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犬の異世界日記  作者: ふわふわ骨
獣国編
11/13

11話 考え方・捉え方は人それぞれ

Side:ダルヤ・ラルス 黄狐獣人

獣国レオナルドの宰相 苦労人 



「・・・取り乱して申し訳ございませんでした」


深々と頭を下げて謝罪する黒いレンズのメガネをかけたままのイセ君。

彼がゴウ様の通う魔闘学園ガーディアンの魔法科の教本を捲った瞬間に、怪訝な顔をし、王に「ゴウ様が虐められている」と言い始め、ゴウ様が必死に否定する事態となりました。


全員で宥めて落ち着かせ、テーブルに座り直し話しを聞く事にしました。

まずイセが、取り乱した事の謝罪を始めました。


「まあ、わしのことを本気で心配してくれたんじゃろ?わしが否定しても聞かなかった理由も、虐めという事への嫌悪感などからくる物じゃろうし」


ゴウ様がイセ君の謝罪を受け入れます。

ゴウ様の事を心配してのあの取り乱し様には、それほど酷い内容だったと言う事でした。

教本を見てすぐにそれが分かってしまう知識の恐ろしさ。

それに気付かなかった己の無能さに嫌気と怒り。

様々な思い、気持ちが渦巻いています。


・・・今は、イセ君の知識で分かった今の魔法に関する情報を得るのが先決ですね。

本題に入りましょう


「イセ君、君が見て分かった酷さを教えてください。私達も、正しく君の感じる怒りや苛立ちを知りたい。どこがどう酷いのかを、君の分かる範囲で良いので」

「・・・わかりました。先に言っておきますが、僕の知識があってるかはまだ分からないですからね?間違っている可能性もある、という事を念頭に置いてください」


イセ君がさっきの教本を開き、その内容の酷さを教えてくれる様です。

というかまだ黒いレンズのメガネを外さないのか、君は。


「まず、この【ファイア】の魔法式で酷さを説明します。何が酷いかというと、これ【ファイア】の魔法式じゃないです。これ魔法文字ぐっちゃぐちゃに並べ替えたり、適当に付け足したりして原型が無い状態になってます。もしくは分かってて乱雑にして【ファイア】の魔法式として完成って形にしてますね」

「・・・・・・・・・は?」


え・・・?何?

【ファイア】の魔法式じゃない?

私が学んだ【ファイア】の魔法式は、【ファイア】ではない?

どういう事ですか?

というかぐっちゃぐちゃの魔法式と魔法文字を読めるイセ君もすごいですね。


「えーと、で。このぐっちゃぐちゃ加減が一つ目。二つ目は、とりあえず解析してみた所、魔力消費量が重すぎる。【ファイア】の消費魔力は、基本的には大体2か3くらいだと思ってください。魔力込めれば火力が上がるという感じです。けどこの【ファイア】、消費が100以上が基本消費魔力になってます。ありえないしふざけた事になってます。誰が作った本当に」


イセ君が目に見えて苛立っていく。

怒りが再発しかけて、いやもう怒っていますね。

隣に座っているハウロウ様が、肩に手を置き、落ち着くよう促す。


ふぅ〜と息を吐き、続きを話し始めるイセ君。


「三つ目、というか一番苛立った。というかキレたのは、何故か人族はこの程度で済むものの、多種族の、特に獣人には負荷が倍増どころの話しじゃないくらいに、消費魔力が増えてしまう事です。500〜1000ぐらい」


最後の方は怒気を高めながら言い切った。

イセ君が指摘した三点。

正しくない魔法式。魔力負荷による消費増加。多種族の、特に獣人にとって使い辛い魔法にしている、なっている事。

あり得ない、あってはならない大問題。

魔法は今尚改良開発を進めているはずの技術。

魔導士ギルドだけでなく、国全体で専属の組織や学会などを立ち上げていて、その発展にかなりの資金を使っているはず。


なのに発展どころかとんでもない欠陥を広めていたというのか!?


「僕の知識が合ってる前提ですからね。最も僕はこの【ファイア】を絶対使えないと断言できます。違和感がちらついて集中出来ないし、苛つきがまず先にくるので。ダルヤさんにスレイさんが使えているのは、【ファイア】とはこんなものというある程度具体的に知っていて、更に職業(クラス)が魔導士・魔法関連のスキルに秀でてるからですね。消費は多いですが。リフォやマハガル達が使えないのは職業(クラス)補正がないからですね。そんなの無くても基礎魔法は使えるはず。基礎、つまり魔導士の初歩・魔法を鍛える為の一歩。足がかりのはず」


イセ君が怒りを抑えつつそう締める。

正直言って悲しいやら虚しいやら。

今迄魔導士としてやってきた身としては、この事実は重すぎます。

イセ君の知識が合ってる前提と言っていたが、おそらく合っているでしょう。

実際私が使った場合でも、イセ君が指摘した様に消費魔力が500程。

特訓の中で紙に記していたので確かなこと。


「イセ、この教本の魔法を使える様にならぬか?鍛錬しようにも発動出来んのでは、どうしようものうてな」

「えぇ〜・・・?まぁ〜、出来なくもないけども。これらを態々使える様にする気が起きないからやだ。めんどい」


ゴウ様の提案を軽く蹴るイセ君。

酷いと言った魔法式を使える様にする事に、労力を態々使いたくないと。

気持ちはわからなくもないが、ゴウ様の提案はおそらくこの場のイセ君以外全員の願いと言っても過言ではないのです。

実際、王とマハガル様がすでにイセ君の後ろから肩をガッチリ掴んでいた。


「イセぇ〜?使える様してくれるよなぁ?ゴウだけじゃねえぞぉ?魔法関連鍛えてえのはなぁ?」

「ちゃ〜んとしっかり労力に対する対価を、きっちり支払える自信はあるぜ?獣国レオナルドの王が直々に手渡ししてやるぜ?いいだろう?」

「・・・・・・ぁっ、あの!?ちょっ!?待っでぇ!?何かっ、とんでもない勘違いしてない!?作るのがやだなんじゃなく、この教本の落書き以下の魔法式書き換えたくないっ、て言ってるのぉ〜!?」


2人に肩を抑えられ威圧され、涙声で振り絞るように声を出すイセ君。

泣く一歩手前ですねあれ。

王とマハガル様の同時の威圧(あれ)は私も嫌ですし。


あ、ハウロウ様が2人を無理矢理引き離しに。

2人共抵抗せずあっさり離れた。

イセ君が頑張って泣くのを堪えてる。


「イセちゃん。落書き以下の方は書き換えたくないって事は、イセちゃんが新しく作ってくれるって事?それは良いのん?」


ビシャル様がイセ君の言っていた反論について、確認をとった。

教本の魔法式を使えるように書き換える・直すのは嫌で、新しく作るのは良しと。

どう違うのだろうか?


「えーと、教本のやつを書き換えたり直すってのは、例えると他人が散らかした他人の部屋を片付ける様なものですからね。嫌ですよこんな悪意すら感じる、というか悪意の塊と言っても過言じゃない、教本(これ)の魔法式なんぞ直したくないです。新しく作るなら、僕の知識がこっちに当てはまるか確認できますし、作るといっても空室に最低限家具置く様な感じで、皆さんの好きに模様替えが出来る方が僕良いですもん」


なるほど。教本の魔法式を書き換えるのは、他人の部屋を片付けるという事と、イセ君は言っているのですか。

新しく魔法式を作るという事は、室に荷物を置く様な感じか。自分の望む部屋に模様替えだという事、考えなのですね。

つまりイセ君が新しく私達に作るという魔法式は、空っぽの部屋にある程度の机や椅子など、最低限置いておき、新たな荷物を、タンスやベッドを設置する様なものだという事なのか。


「別に部屋に置き換えて考えなくても良いです。人によってはまっさらな紙に絵を描くみたいに。箱におもちゃを綺麗に入れるように。一見バラバラに、乱雑に散らばってる様に見える机の上だけど、本人が何があるか把握してれば問題なしって感じで、自分だけ理解できる文法や文章で魔法式作ってる人もいますから」


ふむ・・・。色々な捉え方がある、か。

1人ひとり考え方も捉え方も違って当然、当たり前ですね。

魔法式を一つの部屋だと。一枚の絵だと。好きな物を入れれる箱だと考える人もいると。

自分だけ理解できるように、魔法式を作るというのもある。イセ君の言うことはそういう事かな。


「それでは早速、魔法を作って欲しいのですが、必要な物はありますか?魔法紙と魔力インクならすぐ用意出来ますよ?」

「ん〜・・・。とりあえずは僕が持ってるやつで作ってみます。知ってるのと違ったら出来ないかもしれませんから」


イセ君が空に手をやり、アイテムボックスを開く。

・・・結構な量のサンドイッチを食べたはず(王とゴドとマハガル様が特に)ですよね?

食べ物以外にも入っているとすると、どれほどの容量のアイテムボックスなんだ?


私の疑問も知らず、イセ君がテーブルに魔法紙と魔力インクを取り出し、魔法式を作る準備をしていた。さすがにメガネを外していた。

イセ君がテーブルに掌をつくと、見た事のない魔法陣が浮かび上がった。

魔法紙を真ん中に置くと、イセ君が青い半透明の板を指でタタタンッと突く。すると魔力インクが瓶から浮かび出し、魔法紙に魔法式を描き出す。


「イセぇ。魔法陣(それ)何だぁ?魔法式書くのに必要なもんかぁ?」

「あぁ、これ?【魔導錬成】てスキル。魔法式書くのにも使えるし、金属の製錬とか錬金術とか、魔道具作製とかにも使える便利なやつ」


マハガル様の質問にさらりと答えるイセ君。

【魔導錬成】という聞いた事のないスキル。

正直、異世界から来たという話を疑っていた。

魔法の知識に知らない料理、知らないスキル。

色々な証拠を目の前で見て、イセ君の言う異世界から来たという話を、信じるしかなくなった。


楽器を演奏する様な指捌きに、宙を舞い踊るかの様なインク。

時折り「あ〜。あんまり使いやすくしたら、改良のやり甲斐ないなぁ〜」とか「詠唱文も必要か〜」とか独り言を言っている。

魔法紙に魔法式を書き終えた様で、テーブルの魔法陣が消えて、魔法紙を手に取りひらひらとするイセ君。


「とりあえず【灯火(トーチ)】を作りました。練習ならこれが最適かと。いきなり【ファイア】とか【サンダー】は危ないですし。内部魔力3割、外部魔力を7割くらいの割合にして、魔力切れを抑えつつ長い間発動出来るようにしました。魔力の扱いを覚えるなら長く発動出来た方がいいですから。というか教本の最初が【ファイア】なのもどうなんだ」


と言ってゴウ様に渡すイセ君。

ゴウ様は早速魔法式を自分の魔法領域に刻み込んでいる様子。

魔法を扱うには、その人個人が持っている魔法領域内に魔法式を刻むという工程が必要。イセ君もこれに関しては知っている様だ。

ゴウ様は今迄の教本の魔法式とは違う物を刻んでいるのが分かっている様で、とても驚いた顔とやっと手掛かりを手に入れたという様な雰囲気を出していた。


「・・・刻めた、と思うのう。早速・・・」


ゴウ様が私達から五歩ほど距離を取り、【灯火(トーチ)】を発動しようとする。

指を立て、集中して詠唱を。


「闇夜を照らす小さき灯火、【灯火(トーチ)】」


ボォッ!

という音と共に、ゴウ様の指先から少し離れたところから魔法陣が出現し、蝋燭に灯る火の様な大きさの【灯火(トーチ)】が!

「おぉ!」と皆が声を上げてゴウ様に近づき、ゴウ様も自分が魔法を使えるという事実に驚き喜んでいる。


「・・・!つっ、使えた!使えたぞ!親父!何度も何度も試して出来なかったというのに、簡単に出来たぞ!」


笑顔でそう叫ぶゴウ様。

よかった。ゴウ様があんなに喜ぶ姿は久しぶりですね。最近は中々強くなれないと悩んでおいででしたので。


「あっ。待てよ?作ったのはいいけど、皆さんが使えると分かったら、面倒な奴らが喚くよなぁ。この国の冒険者ギルドと魔導士ギルドのアホトップが、獣人が強くなれる機会を黙って傍観する訳ないし。どうしますか?」


あ〜。確かに。

面倒な奴らに獣人が魔法を使えるようになったと知られたら、鬱陶しい事されるのが目に見えてる。

すでにイセ君にこの国の話はある程度しており、特にこの国の冒険者ギルドと魔導士ギルドに関しては、こちらの主観ありとなしの話をしている。

その話を聞いたイセ君が、「すみません、そのアホトップの顔詳しく教えてください。顔の原型と頭の中身変えるんで」と殺気と怒気を混ぜた気を出して聞いてきた。


ハウロウ様とビシャル様が落ち着かせたが、このままでは過激な解決策を勝手にやりそうで困る。

イセ君が解決するのは良いが、こちらもあのアホトップ共に言いたい事が沢山あるわけで。


どうするか、と考えていたら、王とマハガル様が【灯火(トーチ)】を覚えて発動させていた。

ゴオォ〜ッ!と【灯火(トーチ)】のはずなのに2メートルくらいの火柱が!とんでもない火力!【ファイア】でもこれほどの火力を出すことは出来るけども、色々おかしい!?

あ、2人共魔法初めてだから、調整や加減が上手くいってないのか!?


「ちょっ、マッ!?何やってんだ、お前ら!?」(イセ君)

「あ〜、イセぇ。調整とか加減ってどうすんだ?」(マハガル様)

「魔力が減ってんのは分かるが、魂魄武器(ソウル)みたくいかねえな。やっぱ違うのか?」(王)


イセ君のツッコミに対し、2人の緊張感のない声。

2人の態度に脱力しかけるイセ君だったが、一応はアドバイスをするようだ。

イセ君にも魂魄武器(ソウル)の事を伝えてある。「聞いた事ない」らしいですが。

ある程度説明してあるが、イセ君の考え通り、魂魄武器(ソウル)で出せて操れる火や雷は、魔法として出したり操れるものとは似て異なる様ですね。

王が自身の魂魄武器(ソウル)【ブレイジングクロー】を発動しイセ君に見せた際、「こんなの見た事ない」と感想を言ってくれた。魔法武器とも違うと答えてくれたし、やはり魔法とは違う法則があるのだろうか。

王やマハガル様は魂魄武器(ソウル)の使い手として達人と言っても過言ではない。

その2人でこの惨事。私達も気をつけて使わなくては。

イセ君が頑張って2人に魔法の扱いを教える様子。


「えぇ〜と、とりあえず自分の中の魔力が減ってるのは分かるよね?それをドバ〜ッて出してるからそんなふうに火柱が立ってるの。自分の中の魔力の道を、きゅ〜っと狭めて、少しずつ、流す量を少なくしていって」

「あぁ、そんな感じかぁ」

「え〜と、こうか?」


2人がアドバイスを受け、魔力操作を行なっていく。すぐにそれが出来るのは2人が魂魄武器(ソウル)の扱いに慣れていて、魔法でない魔力の使い方を知っているからだろうか。

火柱が少しずつ小さくなって、ゴウ様が維持している蝋燭程度の火になってゆく。


「さらっと魔力操作出来たな。魂魄武器(ソウル)使えるからか?飲み込みが早いだけ?」

「イセ。魔力増やすのって、こんな感じかのう。・・・おわ!?」


ゴウ様が魔力を注ぎ込み、先程の2人の様に火柱を立て様とするが、【灯火(トーチ)】の火はボゥッ!突然爆ぜた。


「あ〜、上手くいってないよそれ。注ぎきれなくて大半の魔力が漏れ出て爆ぜちゃったの。もっと狭めてみて」

「漏れ出てるとは?どんな感じじゃ?」

「え〜っと、このコーヒーのグラスにバケツの中身の水を、思いっきり上からバッシャーンてぶち撒けてるのが、今さっきゴウがやってた魔力操作だったの。ゆっくり傾けて水を入れる感じのイメージで・・・」


ゴウ様のイメージしやすい操作訓練をするイセ君。

他の皆様もイセ君の言葉を聞き、各々のイメージで【灯火(トーチ)】を使っている。


いや、すごいなこれ。

今までよりずっと使いやすい。

これまでの魔法とは何だったんだ?


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