第四話 行商人とお客さん
「くた~」
あぁ、眠い。
思わず口でこんな擬音を発してしまうぐらいに眠い。
お察しの通り、現在いるのはお店のカウンターだ。
もうすぐ正午になろうかという店内にはいまのところ人はおらず、ぶっちゃけ暇である。
そもそも、ここのお店はオーダーメイド的なものを作るほうが多いらしいので、あまり予定外の客が入ることは少ないのだとか。
まぁ、いないわけではないし、そもそもその予約を取りに来る人もいるので、誰か一人は店番をしなくてはならないのである。
それにしても暇だ。
暇つぶし用に何かあればいいのだが、前にも言ったようにそういうものは一切ないし、店番なので眠るわけにもいかない。
こないだ寝ていたじゃないかって?
キ、キノセイデスヨ。
チリンチリン
さて、あまりにも暇なので、変なことを考えてしまっていたが、どうやらお客さんが来たようである。
そのまま自然な感じでカウンターの前までやってくる。
ふむ、身のこなしや雰囲気から見て、かなり裕福な人のようですな。
もちろん知ったかぶりである。
言ってみたかっただけで、そんなものを見抜ける目は俺にはない。
「いらっしゃいませ」
「あ、どうもこんにちは。
ラグナーさんは今、鍛冶の最中でしょうか?」
「ええ、そうですね。
よろしければ、お呼びしましょうか?」
「あぁ、それではお願いいたします」
「では、失礼ですが、名前を伺っても?」
「はい、カルロと伝えていただければわかると思います」
「了解しました。
少々お待ちください」
「急ぎではありませんので、お構いなく」
先に名前を聞いておいたほうがいいだろうとこないだ気づいたので、聞いてからラグナーさんを呼びに行く。
「ん?
あぁ、少し待ってくれと言っておいてくれ。
今手が離せないんだ」
「分かりました」
前回と似たようなパターンな気がする。
「今少々手が離せないようですので、もう少々お待ちください」
近くの椅子をすすめ、そう伝える。
「そうですか、分かりました。
あぁ、そうでした。
私は一応、行商人として、各国を巡らせてもらっています、カルロと申します。
一応、ラグナーさんとは結構長い付き合いなんですよ」
「そうなんですか、私はケイと申します。
今は、ここで居候させてもらっている形ですね」
そんな感じで簡単に自己紹介をした後、世間話のようなものを続けていく。
まぁ、店番が暇だの、なんだのみたいな話だ。
「そういえば、カロス聖王国につい手はご存知でして?」
「ええ、勿論。
商人は情報が命ですからね。
商人として言わせてもらうと、混乱は儲けのチャンスなんですが、さすがに国の滅亡となるとねぇ。
正直困りものですよ」
「でしょうね。
混乱とかもすごそうです」
「あぁ、そうそう、そういえばこないだあの国の本を購入したんですよ。
よかったら一冊どうです?
暇つぶしにはなるかもしれませんよ?」
「よろしいんですか?」
「ええ、私が個人的に買ったものですから。
私はもう読み終わって必要ないですしね。
暇つぶしにはなると思いますし、今外にあるんで、持ってきますね」
「ありがとうございます」
そう言って、外に出ていく。
すると、戻ってくるとほぼ同時に、ラグナーさんもやってきた。
「ひさしぶりだな、カルロ。
今日はどうしたんだ?」
「いくつか頼まれたものがありましてね。
あと、必要ない剣がいくつか入ったので、同時に売り払おうかと」
そんな感じで二人が話を続けていく。
「それじゃあ、お願いいたします」
「おうよ、任せておけ」
「あぁ、そうそう。
これがその本だよ」
「ありがとうございます」
帰り際に本を受け取る。
タイトルは……表紙はただの黒い紙なのでわからない。
まぁ、別に後で調べればいいか。
どうせこの後も暇なのだし。
「ありがとうございました~」
カロスさんが出て行った後、ラグナーさんも出て行ってしまい、またもや手持無沙汰になってしまった俺は早速もらった本を読み始める。
……、そしてまさかの文字を読めないことが発覚。
あれ~?
一応この国の文字は読めるんだけどな~。
国によって言語も違うようである。
ちっ、まさかの事態である。
これじゃあ、何の暇つぶしにもならないじゃないか。
チリンチリン
そんな風に悪態をついていると、来客を告げるベルの音が聞こえる
「いらっしゃいませーって、おや?
何か問題などがあったのですか?」
「いえ、そういうわけではございません。
ただ、こちらの短剣のほうの手入れもお願いしておこうと思いました故」
「あっ、そうですか、少々お待ちください」
来店したのは先日も来たアリシアさんだ。
何か問題があったのかと思ったが、そういうわけではなかったらしい。
修理の依頼ということなので、とりあえずラグナーさんを呼びに行く。
すると、とりあえず置いておいてくれとのことなので、その旨を伝えに戻る。
「三日あれば大丈夫だそうですが、それでよろしいでしょうか?」
「はい。
大丈夫です」
机の上に置いてあった本を読んでいたらしい彼女が顔をあげて、返答する。
わずかではあるが、プレッシャーを感じる。
一体どうしたのだろうか?
その本に興味があってほしいとかなのかな?
「これは、あなたの本なのでしょうか?」
「ええ。
今さっき来た行商人さんから頂いたのですが、残念ながら読めないのですよ。
暇つぶしに最適だと思ったのですが、残念です。
よかったら差し上げますよ?」
「えっ、いえ。
そういうことではないのですが……」
「遠慮する必要はありませんよ。
本は読んでもらってなんぼですから」
もらったものを人にあげるのはどうかという気もするが、こと本に関して言えば、読めない人が持っていても何の意味もないし、今回の場合は許される範囲だと個人的に思う。
というわけで、机の上に置かれた本を彼女に手渡し、話を続ける。
「それにしても、外国の本を読めるなんて、博識なんですね。
自分はほかの国の言葉はぜんぜんできませんから」
まぁ、なぜかこの国の言葉は読めるんだけども。
ちなみに俺の英語の成績は赤点ではないが、悲惨な感じだ。
「王都にすんでいたということは、そこの学校か何かで習ったのですか?」
「ええ、まぁ、そうですね。
はい、学校で習っていましたね」
どこか、戸惑っているような感じで話す彼女。
あんまり成績はよくなかったのかもしれないな。
それに、よくよく考えれば、店の人間が客の私生活に首を突っ込むものでもないか。
「それでは、手入れのほうは任せておいてください。
後、何か御礼をしたいということでしたら、暇つぶしになるようなのがいいですね」
彼女の申し訳ないなみたいな表情を見て少しだけ付け足しておく。
こういっておけば、あんまり遠慮することもないだろうからね。




