閑話 エクラのご奉仕①
ラグナー・パルヴィ家に泊めてもらえるようになった、ケイとエクラは彼ら二人に食事の時間中などを中心にこの町の様子などについて、色々と教えてもらうことになった。
もっとも、基本的に聞き出す役目はケイであり、エクラに関してはほとんど何かをすることはなかったのだが。
とまぁそういう理由もあり、若干手持ち無沙汰となったエクラは特にすることがなかったため、食事の準備をしているパルヴィを手伝おうとキッチンへと向かっていた。
「パルヴィさん、何かお手伝いできることはございますか?」
「えっ、あぁ、いいのよ、そんなに気を使わなくても。
仮にもお客さまなんだし、手伝いなんてさせられないわ」
「ですが、私たちは泊らせてもらっている身。
ですから、少しぐらいお手伝いさせていただけないでしょうか」
「う~ん、そうねぇ。
あぁ、それじゃあ、お酒をついであげてもらえないかしら」
「分りました。
えっとグラスなどは……」
「グラスはあっちの棚の中よ。
お酒はこれね」
そう言ってパルヴィは料理の盛り付けに戻る。
残されたエクラは、グラスと、お酒の入ったボトルを手に、二人の座っているテーブルへと向かう。
「お酒をお注ぎいたしますね」
「おっ、悪いねぇ」
「あっ、それじゃあよろしく頼むよ」
二人に一言告げたうえで、エクラはグラスに酒を注ぎ、二人の前に運ぶ。
尚、ケイは一日で特に酒を飲むことに違和感を感じなくなったようであり、普通にお願いしている。
「どうぞ」
お酒を注ぎ終わったエクラは、更に他の食事を運ぶのを手伝おうとしたのか、またキッチンに向かおうとしたところで、注がれた酒に口をつけた二人から声があがる。
「なんだこれ?
葡萄ジュースか何かか?」
「おい、パルヴィ。
今日は酒じゃないのか?」
「えっ、そんなはずはないわよ昨日と同じものを用意したはずですから。
同じ樽のものだから、味もほとんど変わらないはずよ」
「いやいや、これはどう考えたって酒じゃねぇ。
ちょっと飲んでみろよ」
「そんなはずはないんだけどねぇ」
そう言いつつ、料理の手を止め、こちらへと向かってくる。
そして、そのお酒を一口飲む。
「あら、本当だわ。
いったいどうしたのかしら」
彼女もおかしいと感じたようで、そんな事を言いつつ、首をかしげている。
それを見たエクラも同じように一口飲み、そして答える。
「そうでしょうか?
昨日いただいたものと同じ味がするのですが……」
「「「えっ!?」」」
エクラの回答に対して、三人が驚きの表情を見せている。
「何を言っているんだい、エクラちゃん。
どう考えても味わいが違うだろ?」
「そうよ、エクラちゃん。
こんなのはお酒じゃないわ」
「どう考えたって、アルコールが抜けきってるし、別物でしょ。
そこまで味音痴なのかい?」
「ですが、機能と味は変わっていないと思いますよ、本当に」
その回答に三人が不思議な顔をして、考え込む。
しばらくして、ケイが回答を思いついたのか、頭の上に電球がついたような顔で皆に告げる。
「もしかして、エクラが無意識でアルコールを無効化しちゃったんじゃないのか?
アルコールって人体にとって毒のようなものだし。
たしか、エクラって解毒とかを勝手にしちゃうんじゃなかったっけ?」
「え、ええ。
体質的に、よほど強い毒でない限り、跳ね除けてしまいますけれど……」
「だよね。
たぶんそれのせいじゃないかな?」
「ちょっと待った。
アルコールっちゅうのはなんだ?
酒に毒なんざはいっとらんぞ」
「ラグナーさんが言うところの味わいを作り出している素ですよ。
人を酔わせるとかそういう意味で害がないわけではないですしね」
「あぁ、なるほどね。
確かに、状況や、人によっては毒となる場合もありますからね」
「そうです、で、それを無効化しちゃうんで、たぶんアルコール、旨みがなくなっちゃったんじゃないかと思います」
「……。
私のせいみたいですね、申し訳ありません。
皆様に迷惑をかけてしまったみたいで」
「あぁ、いや、謝るようなことじゃないさ。
ただ、向いてないって言うだけの話だよ。
別の点で役に立っているからそんなに心配しなくたっていいさ」
「そうだぞ、エクラちゃん、そんなに気にするようなことじゃないさ。
酒なんざ、またつぎなおせばいいんだからな」
自分のせいらしいということがわかったエクラが申し訳なさそうな表情を浮かべ、それに対し、男二人があわててフォローに入った。
「そうよ、エクラちゃん。
謝るほどのことじゃないわ。
それじゃあ、向こうにある料理を持ってきてもらってもいいかしら。
お酒のほうは私がつぐわ」
「分りました」
パルヴィに言われ、ちょっぴりがっかりしたような後ろ姿を見せつつ、キッチンのほうへと向かうエクラ。
しかし、その一方で、彼女の目は何かをやってやるぞというやる気に満ち溢れていたのであった。




