第一話 お客さん①
とある日の正午。
どうしてこうなったのかわからないが、おれは店番を任されていた。
研究好き二人は、朝から何かをやっていて作業場となっている地下室から一切出てこない。
そして、パルヴィさんもやっぱり朝から買い物に行かなくてはいけないということで、誰もいないのはまずいということになり、おれが臨時で一応店にいるというわけだ。
もっとも、正午に来店する人はほとんどいないらしく、結局暇な俺は背もたれつきのゆったりとした椅子に座って惰眠を貪っていた。
もともとこんな性格ではなかったと思うのだが、森の中の暇人生活のせいでまったく時間を気にしない生活になってしまった。
慣れとは怖いものである。
三か月もの時間のせいで、いろいろと踏ん切りをつけている俺は特になにを思うこともなく、ちょっぴり暖かい店の中で椅子に座っている。
チリンチリン
風に揺られてなっている風鈴の音がする。
あぁ、日本の夏を思い出すなぁ。
少し涼しい風が頬をくすぐって、気持ちがいい。
「あ……ませ……」
暖かい室内と、少し涼しい風を頬に受けながら、背もたれによっかかる。
「あの~、すいません」
ん?
呼びかけられる声に反応して目をあけると、どうやらお客さんらしき女性が目の前に立っていた。
「あ、いらっしゃいませ。
いかがなさいましたでしょうか」
眠い目をこすりつつ、返答する。
あぁ、眠い。
聞かれても分からないし、ラグナーさんを呼んでこなくちゃなぁ。
「武具の修理を頼んでいたんだけど……」
「武具の修理?
いわゆる冒険者の方ということでいいのかな?」
「はい、そうですよ」
「へぇ~、この町に残っている冒険者の人なんていたんだ~。
まだ新人とか?」
新人以外は戦争に行っているから、客は来ないって言ってたんだけどなぁ。
この店って結構高級な店だって聞いてたんだけど、新人さんも来るのかな?
「いえ、そういうことではないんですよ。
ただ、一月ほど前の緊急依頼で怪我をしてしまったので治療中だったんです。
幸い、結構たくさんのパーティーで組んでいたグループだったから助かったんですけどね」
「そうなんですか~。
それじゃあ、ラグナーさんを呼んでくるのでちょっと待っててくださいね」
怪我でいけなかった人ってことか。
まぁ、とりあえず呼んでくればいいか。
「あっ、よかったら、そこにあるパンとか食べていてください。
なかなかおいしいですよ」
俺が作れる数少ない料理であるトースト(オーブンなどないので直火である)を指さしてから、俺はラグナーさんを呼びに行くのであった。
コンコンコン
「失礼しま……って何だこれ。
アルコールの匂いがひどいな。」
作業場に入った途端に結構強いアルコールの匂いが鼻を突く。
アルコールって燃えやすいんだが大丈夫か?
そんなことを考えて、地下室に入る。
部屋の中は鍛冶用の炉やらなんやらが置いてあるのだが、それらには一切火の気はない。
そんな中で、エクラとラグナーさんが何かつぼをの前で作業をしている。
「ラグナーさん。
武具を取りに来たっていうお客さんが来ているんですけど~」
「ちょっと待ってくれ、今大事なところなんだ」
いや、お客さんなんだからと思うも、彼の店なので別にいいだろう。
というわけで、少し待ってみる。
すると、五分ほどたって、ラグナーさんが振り返ってこっちを見てきた。
「武具を取りに来たっツウのは男か?
それとも女か?」
「女性の方でした」
「そいじゃあ、右から二番目のやつを持ってってくれ。
一応調整は終えているはずだが、もし合わないようだったら持ってきてくれ」
「分かりました」
そういうと、ラグナーさんはまた壺のほうに向き直ってしまう。
「よし、それじゃあ、こっちだな。
こっちはどうしたんだったか?」
「こっちは蜂蜜と……」
一体何の話をしているんだろうか。
アルコールの匂いと蜂蜜というワードからして、お酒でも造ってるのかな?
でも、それだと、なんでエクラがいるのかがわからんなぁ。
まぁ、一応、アルコールを消さないようには出来たみたいなんだけど。
そんなことを考えるも、お客さんを待たせていることに気付いた俺は、少し急ぎ気味に店のほうへと戻るのであった。




