閑話 エクラのご奉仕②
「さて、どうしましょうか……」
ベッドの上で頬に手を当て、エクラは考え込んでいた。
彼女の相方であるケイはまだ部屋に戻ってきていないので、部屋には彼女一人。
ちなみに部屋が一緒なことについては、ケイは泊まらせてもらえるなら部屋を分けてもらおうと思っていたのだが、エクラがすでにもうひとつの寝具を部屋に運び終えていたので、別の部屋にしようと提案することが出来なかったという事情があったりもするのだが、それはまた別の話である。
「あきらめて別の仕事をするというのが一番いいんでしょうけど、それはちょっと悔しいですからね」
負けず嫌いで、出来ないならまず努力しようと考えるエクラは先程の失態をどうすれば改善できるのかを考えていた。
とはいえ、毒を消してしまうのはエクラの父親、いや、先祖代々受け継がれてきた力であり、早々打ち消すことは出来ないように思える。
がしかし、とある事情から自らのその力が弱まっていることを知っている彼女は、それならば可能性はあると思っていた。
「アルコールという毒なんでしたっけ?
私が消してしまっているという旨みは」
先程までの会話を思い出す。
ケイが言うアルコールというものは彼女には分からなかったが、とりあえず、手に持つ物の毒を消さないように出来れば解決なのだ。
エクラ自身は普通になくてもおいしいと思ったのだが、他三人の反応からするに、それでは納得しないと思われる。
「とりあえず、先程のものを持ってきてもらわないことには始まりませんね。
少し貰ってきましょうか……」
そう思ったのエクラの頭の中に、以前のケイとの会話がよみがえる。
『等価交換……』
『等価交換ですか?
えっと、どういったものなのでしょうか』
ある日、ケイが唐突に呟いた言葉に聞き覚えがなかったエクラは興味を覚え、聞き返した。
『ん?
知らないのか?
等価交換って言うのは何かを貰ったり、分けてもらったりする際に、こちらからもそれ相応のものをあげなくてはいけないって言う原則のことなんだ。
まぁ、簡単に言えば経済の基本みたいなものだね』
彼が呟いたのは実際にはアニメで出てきたワードだったのだが、アニメの話などをしてしまうと引かれるのではという風に思い、ちょっとごまかしながら、そんな回答を示した。
がしかし、そんなことを知らないエクラは人間の社会ではそれが基本なんですねと納得してしまっていたのだ。
「基本というからには何か交換できるものが必要ですね……」
とは言うものの、彼女には酒の価値など分からないし、持ち物も蜂蜜以外とくにない。
「蜂蜜だけで足りるかは分かりませんし、何か価値のありそうなものを狩ってくるべきですか。
そうですね、そうしましょう。
私自身戦闘は苦手ですけど、ここら辺の生き物ならば私でも何とかなりそうですしね」
ここに来るときの巨大蜘蛛を見たときの二人の驚きからして、ここら辺にあれを超えるような生物はいないと判断し、エクラは単身森へと向かっていくのであった。
「……。
よくよく考えてみると、私はどんなものが価値を持つのか知りませんでしたね」
森の中でエクラは一人そんなことを呟く。
もう辺りは真っ暗ではあるが、夜目の利く彼女にとっては何の障害にもなっていない。
「分からないといっても、むやみに森を壊すわけにもいきませんし……、どうしましょうか。
……、最初に会ったものということにしましょうか。
それがだめなら、ケイさんに頼めばきっと何とかしてくれると思いますし、それでいきましょう」
しばらく一緒に暮らしてきて割と信頼を置いているのであろう、そんなことを呟きつつ、彼女は森を散策する。
軽い足取りで森の中を進む彼女の頬を夜の少し肌寒い風がなでる。
そのとき、彼女がどんな顔をしていたのか、それは周りの木々のみが知っているのであろう。
「おかえり。
どこに行ってたんだい?」
「お酒を貰いにいっていたんです」
「ここにおけばいいかい?」
「はい、お願いいたします」
夜、他の皆が寝る直前になって帰ってきたエクラは無事、取れた肉を対価にお酒を得ることに成功していた。
もっとも、恐らく頼めばただでもらえたのではあろうが。
「お酒なんて何に使うんだい?」
「いえ、ちょっと実験をしようと思って」
「ふ~ん。
何か手伝えることはある?」
「あっ、それではこちらに小さい器がいくつかあるんで、こちらに分けてもらえませんか?
私が触ると台無しになってしまう可能性が高いので」
「ん、了解」
そういってケイは酒を移し始める。
「それにしても、これをつかって何の実験をするんだい?
触ったらアルコールがなくなっちゃうんだし、特に何も使えなさそうな気がするけど」
「何を言っているんですか、ケイさんは。
それを何とかするための実験に決まっているじゃないですか」
「……。
別に運べないなんてことは気にしなくても大丈夫だぜ?
俺がやってもいいんだし」
「それじゃあ、や、ですよ。
だって出来ないなんて悔しいじゃないですか」
「そうかい?
ま、やらない後悔よりやって後悔って言うもんな」
「そうなんです?
でも、いい言葉ですね、それ」
クスクスと笑いつつ、分けられたお酒を手に取るエクラ。
彼と彼女の夜はまだまだ始まったばかりなのであった。
◇
(にしても、割と子供らしいところっていうのかなもあるんだな~。
負けず嫌いな感じとかが子供っぽいよね)
先ほどの「や」という言葉を聞いた俺はそんなことを考える。
個人的に努力をしている人というのは見ててすごく応援したくなるので、心行くまで手伝ってあげたい。
それが成功するにしろ、しないにしろね。
入っているお酒を酌み分けつつ、そんなことを考えていると、エクラが声をかけてくる。
「あの~、ケイさん。
ちょっとお願いがあるんですけれど、いいですか?」
すでにお猪口ぐらいの大きさの器十個を二セット以上まわし、いろいろ試行錯誤していたのだろうか、ちょっぴり顔を赤くしたエクラがこちらを向いている。
「かまわないよ。
なんだい?」
クイクイっと手招きをするエクラに近づいていく。
「これを飲ませていただけないでしょうか?
一度手を触れずに飲んでみた場合、どうなるのかを知りたいので」
「あぁ、なるほど、別にかまわないよ。」
指で示されたお猪口を持ち上げ、エクラのほうに直るとエクラは顔にかかった髪を軽く押さえ、少し上を向いた状態で目を瞑り、口を小さく開けていた。
……。
よ、よし、頼まれたんだし、別に何も問題はないよな?
ここにはいない誰かに言い訳をしつつ、役割を遂行していくのであった。




