第十話 瞬間移動
「それにしても、すぐ近くの森の中に魔族がいるというのは驚きですよね。
どこにでもいるというのは分かっているつもりでも、実際に聞くと……」
「なぁ、ひとつ聞いてもいいか?」
「はい、なんでしょうか」
「魔族はどこにでもいると前にも言っていたが、この付近にはいないのか?」
「はい、一定の範囲内に近づけば分かるそうです。
ある一定の近さに来ると急に現れるのですが、それまでは全く分からないそうです。
ですから、おそらくはそういう特殊な魔法なのではと考えられています。
一定以上の距離の敵には気づかれないというような。
全員がそこまでの隠密姓を持っているとは考えにくいですし、持っているのなら、途中で姿を現す必要はほぼないですから」
「なるほどねぇ。
でも、残念ながら、その仮説は違うと思うなぁ」
「どうしてです?」
「俺はあの女性が話し終わった後急に消えるのを目撃したんだ。
ということは、おそらくどこにでもいるではなくて、どこにでもいける。
つまりは、テレポーテーションの能力を持っているんだと思う」
「『テレポーテーション』ですか?」
「ん?
この言葉は使われていないのかな?
要は、空間内を自由自在に一瞬で移動するって言うことさ。」
「『空間』ですか?」
「空間の概念が一般的じゃないのかな?
そうだなぁ、例えばここからそこの木に走っていくとしたら、少し時間がかかるだろう?
もっと遠いあそこの木に行くとしたらもっと時間がかかるはずなんだけど、それをどちらも一瞬で移動する不思議な方法が『テレポーテーション』さ。
これで分かるかな?」
「えっと、つまりすごく速く走れるということでしょうか?」
「う~ん、ちょっと違うかな。
いくら速くても距離が伸びてしまえば、つくのに時間はかかっちゃうだろ?」
うまく例えられないので、図に頼ることにする。
「ここの円から、こっちの円に移動するときに普通だったらこうやって線の上を移動するんだけど、『テレポーテーション』はそこの移動をすっ飛ばしているんだ。
この円からこの円までこの円の外を一切通らずに移動する方法がさっきから言っている『テレポーテーション』というわけ。
この説明でどうかな?」
「なんとなくですが分かりました」
「お、良かった。
ごめんね、説明が分かりずらくて」
「いえっ、私の頭の回転が遅いのが原因だと思いますから」
「そんなことはないと思うけどね。
エクラは機転が利くし、割と助けてもらってる訳だし。
まぁ、分かったところでだ。
その、一定の距離のところにしか出ないというのもなぜだかなんとなく分かる。
多分、大人数を移動させる場合ある程度制限があって、その制限内でしか移動できないんだろうよ。
空間を入れ替える、つまり、この円とこの円の中を交換するのが瞬間移動だとすると、できる限り楽に移動するには、状況をある程度似せなきゃいけないんだろうね。
一人ならそこまで厳しくはないんだろうけど、噂じゃ、結構な大群でくるんだろ?」
「そうらしいですね」
「まっ、そういうことだろうよ。
エクラの話じゃ基本、生存者を作らなかったんだろ?
だから、消える瞬間を目にした人があまりいなかったんじゃないかな」
「そうなんですか。
見えなくなったんじゃなかったんですね」
「そうそう、実は別の場所に移動していたんだろうよ。
だから、大群が消えるときなんかは多分一箇所に集まるんじゃないかな」
「そうなんですか、ちょっと無駄なことをしていたかもしれません」
「ハハハ、無駄なことって何だよ。
まぁ、別にこれが絶対正しいというふうには思わないけど、論理的に破綻もしていないし、どこにでもいるって言うよりは信憑性もあるしね」
「そうかもしれませんね」
「さてと、この後どうする?
もう少しあの町から離れておくか?
それとも、この辺で休みを取るって言うのもありだとは思うが」
「そうですね、もう少しだけ歩きましょうか。
夜風も心地いいですしね」
「そっか、じゃあ行くとしようか」
そういって二人で立ち上がり、ゆっくりと道を歩くことにするのであった。
第二章 完




