第六話 災厄①
「ふふふ、すべて消えてしまえばいいのです。
不必要な存在を残しておくほど、私は優しくはありませんよ」
パチパチと炎に包まれながら消失していく周りの木たち。
さらに火を放とうとするその人影。
「くそっ、あのとき彼女と別れて行動なんかしなければこんなことにはならなかっただろうに」
そう呟くもそれは後の祭り。
彼女の変わり果てた姿を前にし、俺は……。
◇
「ここら辺でいいですかね。
あまり森の奥深くに行き過ぎてしまうと危険かもしれませんから。
私も万全ではないですしね」
「そうですね、安全も考えれば、そこまで奥に行く必要はないでしょう」
十分ほど奥へと進んだところで歩みをやめる。
目的はリハビリでのようなものだし、十分だろう。
というか、個人的に言わせてもらえば、ここまで来れるあの足があれば十分だと思う。
少なくとも、こないだ戦ったあの気持ち悪い蜘蛛ぐらいには勝てると思う。
まぁ、彼女たちを襲ってきた敵はもっと強いようだし、実際に見たことはないからこれで十分などとは言えないな。
「そういえば、対人戦とかでもリハビリになったんじゃないですか?」
いまさらながらに思いついて聞いてみる。
「ん?
まぁ、確かになるかもしれないが、今は相手をできそうなやつが町にいなかった故ですな。
それに、相手は魔物を使役することも多いですから。
なれば、人ではなく、魔物と戦うべきだろうよという判断です」
「なるほどですね~。
あっ、ちょっと先に行っててください。
面白いものを見つけたので」
「ん?
なんなら私も手伝うが?
それとも一人のほうが都合がいいのか?」
「まぁ、そうですね。
一人で十分です」
そう言って別れる。
さてと。
微妙に口調が安定しないしゃべり方なのは気にしているかもしれないから突っ込むのはやめてくとして、俺が見つけた面白いものについて話そう。
俺が見つけた面白いものというのは、通称『悪魔の罠』と呼ばれる植物だ。
正式名称とかは知らないが、この名前は結構わかりやすいと思う。
この植物はかなり害悪でそばを通る獲物なんかをいい香りと味のする果実で誘い込み、蔦で捕まえて消化するという食虫植物のようなものだ。
それだけなら大して害悪ではないと思うかもしれないが、この植物の本当にいやらしい点はそこではない。
この植物の体を切りつけたりしようものなら、よくわからん誘因物質みたいなもので、周囲の魔物なんかをめっちゃ呼び寄せるのだ。
捕まった時に安易に切ったりして抜け出すことができないというだけで、こちらの行動はかなり限定されてしまうのだそうだ。
ただまぁ、色はなぜか森の中では超目立つピンクと黄色の混合色なので、森を歩くような人が引っ掛かることはほぼないのだそうだが。
さて、こんな植物ではあるが、獲物を呼び寄せるためのみなだけあって、その実はかなり美味である。
なんで知ってるかって?
そりゃぁ、食べたことがあるからに決まってるでしょう。
実はこの植物、割と簡単に無力化できるのだ。
俺が見つけたその方法を俺は「貿易」と呼んでいる。
どうやるかを今から実際にやってみよう。
まず最初に近くで適当な獲物を狩ってきます。
できれば大型が好ましいですね。
小型だと、何回かやりなおさなくてはならない可能性が高いですから。
今回はそばにイノシシがいたのでそれを狩りました。
さて、次にそのイノシシを悪魔の罠の方へと投げ込みます。
すると奴らは繁殖のチャンスだと思うのか、捕まえた後で、自らの果実をポイポイ周りに放ちます。
もしかしたら、その身目当てで寄ってくる奴らをさらに捕まえようということなのかもしれないな。
まぁ、そんなわけで放たれてきた果実をゲットするという簡単なお仕事なのだ。
エクラも近寄らないほうがいいですよと言っていたので、あまり知られていない技なんだと思う。
俺の何事に対しても物怖じしない姿勢と発想の転換が活きた結果であるといえよう。
決して狩りの帰りにうっかり突っ込んでしまって、持っていた獲物を投げ込んで自分は逃げようとしたというちょっぴり卑怯な感じのするカッコ悪い出来事から生まれたとかそういうことではないのだ。
いいね?
さて、ポイポイ投げられた果実をちゃっかりとゲットしていく。
一気に放られれば楽なのだが、一個一個投げられるのでちょっぴりめんどくさい。
が、その労働と収入を比べればどちらがいいのかは一目瞭然なので別にいいのだ。
対価がない労働は基本したくないが、十分な対価があれば喜んで働く。
人間とはそういうものであろう。
というわけで、十分な実を手に入れた俺は彼女を追いかけようとして重大な問題に気づいてしまった。
やべぇ、どっちにいったのかわからねぇと。
いつもはエクラがいるから特に気にしてなかったし、道中の感じを見る限り、アリシアさんも策的能力的なものは高いらしく、連絡手段を必要とはしていなかったのだろう。
がしかし、俺はそんなものはもちろん持っていないのである。
つまり、どういうことかといえば……。
「もしかして迷子?」
いやいや、この年になってそんな、ねぇ?
……。
…………。
仕方ないか。
森で大声を出すといろいろよってきそうなのでやりたくなかったが、緊急事態だ。
そう俺が結論付けた直後、「キャー」という大きな悲鳴が俺の左前方から聞こえてくる。
あ、良かった。
いるのはあっちか。
そう思うのと同時にもうひとつのことに気づく。
「あれ?
ちょっと不味いんじゃないのこれ。
悲鳴を上げるってことはアリシアさんピンチ?」
加えて聞こえてきた雷が落ちたような音を前に、俺はそちらの方向へと突っ込んでいくのであった。




