19話 欲望を優先する犬
Side:モノタケ・イヌタカ 黒毛の柴犬獣人
初登場時セリフの無かった者
・・・何か変な事を言われている感じがしまする。
いかんいかん。集中せねば。
蝋燭程度の火を手のひらで保つ。
可能な限りこれを維持しておく訓練。
獣王様との話しを終えたイセ殿が、某達ガーディアンの生徒に【灯火】の魔法陣を教えてくださった。
『とりあえずゴウや【闘士の門】の人達に教えた範囲なら、リフォ達も文句は言わないだろうし』という理由で、訓練を開始いたしました。
【闘士の門】と兵士の方々が、監視や補助を手伝ってくれていまする。
『リフォ達がなんやかんや終わるまで時間かかるだろうし、その間やれる事やんないとね〜。ダンジョン関連は勝手にする訳にはいかないけども、魔法関連の訓練ならある程度大丈夫だと思うし』とイセ殿が某達に魔法関連の訓練として、可能な限り長時間【灯火】の発動訓練を指導してくださっておりまする。
この訓練で魔力操作の感覚を鍛えるらしく、某達生徒だけでなく、【闘士の門】の皆様方に国の兵士の方々もこの訓練を受けておりまする。
・・・そろ、そろ。限界ですな・・・。
【灯火】が解けて、火が消えまする。
「はあ・・・、ふぅ〜・・・」
き、気持ち悪い・・・。
頭がくらくらして・・・、何か、体の中がぐにゃぐにゃしまするぅ〜・・・!?
これが魔力切れの症状ですなぁ〜・・・。
「え〜っと、モノタケは3分くらいだな。このグループで一番長く維持出来てたぞ」
補助監視役の方が某の維持していた時間を教えてくれもうした。
時間に関しては、イセ殿が配った魔道具で計っております。(注:ストップウォッチの電池が魔力になってる物て事で)
・・・3分。短いのでござろうか。
何人かのグループとなり、長く維持できるかの勝負の様な形での訓練。
周りのグループもすでに魔力切れでぐったりしておられますな。
・・・イセ殿は何をしておられますかな。
少し人集りが出来てる場所。いくつか青い半透明な板が浮かんでおられますな。
ただ浮かんでいるのでは無く、ひらひらと舞っている様に動いていまする。
「えーと。【ファイアストーム】終わりっと。あともうちょい・・・」
ガーディアンの魔法の教本に記された魔法式。
それをイセ殿が『一応使える程度にしとくね』と言って、一度に複数の魔法を作っておられまする。
【魔導錬成】というスキルを使い、魔法式を作っている。そこまでは何とか納得出来まする。
しかし、一度に複数の魔法を作っているのは何故でござろうか?
一つずつ作った方が、完成度が高いと思われますが。
「ねぇ〜。イセちゃん?何でいっぺんに作ってるのん?一個ずつ作った方がちゃんと出来るんじゃ?」
某の疑問を代わりに問う様にビシャル殿が質問をしまする。
イセ殿がビシャル殿の方を見ずに答えまする。
「ん〜。一つの属性の魔法なら、いっぺんに作るのは難しい事では無い。違う属性の魔法を複数も出来なくは無い。単純に出来るからってだけの話。一つずつ作ってたら時間かかるってのもある」
出来るから。それだけ。
分かりやすいですな。出来るからそうすると。
「そして僕がこんな酷い魔法式を見続けたく無いから。正直苛ついて仕方ねー!教本作った奴に色々したい衝動に駆られてる、この心どうすれば良い!?」
「とりあえず落ち着く為に、オレッちの胸に飛び込んでごらん?」
「じゃあ失礼しまーす!」
ビシャル殿が胸を張り手を広げて誘い、イセ殿が魔法式作製を中断して飛び込む・・・、前にハウロウ殿が間に入り込みイセ殿を捕まえて、ビシャル殿に手刀を入れようとし、ビシャル殿が両手で挟み受け止めましたな。
「イセ。何をやろうとしている?」
「・・・な、何って・・・。ビシャルの提案に乗ろうと・・・」
「作製中断してまでか?」
「うん。というか終わったけども?」
「・・・え?」
・・・?終わった?
魔法の教本の中身全ての、魔法式を作った!?
え!?早すぎではござらんか!?
某達の訓練初めて10分くらいしか経っていないはずですぞ!?
ハウロウ殿も驚いてございまする!?
「?・・・ああ、はい証拠」
ひょいと紙束を見せるイセ殿。
その内容を見るハウロウ殿は理解と驚きを見せもうした。
どうやら本当の様でございますな。
ひとまずイセ殿の方は良しとした様で、ハウロウ殿がビシャル殿に向き直り、
「ビシャル、お前は何でそんな提案をしたんだ?」
「え?オレっちイセちゃん励まそうと思っただけだよ?またあんな風にイセちゃんが精神的に耐えらんなくなっちゃって、大変な事になるかもだったし。んで、オレっちに出来る事は胸を貸して抱きしめてあげる事くらいかな〜って」
「・・・そうか」
ビシャル殿は本気なのか冗談なのか分かりませぬな。
しかし、『あんな風に』とは?
皆様がダンジョン内にいた時に、イセ殿に何かあったのですかな。
「イセ、精神安定の為にふざけるのは、一応理解は出来るが、ビシャルに言われたからってそれを実行するな」
「断る!僕は自分の思いに正直に生きる!という訳でビシャル!」
「いつでもいいよーん!」
「やらせんぞ!」
ジタジタとハウロウ殿から逃れようと踠くイセ殿。
そんなイセ殿を抱きしめようとするビシャル殿。
ビシャル殿からイセ殿を守ろうと躱わすハウロウ殿。
・・・さっきも同じ様なやり取りを見ましたなあ。
皆様もどうしたものかと見守っておりまする。
呆れてもいまする。
・・・さっきと同じなら、スレイ殿が3人を止める為に・・・。
ヒュンッ!
ビシィッ!
「へ!?」
「ぬ!」
「おわぁ!?」
3人が青白い糸で拘束された!?
これはスレイ殿の【魔力糸】!?
・・・イセ殿だけぐるぐると簀巻きの様に。
ハウロウ殿とビシャル殿は片腕だけ少し巻かれてる程度ですな。
・・・イセ殿にだけ厳しい様な・・・。
「イセ君とハウロウ。今度はビシャルもですか。何をやっているんですか3人共」
スレイ殿が呆れ顔で3人に歩み寄りまする。
コーダル様もスレイ殿の後に続いておりまする。
いつの間に。いや、魔力切れによる不調で感覚が鈍っておるからですかな。
呆れた声色に怒りを混ぜて言うスレイ殿にコーダル様が歩み寄り、
「まあ待て。落ち着けスレイ。イセにだけ怒っても仕方ないだろう。他の皆にも話しを聞こう」
「・・・そうですね。とりあえず皆様方、どの様な流れでこうなったのですか?」
コーダル様がスレイ殿を落ち着かせ、周りの方々に話しを聞く流れに。
皆様がああなった経緯を説明し、コーダル様とスレイ殿は理解した様で。
「え〜っと、イセ君。ビシャルの提案に乗ろうとしたら、ハウロウに止められたと」(コーダル様)
「はい。酷くないですか?」(イセ殿)
「いいえ全く。ハウロウは貴方の馬鹿な行動を止めただけです。ビシャルも何をやっているのですか」(スレイ殿)
「オレっちイセちゃんの心を癒そうとしただけだもん。放置してイセちゃん爆発する方がダメでしょ?」(ビシャル殿)
「イセの心を癒すのは良いが、そこで『飛び込んでごらん?』は正しいのか?もっと他にあっただろう」(ハウロウ殿)
簀巻き状態のイセ殿に確認を取るコーダル様。
簀巻きのまま質問に答えてハウロウ殿の行動について問うイセ殿。
ハウロウ殿の行動に何の非もないと答え、ビシャル殿の言動について問うスレイ殿。
イセ殿のことを癒そうとしただけと言うビシャル殿。
もっと別の方法があるだろうと問うハウロウ殿。
・・・これ誰が悪いとかそういう話ではないでござろう。
イセ殿とビシャル殿が変な行動しただけの話ですよな。
「おーい、イセ達何してんだ?」
ん!?獣王様の声!?
バッと振り向くと、獣王様とゴド様が後ろから歩いて来ておりました。
王城の大臣方も一緒ですな。
獣王様達が来た事に、イセ殿達は不思議そうに問いまする。
「あれ?リフォ?城で仕事してるんじゃ無かったの?」
「俺の仕事は、大体の方針を会議して決める事と、それの途中経過報告を聞く事。そしてそれが終わった後の書類に目を通してサインすることとかだからな。今はやる事がダンジョン関連って訳でここに来たってだけだ」
王としての仕事は、某にはよく分かりませぬ。
詳しく聞いても理解出来るか分かりませぬし、獣王様もざっくりとした説明で終わらせていまする。
「なんだ。リフォがあのボケギルマス共のギルドに行って、関係者の奴らをボコボコにしてるかな〜とか思ってたのに」
「俺を何だと思ってんだこら」
「ごり押し突撃力ずくの脳筋の馬鹿」
・・・躊躇い無く言い切りますな、イセ殿。
獣王様が簀巻き状態のイセ殿の頬を抓っておられまする。
「いだだっ!?ぢょっ!?」
「この程度で済ましてんだ。文句いうな」
「リフォ。殴るより良いが、この状態のイセに対してどうかと思うぞ」
「甘えんだよハウロウ。何でこいつに優しくするかは分からんが、さすがに二回目はねーだろ。ごり押し突撃力ずくの脳筋の馬鹿なんて言われた、俺の気持ちを考えろよな」
「事実だろう」
「おーい、お前もか!?」
ハウロウ殿の発言に獣王様が噛みつきまする。
しかし、失礼ながら某も、獣王様やマハガル殿がイセ殿に対して、その様な行動をしていた所を見ておりましたし、その様に言われるのも不思議ではありませぬな。
とりあえず獣王様はイセ殿に対しての罰としての抓りを止め、スレイ殿に拘束を解く様に言って、スレイ殿も解除いたしました。
「いてて・・・。・・・?そういえばダルヤさんは?」
「ダルヤは現場指揮してるぞ。イセが持って来た証拠を元に、衛兵隊とかと共に冒険者ギルドと魔導士ギルドの、獣国レオナルドの支部の建物と、馬鹿大臣共の屋敷を強制的に見てる。ま、あんだけイセが証拠持って来てたし、それちらつかせればあいつらも断れねーだろ」
「・・・つまり今ちゃんと仕事してるのダルヤさん達だけと?」
「俺もゴド達も今仕事してんだろーが!」
「俺を抓るのが仕事かよ!」
「おう!」
「な訳ねーだろ!?」
うん、仕事ではござらんでしょう。
ダンジョン調査?視察?どれが正しいかは分かりませぬが、抓るのが仕事はおかしいですぞ。
某だけでなく、他の皆様も呆れてやり取りを見ておりましたが、獣王様がイセ殿が作った魔法陣の束を見つけ、
「おいイセ、これって?」
「ん?ああ、ガーディアンの魔法の教本に載ってた魔法全部を、とりあえず使える程度に作ったやつ」
「ほー。んじゃ早速・・・」
「させるかぁ!」
「うお!?」
獣王様が魔法領域に刻もうとした時、おそらくイセ殿が魔法を使い、獣王様の真下から打ち上げる様に突風を起こし、紙束が打ち上がり獣王様の服が風で捲れもうした!?
紙束を掴んだイセ殿。突風で立髪全てが上に跳ねてしまった獣王様。
・・・この場に居る全員が固まりもうした。
イセ殿が堪えきれずに、
「ぶぅっふう!?」
と吹き出してしまい、
ガッシィッ!
と獣王様がイセ殿の頭を鷲掴みに!?
激怒した顔でイセ殿と額を合わせております!?
「イセえぇ〜テメェ〜!」
「あの、ちょっ、待ってください獣王様!?立髪に関しては僕がやらかしました!けれどこの魔法全部いきなり刻もうとした獣王様にも落ち度があるかと!?」
「いきなり獣王様呼びしてんじゃねーよ!?」
「あの待ってください!?ほんとに待ってください!?立髪がこうなるかな〜って期待してはいました!?面白くなるかな〜て思ってもいました!?けれどほんとにこうなるなんて〜!?」
「てめぇ〜!真面目に謝る気あんのか!?つーかいきなり何しやがる!」
「おそらくこの場に居る人達が、望んでいる物だろうけども、ちゃんとある程度の決まりなり決め事なり、話し合って決めるべき事を、決める前にリフォがいきなり刻もうとしたから、とにかく止めようとしたの!?あと立髪酷い事になんないかな〜って考えもありました!」
「前者だけ言えやぁ!?結局お前の欲望が爆発した結果じゃねーか!」
「ごめんなさい!ほんとにごめんなさい!でも我慢出来なかったんです!出来心とかでなく僕の本心からやったんです!信じてください!」
「何言ってんだお前!?本心からの犯行って自白してどうする!?」
懺悔・・・、いや、恐怖で涙を流しながら、何故か本心からの犯行と自白しておられるイセ殿。
何故に?普通に謝るべきでござろうに。
獣王様も怒り顔から困惑顔になっておられまする。
さすがのハウロウ殿方も、イセ殿の発言に困惑しておられる様子。
「ほんとに僕が悪いんです!だから怒りの矛先僕だけにしてください!犯人は僕1人なんです〜!」
・・・ああ、なるほど。
某達に獣王様の怒りが向かない様にしてくれておるのですな。
確かにこの状況で、周りの誰かが笑ったりしたら、獣王様の怒りがその人に向きますな。
それを防ぐために、イセ殿は自分が悪いと言っておるのですな。
「おぉっ・・・!?おいリフォぉ・・・!?何があったんだよぉ、その立髪ぃッ!?・・・ぶはッ!」
・・・離れた所で訓練していましたマハガル殿が、こちらの騒ぎに気付き来た所、獣王様の状態を見て驚き、堪えられずに吹き出してしまいました。
獣王様がマハガル殿が腹を抱えて笑っているのを見て、
「イセ。マハガルにも俺に放った魔法使えや。それで不問にしてやる」
「断る!」
「なにぃ!?」
・・・獣王様・・・。
ただの八つ当たりではござらんか?
というかそれで不問にするのでございますか。
しかし獣王様の提案をイセ殿は断りもうした。
「自分の罪と罰を、他人を不幸不快にして不問にされたくねー!ふざけんなよリフォ!」
「くっ!?そうか!変なとこ頑固なんだったなお前!でもマハガルも俺と同じ感じになると面白えと思ってんだろ!?」
「それはもちろん!やってみたいけど、今じゃねえ!まず俺にちゃんと裁きを下してからだ!」
「裁かれるの優先する奴初めてなんだけど!?え!?何!?お前痛い思いしたいの!?」
「そーゆうのじゃねーよ!?やらかした事にはきっちりけじめつけたいの!ブルウィにしたのに自分だけ逃げるなんて、そういうダサさは俺は要らねえ!」
「あぁ。なるほど。あいつを裁いておいて、自分だけ逃げるのはって事か。納得したぜ」
え〜っと、ブルウィなる方は誰か分かりませぬが、イセ殿の考え方な理解できましたな。
自分がやらかした事に責任を取りたい。
きっちり向き合いたい。
イセ殿のことを、かなりの自由人の様な人だと思っておりましたが、向き合うべき責任にしっかりと向き合うお人なのですな。
「よく分かったぜイセ。んじゃあ禊いでもらおうか」
そう言うと獣王様はイセ殿を担ぎ、マハガル殿に向け投げる姿勢に。
「え?ん!?まさかぁ!?」
「お前で制裁してやるぜえ!」
ブオンッ!
「嫌わワアあぁア〜!?」
「よっとぉ!」
ガシィッ!
投げられ悲鳴を上げたイセ殿を、マハガル殿がしっかりと受け止めましたな。
イセ殿に負担があまりかからないように。
「お〜いぃ、リフォぉ。イセぶん投げてくんなよぉ。ゴウ並みの強さなのはレベルだけでぇ、イセは一応魔導士だぜぇ?下手したらいくつか骨折れるってのぉ」
イセ殿を投げた獣王様を非難しながら、イセ殿を抱えて獣王様達の所へ行くマハガル殿。
イセ殿は投げられたのが怖かったのか、声を抑えながらもしゃくりあげております。
マハガル殿に抱えられ泣いているイセ殿を、ハウロウ殿とビシャル殿も慰め、コーダル様とスレイ殿にゴド殿が獣王様にやり過ぎだと注意しております。
・・・某どうすれば良いのでござろうか。
やらかした事の責任から逃げない。
というか逃げれる訳ないですよね。
それとモノタケ君結局ほとんどセリフ無しで終わってしまった。




