第九話 森での日常
「とうっ!」
そんな掛け声とともに、石がイノシシに向かって飛んでいく。
石はその勢いを失わぬままイノシシのほうへと飛んで行き、その頭を弾き飛ばすのであった。
「うわっ、グロい」
頭が吹き飛び、息絶えたイノシシを見て、俺はそうつぶやく。
「やっぱり石がでかすぎたんだよなぁ。
やっぱり木の棒が安定なのか?」
木の棒を削るだけでは微妙かななどと思い、石を使ってみたのだが、失敗である。
残念ながら、俺の文明は石器時代にすら到達していないらしい。
にしても、これはちょっと申し訳ないな、イノシシに。
スマン。
さて、血抜きの方法すらろくに知らない俺はとりあえず後ろ足のほうをもって、血抜きみたいなことをする。
まぁ、多少は意味があるのだろう、きっと。
ちなみに、肉食動物が寄ってくることはないのかなどとはじめは思ったのだが、初日を除き、いままで大型のやつらに会ったことはない。
よほど初日は運が悪かったのであろう。
ときどき強力な敵の気配を感じるような気もするのだが、そもそも俺にそんな能力はないので思い違いであろう。
ちなみに、そんな感じがした日は体の動きが良くなるような気がするので、実は幸運の女神さまなんじゃね的な疑惑が今おれの中に浮上している。
……。
どうでもいいか。
そんなわけで、今日の獲物を手に、俺は拠点へと帰ることにしたのであった。
カン、カン、カン、カン、カン
拠点の近くまで行くと、何か固いもの同士がぶつかり合っているような、そんな音が聞こえる。
気になってそっと覗きこんでみると、そこではエクラが、大きめの石を削っていた。
素手で。
「えっ?
エクラさん、何をしていらっしゃるんですか?」
「お帰りなさい、ケイさん。
ちょっと待っていてくださいね」
こちらを振り向くことなく、エクラは真剣な表情で石を削っていっている。
~十分後~
「上手に出来ました!」
「おっ、良かったじゃないか」
横に人型の猫でもいそうな感じで声を出すエクラ。
手に持つ石は、割と大きめなつぼ型をしている。
いったい何に使うのであろうか。
少なくとも、俺には誰かを殴るための鈍器にしか見えないのだが……。
「ところでそれ何に使うんだい?」
どうしよう、「人を殴り殺すためですよ」とかいわれたら。
「はい、これは瓶です。
中に液体を入れて保存するんですよ。
あ、そうだ、綺麗にしなくてはいけませんね」
そういって、ブツブツと何かをつぶやくエクラ。
次の瞬間、わずかに光った灰色の瓶(仮)は綺麗な白色になっていた。
「おお~、ところで何を入れるつもりなんだ?」
「向こうでハチの巣を見つけたので、それを取りに行こうと思ったんです。
あっ、それ少し貸してください、ついでに綺麗にしてしまいますので」
「あっ、よろしく頼む」
そういってイノシシの死体を渡す。
すると彼女は、先ほどと同じようにブツブツとつぶやき、ついていた血をきれいに落として見せた。
「すごい便利だよなぁ、その技術。
おれも使えればいいのに」
「これでも、あんまりうまくできなくなってしまったのですけれどね。
それに、これは私たちの種族しか使えないものですから」
どうやらこの力はユニコーン固有の力らしく、彼女もやり方を教えるということはできなかった。
本能的なものらしいから仕方がない。
「それじゃあ、蜂蜜を採ってこようと思います。
ケイさんも一緒にいらっしゃいますか?」
「う~ん、そうだな、どうせだし、ご一緒させてもらうことにしようかな」
瓶を片手に、そう質問してくるエクラに返事をする。
俺はまだなのに、彼女はもう石器時代に入っているんだな~、いや、あの技術は石器時代どころではないか、などと加工できるのが木材以外何もないという自分をふがいなく思いつつ、俺は蜂蜜を採りに向かうエクラを追うのであった。
「いっぱいでました~」
指についた蜂蜜を舐めとりつつ、エクラは嬉しそうに俺に告げてくる。
蜂の巣は大体日本で見る巣と同じぐらいの大きさであり、そこからかなりの量の蜂蜜を採ることができた。
彼らの巣を壊すことに若干申し訳ない気持ちがあったものの、彼ら事体にはなにも危害を加えていないし、許してくれ。
綺麗に透き通った蜂蜜は俺の食欲をそそるのに充分であったが、パンがないのがやはり残念である。
やはり炭水化物がほしい。
「味はどうだい、エクラ」
「甘くておいしいですよ。
クセはあまりないのに癖になってしまいそうです」
「そっか、それは良かった」
俺が抱えるほどの大きさの瓶にたっぷりと入った蜂蜜(今は蓋をしてある)から、甘いにおいが漂ってくるかのようである。
(いつか、表面をカリッと焼いたトーストにこれをつけて食べたいなぁ)
そんなことを考えながら、俺とエクラは来た道を戻っていくのであった。




