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加護を受けし青年  作者: バルデル
第二章 町での日常
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第七話 許されざるもの

「はぁ、はぁ、はぁ」


 この程度の距離を走るだけでは息切れなどするはずもないのに、俺は肩で息をしている。

 原因は分かりきっている。

 共にここへときていた者の悲鳴、そして、突如として現れた気配。

 気配など感じ取ることはできない俺であっても分かるその気配は、明らかに強者のものだ。

 そして、その気配と、先ほどの悲鳴から察するに……。

 いや、悲鳴を上げれるということはまだ余裕があるということかもしれない。

 そんな話を聞いたことがある。

 声を上げられるのはまだ余裕があるときだと。


 そんなことを頭に思い浮かべながら、おそらく目的地であろう場所に着く。

 辺りには焦げ臭い匂いが漂い、一部の木は完全に炭化してしまっていて、煙が充満している。

 さらに言えばどこか見覚えのある剣と、何かが地面には落ちている。


「ふふふ、すべて消えてしまえばいいのです。

 不必要な存在を残しておくほど、私は優しくはありませんよ。

 さてと、眠りなさい」


 その何かの横に立つ女性がそう、静かにつぶやくと同時に何かが燃え始め、そして、数秒もしないうちに、跡形もなく消え去ってしまった。

 その女性は火が燃え尽きた後もその場を離れず、目線を燃え尽きた跡に向けている。

 この間に不意打ちすべきとも思ったが、ほぼ間違いなくこちらに気づいてるだろうと察し、それは諦める。

 さて、どうしたものか。

 正直言って戦いを挑んでも無駄死にな気がするんだが、かといって、逃げられるのか?

 いや、待て。

 先ほど話していたのは俺にも分かる言語だった。

 ならば、話し合える余地はあるのではないだろうか。

 そもそも、実際に燃え尽きたのがアリシアさんなのかもよくよく考えてみれば定かではない。

 よし、ひとまず話しかけてみることにしよう。


「君はいったい、何をしているんだい?

 森の中で火を燃やすなんて危ないと思うんだけど」


 もう少しましな会話ができそうな気もしたが、現状、プレッシャーに押しつぶされそうな俺ではこれが限界であった。

 それに対し、お相手は返事もなく、こちらに目線をあわせようとすらしない。


「彼女が何かしたとでも言うのかい?

 答えてくれないかな?」


 暫しの間があり、会話は無理かと思い始めたそのとき、静かに語り始めた。


「彼女に罪はないわ。

 でも、彼女の存在に罪はあるの

 故に一時の安らぎを与えた、それだけよ」

「いったい何を言っているのか分からないんだが」

「別に分かってもらおうと言った訳ではないわ」


 そっけない返答に戸惑う。

 よく分からない返答ではあるがそこに敵意は感じられない。

 でも、今の応答でおそらく正体は分かった。


「で、君は魔族ということでいいのか?」


 魔族、エクラが言うには『どこにでもいる、変わった存在であり、敵』。

 そのときはあまり詳しく聞いてなかったのもあってよく分からなかったが、おそらくこれがそうなんだろう。

 急に現れた変わった存在というのはぴったりな気がする。

 がしかし、敵なのかどうかは、定かではないのだが。

 すると、俺の返事を聞いてその女性は始めてこちらを向く。

 両目が金色に輝いていることを覗けば、人間と変わらないように見える。

 がしかし、自分やエクラという実例があるように姿が変わる可能性も否定できない。


「私は、その名を好まない」


 怒りを感じさせる声色で短くそう答える。


「ほう、ならなんと読んでほしいんだ?」

「私たちのことをまとめて呼びたいならば、『オラクル』と呼ぶがいい」


 ある程度会話は成立するみたいだ。

 怒りをこめた声に間違いなく自分がかなう相手ではないと悟った俺は、会話を続けることを選択する。

 そして、運のいいことに相手にもこちらに害をなすつもりはないようで、会話を続けてくれている。

 彼女には彼女なりの価値観があるのかもしれない。

 ひとまず、自分が生き残ることを優先しようと思考を深めていると『オラクル』の女性?がこちらに話しかけてきた。


「さて、竜の子よ、忠告しよう。

 今すぐここから立ち去るがよい。

 そして、遠く離れた地へと移動することを推奨しよう」


 有無を言わせぬ声色でそう告げる彼女。

 その声は、不思議と彼女の言うとおりにしようと思わせるなにかがあった。


「何故かを聞いてもいいか?」

「駄目だ」

「そうか。

 まぁ、忠告感謝するよ。

 ありがとな」


 俺がその言葉を発した直後、彼女は後ろを向き、次の瞬間にはいなくなっていた。


「瞬間移動か?

 やっぱり、戦わなくてよかったかな」


 どうやら、俺の直感は正しかったらしい。

 瞬間移動できる敵とか怖すぎて笑えない。

 幾度か話をした人を殺されたとはいえ、それを理由に無駄死にするのは無意味すぎる。

 がしかし、何もしないというのは命の価値の低いこの世界でも流石に駄目だろう。


「せめて、埋葬……いや、塵ひとつ残ってなかったっけか」


 顔見知りの死はショックだが、自分も一歩間違えれば死んでいたという事実からか、そこまでショックを受けない。

 彼女のアリシアさんに対する行動にどこか慈悲のようなものが感じ取れたというのも理由のひとつかもしれない。


「彼女に罪はないが、彼女の存在に罪はある、か」


 存在に罪はないというのは聞いたことがあるが、存在にのみ罪があるというのはあまり聞きなれない言葉だ。


「俺も少し、貢いでおくか」


 自分の持つ獲物を焼け跡の部分に突き刺す。


「せめて、安らかに眠れるよう、祈ります、アリシアさん」


 そう言って、背を向けるとなんともいえない感覚が俺を襲ってきた。

 あれ?

 やっぱり、俺割りとショックを受けているのかな。

 ハハハ、ふぅ。


「ひとまず、町に戻るか」


 だが思考をとめるわけには行かないだろう。

 彼女の言葉の意味を考えなくてはならないのだから。

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