか。もっと上手く対応出来ただろう。問題を解決した後、いつも考えてしまう。
今まで様々な問題と対峙してきた。
特に酷かったのは、この国の冒険者ギルド支部のギルドマスターの件だった。
最近、というか5年程前に、私が15才の時、冒険者ギルドのギルドマスターが変わった際、【闘士の門】ギルドマスターとして挨拶に行った時には、『獣人風情が俺と同等の立場など腹立たしい!この支部では、人族以外の冒険者は認めん!獣共が冒険者になることも認めん!』とかふざけた事を真剣な目で言い切った。
怒りより呆れが勝ってしまった。スレイはもちろん獣王様達と一緒に抗議を行ったが、全て門前払い。
私はともかく、獣王様達までもその対応なのには流石に許せず、冒険者ギルドのトップであるグランドマスターへ抗議文を送ったが、どうもグランドマスターも変わった様で、こちらの意見を全て無視してきた。
獣国レオナルドはグランドマスターの対応の結果に、しっかり行動で示す事に。
というか冒険者ギルドマスターの手下みたいな冒険者達が、獣国レオナルドの依頼を受けなくなったので、それに対応する為だが。
街道の安全を守る為に、国軍の兵士を新たに作った部隊に編成。冒険者の仕事である護衛等の依頼を新たな部隊の仕事とした。
この国の支部の冒険者ギルドが、人族以外の者の護衛に、法外な値段を付け始めたのが、護衛部隊の編成の理由の一つではあるが。
【闘士の門】も魔物討伐等をしたりしていた為、国軍と協力体制をとる事に。
あぁ、後魔導士ギルドに関しても、冒険者ギルドと同じく人族以外は門前払いをしている。
人族だろうとなかろうと、魔法を扱う才は人それぞれであるはず。
なのに、ここ最近の魔法ギルド全体は、人族以外の者は『魔法を扱う資格無し!』等、どうもおかしい。
スレイや獣王様達に相談し、本格的に調査を行おうと国全体で決めた所だった。
その様な話をした翌日、我ら【闘士の門】が最近購入した土地に、ダンジョンの入り口が出現した。
土地の所有者が結婚の為別の国に行く事となり、住んでいた古家を解体して土地を売りに出した、そこそこの広さの土地。
【闘士の門】のギルド本部の建物の近所にあり、闘士の人数が多くなり、闘士用の自室の為の建物が必要となった為、その土地を購入しようという話になった。
他の商会もその土地を欲していた為、少々時間がかかってしまったが、無事土地の権利を購入できた矢先、その場にダンジョンが出現。
せっかくの土地にダンジョンとはついてない。それと同時にありがたい事だとも思った。
この辺にいない魔物の素材が手に入るかもしれない事と、分かりやすく力を示す機会が出来たかも、と思った。
街中に出てきてしまった危険な物でその様な考えはいけないだろうが。
冒険者ギルドと魔導士ギルド。両方に分かりやすく力関係を見せられるかもと、そう思ってしまった。
【闘士の門】だけで解決をと思ったが、街中で何が起こるかわからないダンジョンの対応を、一つの勢力で対応出来るだろうかという懸念が出てきた。
対応出来る自信はあった。【闘士の門】の人達は皆やる気であったし、冒険者の仕事をしている者達もいたので、ダンジョン内の適応力も高いのも知っていた。
だが、それでも街や市民に被害を出さずに制圧出来るか。入り口が一つしかないのか。この入り口は囮でダンジョンマスターがこの国を落とす為、勢力の分断を図っている可能性は。
様々な不安要素を考えた結果、国軍・冒険者ギルド・魔導士ギルドに連絡の為使者を走らせた。
ダンジョンマスターに関しては、本当にもしかしたら程度ではあった。
ダンジョンマスターが自ら出てきて人を襲う事は稀で、この獣国の領内では確か25年ほど前に、魔物が村を襲い焼き払ったという事件があったらしい。
私が生まれる前の出来事だったが、獣国レオナルドにとって大事件なのに変わりはない。
その時明らかに人の姿をしていた者が魔物を操っていたと目撃証言が多数上がっていたらしい。
その後、ダンジョンマスターらしき人物の目撃証言は出て来ず、調査も打ち切りとなっている。
このダンジョンに関しての話に戻る。
国軍、というか獣王様が直々に来るかな、と少し思っていたが、本当に本人が来るとは。
ゴドさんは止めないだろうし、護衛としてついてくると思っていた。
ダルヤさんは止めたでしょうが、獣王様が素直に止まる訳は無い。諦めてついてくる事となっただろう。
しかし、ゴウ君までついてくるとは予想外であった。
いや、強くなる為の努力を怠らない人物である事は知っていたが、流石に未攻略のダンジョン攻略に同行させはしないだろうと思っていたのだが、ゴウ君本人の希望を無下にはできなかったのだろうと納得した。
私自身、口だけの弱者にはなりたくないのと、ダンジョンマスターが勢力分散を目的としていた場合に、私自身を囮として【闘士の門】の皆に、入り口の警戒・街中で新たな入り口の出現の警戒と対策・これに乗じた犯罪の抑止力を頼んだ。
両ギルドマスターの反応に呆れと同時に、『まぁこうなるか』という予想通りの展開に安堵した自分がいた。
とりあえずどちらも無視することに決まり、我々9人でダンジョン攻略を始めた。
ダンジョン入り口からすぐに下に行く階段を降りる。
石造りの階段を降りている際、獣王様とマハガルとゴウ君、スレイが話し声に反応する。
私には微かにしか聞こえなかったが、どうも1人で何かに怒っている声らしい。
階段を降りきり、地下一階のフロアに出た。薄暗く広い空間の、おそらく草原が広がるフロア。
魔物の気配が全くしないフロアに、まずゴドさんが警戒し中に。
その時、突然天井が光った。ゴドさんが罠にかかったのかと全員に緊張が走っただろう。
少なくとも私は緊張した。
しかし、その後すぐに起こったことは、天井が晴天になっただけだった。
いや、それ事態おかしい事なのだが。ダンジョン内が明るいのはまだ分かる。しかしいきなり晴天に、というか外と同じ天気になっているらしいのは何故か。
ダンジョンには砂漠の階層や、雪原の階層。湿原に鬱蒼とした森等の階層があるのは知っている。
だが、こんな広い空間で、魔物が全く居ない状態で晴天の理由が分からず、ついスレイに問いかけた。
スレイは首を横に振り、周りにも問いかけたが、全員首を捻るだけで分からずじまい。
明るく天気になっただけで、罠等無いという訳で、とりあえず次の階層に進むという結論に。
地下2階も上と同じく草原が広がるだけ。
警戒は解かずに、獣王様やマハガル達が言うには、次で最後の階層。
そこに1人誰かが居るだけらしい。
私でも話し声、というか怒鳴り声がはっきり聞こえるくらい、大声で誰かに文句を言っている様だった。
常に怒鳴っているのでなく、質問してその答えに怒りをぶつけている感じであった。
全員が警戒して最後のフロアに入る。
そこには、青い半透明な板?の様な物が宙に浮いており、それの前に布の屋根の下、テーブルに背もたれのない椅子?に座る犬獣人の姿があった。
茶色のローブを着ている、それなりに腹が、肉のついている体つきの、失礼だがだらしない雰囲気の青年らしき人物。
こちらに何故か全然気づいていない様子の彼は、テーブルの上の焼き菓子らしき食べ物を食べ、薄茶色?の飲み物を飲んでいた。
声をかけるか迷っている内に青い板に文字が浮かび、彼に私達がいる事を伝えてしまった。
こちらを振り返る犬獣人。
・・・犬獣人以外の感想が出て来ないくらい普通だった。
こちらを見て固まっていたが、自分のお腹を揉んだり、手鏡で自分とこちらを見て、今度は姿見を出して自分とこちらを見る彼。
彼の行動に、皆どう動こうか考えていたら、テーブルに伏せ落ち込み始めてしまった。
どうしようかスレイや皆に聞こうとしたら、その前にハウロウが彼に歩み寄り、優しく慰め始めてしまった。
ハウロウの「どうすれば、でなくどうしたいか。素直に、正直な気持ちでやってみると良い。」という言葉を聞き、彼はテーブルから起き、青い板と喧嘩?口論を始めた。
どうも彼は青い板(神らしい?)に色々とされて、怒りが溜まっているらしく、まずその怒りを発散することを選んだ様だ。
青い板はどうも彼(イセ君と言うらしい)に同類ややらか神呼びされた事で、私達のことをイセ君に伝えなかったらしい。
器が小さすぎる・・・。
青い板が呼び名が酷いから直せと言う?が、イセ君は冷静に「名前知らない。」と返す。
青い板は『名乗ってなかった〜!?』と取り乱していた。
名前知らないならどう呼ぼうとイセ君の自由だし、関係性は分からないがまず初対面なら名乗るのが礼儀だろうに。
再び2人?が口論を開始して、青い板が名乗るから私達にダンジョン外に行って欲しいと言ってきた。
それに獣王様が歩み寄りながら答える。
ゴドさんとダルヤさんが慌てて獣王様へ駆け寄り、私達も警戒を解かずに近寄る。
仮にイセ君が芝居を打って私達全員を罠にかけようとしていた場合、すぐさま取り押さえ制圧出来るように近づいておきたかった。
イセ君が青い板に【ブルウィ】と名付け、青い板も承認。
そうしたら、イセ君がパチッと指を鳴らし、自分に強化魔法を使用。一つだけでなく、いくつかの強化魔法を連続で発動した。
異なる魔法をあの速度で発動なんて、ダルヤさんやスレイにも出来ない芸当だ。
2人共同じ魔法なら連続発動出来る所を見た事があるのだが。2人もイセ君の行動に驚いていた。
突然自身を強化したイセ君は、ブルウィに対する怒りが頂点に達していたものの、話がある程度まとまるまで我慢していたらしい。
ブルウィはやらかした事に対して何かオプション?を付けるとか言っていたらしいが、イセ君は「殺されかけて謝ってすむか。」という訳でブルウィに攻撃をした。
彼の立場では、私達全員の戦力と彼1人の戦力で戦う事になったら、確実に負けるか死ぬかの二択だった。
それほど力の差があるのが彼にも分かっていたらしい。
確かに殺されかけたと言っていいだろう。
イセ君の掛け声と共に、右手に雷の槍を生み出し掴む。そして思いっきりブルウィに投げつけた。
ブルウィが、というか青い板が雷の爆発と共に、粉々に弾け飛んだ。
見た事のない魔法。【雷槍】というらしく、【サンダーランス】を参考にした自己流の改造魔法だと言う。
魔法を改造。つまり魔法式を弄れる、魔法文字が読めるということ。今の魔導士の常識ではあり得ない事だ。
魔法文字は誰も解読出来ない神聖な物だと昔の魔導士ギルド全体の発表だった。
現にダルヤさんもスレイも魔法文字が読めず、昔に手に入れた魔法式が書かれたスクロールを、魔法領域に刻み込みその魔法を使うだけしか出来ないらしい。
イセ君にこの事をもっと深く聞くべきだろう。
「ふぅ・・・」
ここまでで良いか・・・。
紙にこれまでの事をある程度まとめ、アイスコーヒーを飲む。
甘く、ほろ苦い味わいに、コーヒー豆の香りが舌だけでなく鼻も満足させる。
ブルウィに一撃入れてスッキリとした顔をしていたイセ君。額を手の甲で拭う様な動作をしてゆっくりと息をはいていた所、マハガルが詰め寄りイセ君が使った魔法に関して、脅迫になっている交渉を始めてしまった。
イセ君が私達に助けを求め、流石にちょっとと思い、ハウロウに助ける様に言おう、と思ったら先に獣王様がイセ君に近寄り、
「そうだな、イセ。俺らにもあれ教えてくれよ。ちゃーんと払うもん払うぞ。」
「いや、助けてって言ったよね!?何で脅迫に参加してんの?おかしくね!?」
「だってマハガルだけ教わったら狡いじゃん。マハガルだけに教えるんなら争いが起こるぞ、いいのか?」
「良くはないけど、だったらまず助けてくれても良くない!?何でその人に加勢してるの!?」
「脅迫のが早いだろ」
「誰か〜!?通訳か翻訳お願いしますぅ〜!?」
・・・マハガルだけでなく獣王様まで止める羽目に・・・。
残りの全員で2人をイセ君から引き離し、ハウロウがイセ君を落ち着かせ、どうにか話し合いの形にもっていった。
イセ君が全員分のテーブルとイスを取り出し、茶を淹れるのをハウロウとビシャルが手伝い、私とスレイ、ダルヤさんとゴウ君が現状のまとめを紙に書いており、獣王様とゴドさん、マハガルは「甘い物だけでなく肉系も」と我儘を言って、イセ君が出してくれたカツサンドという物をもぐもぐ食べていた。
まとめ終わり、アイスコーヒーを飲んで一息ついた頃、その3人を見て、なんとも言えない顔をしながらも、無視をして私達と話をするイセ君。
ちなみに自己紹介は終わっている。
「・・・とりあえず皆さんは、このダンジョンを攻略に来たと。破壊するために来た訳では無いと?」
「破壊目的では無い。というか街の下のダンジョンを破壊するわけにはいかない。街が大変な事になる。」
イセ君の問いに答える私。
彼の中には、攻略=ダンジョン破壊があるのか?
「ダンジョンそのものがどういう物か、ダンジョン攻略とはどういう物か、という知識がないもので。一番困るのはこのダンジョンを丸々破壊される事なので、確認をしないと不安でして。」
「なるほど。しかしダンジョンがどういう物か分からないのは、おかしくないかな?ダンジョンはありふれた物、という訳では無いが、ダンジョンについての知識が無いダンジョンマスターなんておかしいと思うが?」
ダンジョンを知らないダンジョンマスターなんて存在するのか?
変な問いでこちらの出方を探っているのだろうか。
「僕のいた世界では、ダンジョンという物は存在しなかったので。ダンジョンマスターというのも初耳なんです。」
「・・・君のいた世界?」
「僕は自称神を名乗る者に誘拐されて、この世界に来てしまったんです。」
・・・・・・・・・。
ちらりとスレイを見る。
スレイは私の視線に、嘘をついてないと首を横に振る。
・・・彼、イセ君は本当の事を言っているという事か。
別の世界から。
異世界からこの世界、ストアラルに召喚されたという訳か?
・・・いや、誘拐。イセ君はそう言った。
望んでこちらの世界に来た訳では無いという事か。
「誘拐ってどういう訳じゃ?」
ゴウ君が私の疑問を代わりに問う。
年下が誘拐されて来た、という言葉に反応するのは当たり前だろう。
「話してもいいですけど、あっちは・・・」
カツサンドを食べている3人を見ながら言うイセ君。
確かにいい加減参加してもらいたいな。
「王、ゴド、マハガル様。いい加減に食べるのを止めて、会話に参加してください」
ダルヤさんが怒気を込めながら3人に注意をする。
「んお?こんままでいいだろ?」(獣王様)
「食いながらでも参加できんぞぉ?」(マハガル)
コクコク(カツサンドを頬張ってるゴドさんが首を縦に振る)
「良く無いわ!マハガル様はともかく、王は王族としてしっかり礼儀や威厳を示してください!ゴドも頬張りながら答えない!」
ダルヤさんが3人の態度にキレてしまった!?
ぎゃあぎゃあと言い争う4人をイセ君含めた全員でどうにか止めて、話し合いをどうにか進められるようになった。
すでに礼儀とか威厳とか無くなってしまった。
というかさらっとマハガルに対して酷くないか?ダルヤさん。




