閑話 黒いマント
デエス大森林に程近い町、エリュウテリア。
この町は近くの森の影響で付近に数多の野生生物が存在し、その中には相当危険なものも存在する。
それに対抗すべく、この町では様々な人々が入っては出て行き、そしてまた入って来る。
この町がそれに対して検問などを一切引かないがために、この町の住人は皆怪しいものに対してはかなり敏感である。
この出店の並ぶマーケットでもそれは同じであり、店の主人や道行く人々、果てはそこを歩く子供たちまでも、買い物などをしながら辺りを警戒している様子が見て取れる。
そのような中を、明らかに目立つような黒いマントで全身を覆った一人の人物が歩いている。
顔まで完全に覆われており、どこから前を見てるかすら分からないレベルである
この町では人の出入りが激しいため、町の人々は服装などをそこまで気にすることはない。
とはいえ、流石に町の中でそこまで奇抜な格好をしているのであれば、周りの人はいきなり喧嘩を売ったりはしないまでも、一度目で追うぐらいは普通であろう。
しかし、その人影に目をやる人物は一人もいない。
それどころか、人々はその人影を自らよけていくかのように歩いていく。
マントの人物もその周りの人々もそれが当然であるかのように動いていく。
そんな中……。
大量の剣や槍、剣の先がボロボロなことからみて恐らくはどこかの店からもらってきたのであろう、を抱えている銀色の髪に作業服のような真っ黒の服を着た女性がすたすたと歩いてくる。
前が見えないようにみえるが、こちらはその周りの人たちが気を使っているためであろう、すっと道が分かれることによって無事に通過することができている。
この両者はゆっくりとではあるが、同じ十字路に向かって歩いてくる。
そして……。
「「えっ!?」」
ガシャン、カランカラン
そんな音とともに、銀髪の女性が持っていた箱が宙に浮き、中に入っていた剣や槍が外に放り出される。
さらに、そのなかに灰のようなものが入っていたのだろうか、幸い周りに人はいなかったものの、その二人に灰がたっぷり付着してしまう。
「あっ、申し訳ございません。
綺麗にいたしますので……あれ?」
一瞬ついた灰をこれまた一瞬で綺麗にした銀髪の女性が驚きの表情を見せる。
その眼前にはすでに自らの服に付いていた灰を綺麗にし終えた黒いマントの人物が座り込んでいた。
◇
カリカリ カリカリ
表の通りから一本中に入ったとある小さな広場。
その広場に無造作に置かれた小さめのベンチに揃って座っている先ほどの二人は、銀髪の女性のほうが持っていたパンを仲良く食べていた。
どちらも女性なようであり、黒いマントで全身を覆ったほうも、その下からは明らかに女性のものと思われる声が聞こえてきている。
「鍛冶ですか。
私の連れとは気が合いそうねぇ」
「お連れさんは鍛冶をなされているのですか?」
「う~ん、ただ武器を見るのが好きなだけかなぁ。
そもそもシアは武器なんて一切使いませんから。
それはそうとして、このパンはシアがとても好みそうな味ねぇ。
良かったら、少し分けてくれないかしら?」
「はい、構いませんよ。
その袋ごと持って行ってしまっても大丈夫です。
たくさん作ってもらったので、帰ればまだまだありますから。
ちなみになんですけど、もしかして好みには合わなかったでしょうか?」
「あぁ、そういうわけじゃないのよ。
ただ、私個人の考え方が、空腹を満たせるなら何でもいいみたいな考え方だから」
「そうなんですか~。
でも、お連れさんの好みの味とかはわかるんですね」
「まぁ、分かりやすいのよねぇ。
なんだろう、私の連れはいろいろと考えていそうで実は考えていないタイプと言ったところかしら」
「そうなんですか。
仲がよろしいんですね」
「まぁ、そうねぇ。
あぁ、そうそう。
聞きたいことがあるんだけどいいかしら」
「なんでしょう?」
「あなたはどこかの教会にでも務めていたことがあるのかしら?
あの技はごく一部の神官しか使えないと思っていたのだけれど……」
「あぁ、神官ですか。
あれらは、ただ単に技を定型立てて、表面だけ模倣しただけにすぎませんから、私のとはまったくもって別物ですよ。
それで奇跡などと言っているんですから、ちゃんちゃらおかしいですよね」
「ふ~ん、なるほどねぇ。
さて、ごちそうさまでした。
また縁があったら会いましょう」
右手の中指と薬指をくいくいと動かし、去っていく黒いマントの女性。
「はい、ご縁がありましたらまたよろしくお願いします」
そういうと、傍にあった荷物を持ち直し、銀髪の女性も彼女とは逆方向に歩いて行ったのであった。
◇
「う~ん、もったいないなぁ~。
でもさすがに相性が悪すぎるし……、気づかれたら絶縁どころか敵対が確定的なのよねぇ」
とある裏道で顔を見せぬ一人の女性が呟いている。
「さすがに信用するには時間がないし、そもそもそのやり方なら今じゃなくてもいいし。
それに、鍛冶をやってるっていうことはしばらくはここから出ていくことはないだろうし、大丈夫、よねぇ?
とりあえず今は、シアのいないうちに手駒を増やしておかないと、あまり猶予はなさそうだし?」
「そこの君、今、時間ないかい?」
そんなことを呟いていた彼女に後ろから声がかかる。
声を掛けてきたのは身なりの良い、ボディーガードと思わしき男二人を連れた男性。
その男性の表情を見る限り、顔も見えぬ女性を全く怪しんではいない様子である。
「はい?
えっと、少しでしたら大丈夫ですが?」
先ほどまでとは少し違う声色でその女性は返事を返したのであった。




