第十一話 訪れた危機②
しばしの間警戒を続けていたのだが、こちらに接近してくることはなかったようで、警戒は結局無駄に終わった。
エクラが分かる範囲からも出てしまったらしく、とりあえず、警戒の態勢は解くことにする
「そういえばなんですけれど、ケイさんはどうしていきなり石を投げたりしたんですか?」
夜、火をつけたりはしないため、真っ暗な中でエクラが俺に話しかけてくる。
ちなみに、俺もエクラも夜目は利くのでお互いの姿ははっきりと見えている。
「いや、なんとなくそっちに誰かいる気がしてさ。
用心のために一発牽制してみたんだ。
まぁ、杞憂だったみたいだけどね」
「ケイさんって気配を察知できたのですか?」
「いや、まったくできないよ。
勘みたいなものだったからね」
実際的外れなものであったし、当てにはならないようである。
「ですが勘というのは何かしらの微妙な変化を感じ取ったものとも言いますし、馬鹿にできたものではないんですよ?
伝承にも、間による一瞬の判断で命を救ったという話は事欠きませんから」
「言われて見れば納得かもな」
「ですので、もしそういうことがあれば、言ってみてください」
「おう、了解」
小さな声で話し合っていたのだが、このタイミングで俺とエクラが同時に、いや、俺のほうが若干早く立ち上がった。
「やっぱり敵か?」
「はい、猛スピードでこちらに向かってきます」
向いている方向は同じであり、恐らく同じ敵を捉えたのであろう。
地面を踏み鳴らす音がだんだんと迫ってくる。
そして。
「竜かな?」
「ええ、恐らくは」
出てきたのは、全身がきれいな緑色の鱗に覆われた竜と思わしき生物である。
ただし、翼のようなものはないため、実際に竜なのかどうかは怪しい。
向こうもこちらに気がついたようで、歯をむき出しにしてこちらに迫ってくる。
「う~ん、少し抵抗してみますか」
そう呟いて、俺は黒曜石のナイフを手に向かっていく。
お相手の竜は両手に鋭いつめを持っており、俺が防御を固めても、もしかしたら突破されるかもしれない。
そのことを考える接近戦は愚策であろう。
何より怖いので、できれば遠くにいるうちに何とかしたい。
そう思い、ナイフを本気で投げつける。
それと同時に上にジャンプする。
やっていたゲームなんかでもよくやっていた、牽制技から本命につなげるコンボである。
こないだ、ふと思ってやってみたらできたので、使ってみようと思っていたのだ。
実際にやってみた瞬間、周りの出来事がゆっくり見えるようになった。
投げたナイフがほんの少しずつではあるが、相手のほうへと進み、相手もカタツムリのような遅さではあるが、こちらへと向かってくる。
それら二つを目で追いながらも、俺はゆっくりとしゃがみこみ、飛び跳ねる。
自らの動きもまた、ゆっくりと感じられるため、若干じれったく感じるが、それとは全く関係なしに体が動いていく。
ライダーキックのように、空中で一回転して、そのまま相手に突っ込んでいく。
その間も、投げたナイフは相当な速度で空を切り裂いていき、相手の竜へと迫っていっている。
そして、そのナイフを相手はかわしきれずにのどの辺りを貫かれ、恐らく死亡。
この時点で追撃の必要はないのだが、止められないのでそのまま突撃する。
ドゴン!!
そんな音とともに砂煙が辺りに巻き起こる。
「なんか死体蹴りみたいで申し訳ないなぁ」
すでに死んでしまっているにもかかわらず、さらに追撃を加えてしまったことが、少し申し訳なく感じる。
とはいえ、死んだのは分かったので、特に威力を高めたりとかはせず、普通に着地しただけであるため、死体に損傷はほとんどない。
俺のナイフを食らった跡だけである。
そのままなんとなく、鱗の部分を触ると、一瞬だけ触った手が光った。
「なんだこれ?
……、まぁいいか」
こうして勝利したことをエクラに告げようとそちらに向き直ったところで違和感に気がつく。
(あれ、俺が感じていたのと位置が違うな)
戦闘中は気づかなかったのだが、現在の俺の感覚では俺からみて右後方の森の中にいるような感覚なのである。
(まずい、もしかして、エクラが狙われているのか?)
先ほどまでの勝利の余韻が一気に掻き消え、心に焦りが生まれる。
砂煙のせいで、よく見えないのだが、彼女は無事なのだろうか。
その考えが頭に浮かぶと同時に、俺の体は、彼女が先ほどまでいた場所に戻ってきていた。
「エクラ、大丈夫か?」
「えっ、はい。
こっちは特に何もなかったので大丈夫でしたけれど……。
ケイさんは怪我とかないですか?」
「あぁ、特に怪我とかはないよ」
そう答えつつ、俺の勘に従い、一方向を注視する。
同時に、念のため、エクラをそちら方向からかばうように位置を変える。
すると一瞬ではあるが、森の中で何か動くものが見えたような気がした。
色は白色というか、銀色というか、まぁそんな感じである。
ほんの一瞬なため、色ぐらいしか分からなかったのだが、確かに何かがいたようである。
(あれが正体なのかな?)
そう思うも残念ながら確かめるすべはない。
しばらく眺めてみても、生物は一向に姿を見せることはなく、俺の勘のほうも危機は去ったと告げてきていたため、俺は警戒を解くことにしたのであった。




