第五話 遭遇
「ユニコーン?」
俺はその姿を見て彼女に問いかける。
角が生えている馬といえば、ユニコーンであろう。
「え……、いえ。
私は彼らのような高等且つ神聖な生き物ではございません」
直ぐに彼女は人間の姿に戻る。
そして、一瞬戸惑った様子を見せた後で、彼女は否定の返事を返した。
「私は……」
彼女が何かを言いかけた次の瞬間、急に顔を引き締め、左側、俺から見ると右側のほうをにらみつける。
「どうしたんだ?」
「何かがこちらに向かってきます。
数は一ですが、かなりの大きさです」
その言葉にあわてて俺もそちらの方向を凝視するが、俺の目には何も映らない。
「見当たらないんだが……」
「いえ、もう直ぐそこです。
……。
失礼します!」
その言葉と同時に俺は背後の崖に押し付けられる。
「お、おい!」
「しっ!
静かに……」
彼女は俺の口を左手の人差し指でおさえ、、そのまま先ほどの方角へ鋭い視線を向けている。
口を引き締め、鋭い目つきを向けている彼女の横顔を見て、こんなときにそんなことを考えるのはどうかとも思うのだが、綺麗な人だなぁ、とか、鱗を出した状態でなければ……とかいった考えが浮かんできてしまう。
くっ、健全な高校生としてはしょうがないんだ!
がしかし、そんなことばっかり考えてもいられないので、気になったことを彼女に質問する。
「いくら壁に近いからって、こんなところにいたら普通に見つかるんじゃないのか?」
「いえ、今現在、私たち自身を周囲に溶け込ませているので、しばらくの間であれば見つからないと思います」
そう言われて俺の体を見てみると、確かに後ろの壁とほぼ同化していた。
そのまま僅かの時が過ぎ、俺の目には俺の目にはのそりのそりと歩いてくる熊さん(大きさ的にそんな可愛い表現は似合わない)が映った。
具体的には、四本足で立っているにもかかわらず、俺たちよりも目線は高い程といえば分かるだろうか。
「匂いに関してはごまかせませんが、幸いなことにここら辺一体は血の匂いが散漫しています。
こちらに気づかれることはないでしょう」
「まぁ、かなり血なまぐさいからな」
小声で会話を続ける。
熊さんのほうは先ほど俺が倒したやつの肉を貪り食っているようである。
「ところで、後どのくらいこの状態を保つことができるんだ?」
ふと気になり、聞いてみることにする。
「後一分程度というところでしょうか……」
「一分か……。
このまま移動はできないのか?」
「できません。
移動すればこの状態は保てないと思います」
残念ながら、この状態であいつが一分以内にここを立ち去るという可能性は考えづらい。
かといって、あいつと戦闘して、勝てるとは到底思えない。
ならば、どこかのタイミングで逃走を図るしかないだろう。
「仕方がない。
一か八かだ。
俺の合図で逃走を開始する。
いいか?」
「分かりました」
彼女は素直にうなずいてくる。
「では行くぞ。
三、二、一。
行くぞ!!」
俺の合図と共に、二人そろって一気に駆出す。
駆出した音に気づいたのか、熊さんはこちらを見上げてくる。
ゆっくりと逃げるのも考えたのだが、回りを警戒して、結構な頻度で周りを見上げていたのでこちらの方が逃げ切る可能性は高いと考えたのだが、、これが本当に正しい判断だったのかはあまり自信がない。
自然と彼女の手を引きながら走っていたのだが、しっかりとついてきてくれていた。
後ろを何度か確認しながら反対方向へと逃走する。
後ろを気にしながら逃げると遅くなるというのはわかるのだが、どうしても気になってしまうのでしょうがないと思う。
本能的なものだからね。
幸いなことに、熊さんのほうは肉に夢中なようで、こちらを追いかけてくる様子はない。
あっ、よかった。
何とか逃げられそうだ。
そんなことを思った次の瞬間、俺の目に眩い閃光が襲い掛かると同時に大きな破裂音、そして、焦げ臭いにおいが鼻を突く。
あかん、これはあかんやつや。
どう考えても、今のはあの熊さんがなんかをしてきたっぽい。
眩い閃光で視覚を奪われたと思ったのだが、目をあけると普通に見ることができていたので、見てみると、ちょうど横のあたりにあった木が根元から俺、煙を上げていた。
これはこのまま全速力で逃げるしかない。
じゃなきゃ死ぬ。
結局俺はその後、一切後ろを振り返ることなく、熊さんとは反対方向へ全速力で走り去るのであった。




