第十話 訪れた危機①
ここで暮らし始めてから結構な日数が経過していた。
森の中での単調な生活が俺に日数を数えさせるのを困難にしたため、正確な日数は残念ながらわからない。
本当ならば、そろそろここを離れたかったのだが、何のきっかけもなく動くというのは言い出しにくく、そこまで不自由なわけでもないため、今までここにとどまっているというわけである。
これだけ日にちが経過しても、危険な生物は一切襲ってこなかったしな。
エクラ曰く、この森は危険生物の数がかなり多いほうらしいのだが、いっさい見かけることはなく、少し不自然な気もする。
いい加減ここを離れたほうがいいかもしれないな。
さて、そんなわけで俺は狩を終え、獲物を持って拠点への帰り道を歩いていた。
時代は旧石器時代後期、すなわち俺の手には黒曜石で作ったナイフがある。
ついに石器時代へと突入することができたのだよ。
ただし、加工したのはエクラであるというのは内緒だ。
そんなナイフを片手に持ちながら歩いている。
ちなみに、今日は幸運の女神様(仮)が降臨なされている日であり、体の調子がすこぶるいい。
普段よりも体の動きがいいほどである。
そのおかげで、ちょっと多めに獲れてしまった獲物たちを持って帰ってきたのだが、拠点では、エクラが鋭い目つきで周囲を警戒していた。
「どうしたんだ、エクラ」
「先ほどから、私の警戒網に結構大きな物がかかっているんです。
距離はそれほど近くないんですが、先ほどから何度か」
「なるほど、方向はどっちだい?」
もしかして俺が感じているのと同じ方向だったりするかもなどと思いつつ、聞いてみる。
「あちらです」
指した方向は俺の感じた方向と同じではなく、若干のずれがあった。
「ちぇっ、俺にもそんな力が目覚めたのかと思ったんだけどな~」
目覚めていたとしても、ここまで大雑把だと狩猟ではあまり使い物にならなそうではあるが、奇襲を受けないという点では使いやすそうである。
まぁ、実際に目覚めていないものをどうこう言っても仕方ないのだが。
「まぁいいか。
それじゃあ俺がとりあえず警戒しておくから、処理をお願いしてもいいかな?」
「分かりました」
「ごめんね、任せちゃって」
本当は自分でやろうと思ったのだが、どう考えても彼女のほうが速いので任せっきりになっているのである。
「いえ、大した手間ではないですから」
そう言いつつ、俺の手から獲物を受け取り、いつものようにぶつぶつとつぶやいているエクラ。
(う~ん、結局俺の感じているのは何なんだろうな~。
今現在、なんとなく近くに来ているような気がするし、石でも投げてみますかね。
もし何かがいればそれで分かるだろうし)
そう判断し、投げる準備をする。
おっと、その前に。
「エクラ、あっちの方向に何かがいたりとかってするかい?」
俺の感じている方向を指差し、そう問いかける。
「?
いえっ、何もいないと思いますが」
おそらくそっちの方向を改めて索敵したのであろう、わずかの間の後、そう返してくる。
「そっか、よし。
それなら」
ボーリングの球よりも少し大きい程度の石(いや、岩かな?)を振りかぶって投げ込む。
普通つかめないのだが、爪を立てれば岩に食い込ませることができるため、
森林破壊な気がして大変申し訳ないのだが、安全をより確実にするためには必要なことなので仕方ないだろう。
そう思い投擲した石は、勢いそのままに木を何本かなぎ倒していく。
うん、なかなかの威力だな。
自分の力が、日本にいたときよりもはるかに上がっていることを自覚していた俺だったが、予想以上の威力であった。
(下手したら、トラックが衝突するぐらいのエネルギーがあったんじゃないのか?)
石の通ったあとの惨劇を見て、そんなことを考える俺。
石は一直線に向かっていったようで、その部分が空白になり、見通しがよくなっている。
うん、実際何もいなかったようだな。
断末魔や、弾かれたような音も聞こえなかったし、見てみても、何かがいる様子はない。
うん、杞憂だったみたいだな。
というか、やはり俺が感じていたのは幸運の女神様の気配だったのか?
あれ、だとすると神に石を投げるとかマジ最低な行為なんじゃね?
天罰とか食らわないだろうか。
……。
まっ、実際に神様が降りてくるなんていうことはないか。
こうも頻繁に降りてきていたとしたら、ありがたみが薄まってしまいそうだもんな。
それに、今も同様の気配のようなものは感じているし、なんかの勘違いみたいなものなのだろう。
心理的に負担がかかっていて、そのせいで……みたいな可能性とかが高そうなきがする。
やっぱり、そろそろ、ここを離れる提案をしようかな。
そんなことを思いつつ、俺はエクラが敵がいるという方向の警戒に切り替えるのであった。




