第六話 名前
「ふう、何とかなったか」
「ええ、逃げ切れたようです」
ぶっちゃけ俺自身が逃げ切ったと思っても身を隠されている可能性は否定できないし、それは彼女がそう判断したとしても同じことではあるが、先ほどの出会いのときに、目に映るよりも早く相手の存在を察知していたことから考えて、俺よりも勘は鋭いのであろう。
ならば、ここは彼女を信じるとしよう。
そうでなくては気を休められないだろうしな。
「申し訳ありません。
もう少し私に力があればこんなことにはならなかったのですけれど……」
「そんなことないって、だいぶ助かったよ。
いきなりの遭遇にならないって言うだけ、で……?」
つないでいた手を離し、後ろを振り返ったのだが、そこにいた彼女はなぜかこれまた真っ黒な軍服を着ていた。
な、なんでというか、いつの間に着替えたんだ?
「えっと、なんで服装が変わっているんだい?」
「あの服は動きにくいので……」
「……」
じゃあ、何であの格好をしていたんだろうか。
「あっ、もしかして、さっきまでの服には何か不思議な力があるとかそういうことなのかい?」
あの胴装備だけで
VIT+50
INT+50
命中+50
CRT+50
意思+50
SS+50
穴5つ
見たいな完全にバランスブレイカーとなっているチート装備だったりとかするのか?
「いえ、性能はこの服と一緒です。
ただ動きにくいだけですね。」
「じゃあ、何であの服装だったんだい?」
「あの服装がかわいいなと個人的に思っていて、あの服装にしていたわけ、何ですけれど……」
だんだんと尻すぼみに声を小さくしていきながらそう告げる彼女。
ちょっぴり攻めている感じになってしまったかもしれないな。
「あぁ、いやいや、別に攻めてるわけじゃないんだよ。
とてもかわいい格好だったと思うしね」
ああいう格好は割りとというか、バッチリストライクゾーンである。
まぁ、素材がよさそうな気がするので、彼女はどんな格好でも似合いそうな気はするんだけどな。
おっと。
そういえばまだ名前を聞いていなかったな。
ちょっと遅い気もするけど、名前を聞いてみることにするか。
「そういえば、まだ名前を聞いていなかったね。
俺は……、ケイだ。
君の名前をよかったら教えてもらえるかな?」
「ごめんなさい」
「えっ!?」
さ、流石に名前を聞く時点で断られることなんて想像してなかった……。
あまりの衝撃に両手両膝を地面につけてうなだれてしまう。
名前を聞いて教えてくれないというのは、俺どれだけ好感度低いんだ?
「あっ、いえ。
別に名前を教えたくないとかそういうことではないんです。
えと、あの、その……、今の私は名乗れる名前を持っていないんです。」
「名前を持ってない?」
「はい、ごめんなさい」
「いや、謝る必要はないよ。
ちなみに、今はってことは昔はあったって事かい?」
「ええ、昔はありましたけど……」
「そっか。
でも名前がないって言うのはちょっぴり不便だよね。
俺がとりあえず名前をつけてもいいかな?」
昔の事を聞いた瞬間、さっと顔色が変わったのを見た俺はあせってそんなことを彼女に告げていた。
「えっ!?」
「あっ、ごめんね。
ぜんぜん知らない人に名前をつけられるって言うのはやっぱりいやだったよね」
「いえっ!
全然そんなことないです。
是非お願いいたします!」
「お、おう」
いきなりグイッときて少しびっくりしたものの、何とか言葉をつなげる。
「う~ん、それじゃあ……」
何がいいかなぁなどとつぶやきつつ、少しだけ彼女を眺める。
う~ん、基本的に俺はネーミングセンスないんだけど、あんまり変な名前をつけるわけにもいかないから難しいな~。
日本人風の名前はあんまり似合わないかもしれないな。
……。
「エクラ」
「?」
「エクラっていう名前はどうかな?
響き的にもなかなかいいかなと思ったんだけど……」
「エクラ、ですか?」
「うん」
前にやっていたゲームの中でとある精霊にこの名前がついてたんだよねぇ。
個人的にお気に入りのキャラクターだったしいいと思ったんだけどどうかな?
「ん~、いい名前ですね!」
「そうか?」
「はい!
私にはもったいないくらいです」
「そ、そうか」
どうやらとても気に入ったらしく、「エクラかぁ」などと呟きながら、笑顔を見せている。
気に入ってもらえたならよしとするか。
さて、これだけ話していて誰もこないって言うことは、ひとまずここら辺は安全ということなんだろう。
というわけで俺は、軍服のようなものを華麗に着こなしている彼女、エクラにいろいろと聴いていくことにしたのであった。




