第十五話 治療
「よしっ、これで大丈夫かな。
残党の処理もできたでしょ」
二十匹近くいた蜘蛛はすべて狩りきったはずである。
ただ、蜘蛛の血で他の獣が寄ってくるかどうかは不明だが、寄ってこないという保障はないので、できるだけ早くここを移動したほうがいいと思う。
地面に横たわっている二人と、その横で何かをしている一人を見つつ、そんなことを考える。
すると、こちらの視線に気づいたのか、一人がこちらへと歩いてきた。
「治療は終わったのかい?」
「はい、どちらももう大丈夫だと思います。
あの蜘蛛の毒に犯されていたみたいですけれど、幸い、そこまで強くはなかったので、私でも普通に解毒できました」
「そっか、ところで、もう一人のほうはどうしたんだ?」
「たぶん、緊張が切れてしまったんでしょうね。
それで今は寝ているんだと思います」
「はぁ、まぁ仕方がないか。
一応ここを早く離れたいし、あいつらをどうにかした運ばないとな~。
ちなみに、人にさわるとかは大丈夫なの?」
種族によってはそういうのもあるのかもなどと思い、一応聞いてみる。
「ふふふっ。
昔はそうだったかもしれませんけれど、今は別に平気ですよ。
触るぐらいでしたら何も問題ありません」
何か心変わりするような原因になる出来事があったのであろうか?
そんな風に思ったのだが、エクラは自分のことを必要以上には話さないし、聞こうと思っても、はぐらかされることが多いので、追求はしないでおく。
「ふ~ん、ならいいか。
それじゃあ、少し場所を変えたいから、そっちの女性のほうを運んでくれるかい?」
「了解しました。
あちらの竜の死骸はどうするのですか?」
「後で回収すれば大丈夫だと思うよ。
一応人の命を優先するべきだし」
「分かりました。
それでは、えっと……あちらに少し開けたところがありますのでそちらに行きましょう。
周りに何かがいる様子はありませんから、安全だと思います」
「分かった。
仕事が速くて助かるよ。
ありがとう」
俺は二人いるうちの男のほう、先ほど最後まで戦っていたほうを担ぎ上げる。
そして、彼女にお礼を言った後、彼女の指差す方向に移動するのであった。
三十分程度がたったであろうか、陽の色もオレンジ色が強くなってきていた中で、先に女性のほうが目を覚ました。
「ん……。
ここは?」
「ここは先ほどあなたが襲われていた森の中ですよ。
場所は少し違いますけれどね」
「はっ、ラグナーは?
ラグナーはどこにいるの?」
起きた彼女に対し、エクラが対応する。ラグナーというのは先ほどの男性のことだろうか?
それならすぐ横に寝ているのだが、灯台下暗しというやつなのかな。
「先ほどの男性ですか?
それならそちらで眠っていますよ。
もう少ししたら起きると思いますから、安心してください」
エクラが落ち着きのある、丁寧な声で彼女を慰める。
その声と、男が横にいるのをみて、しっかりと息をしていることが分かった彼女は先ほどは少し取り乱していたが、徐々に落ち着きを取り戻してきていた。
それを見た俺は彼女に話しかけることにする。
「はじめまして、俺はケイ。
で、こちらがエクラだ。
名前を伺っても?」
「あっ、はい。
私はパルヴィです。
それで、こっちが夫のラグナーです。
あの、助けていただいてありがとうございます」
「別にかまわないさ。
見捨てるのは忍びなかったしね。
ちなみに聞くんだけど、森の中で何をしていたんだい?」
言っちゃ悪いが、あの蜘蛛たちはそこまで強くなかったように思える。
きもかったけれど。
それに敵わないのに森に来たというのはどういうことなのだろうか。
「材料の採掘に来ていたんです。
私たちは一応鍛冶をしていますので、その材料を取りに来たんです。
この森は浅いところでも材料調達が出来ますし、浅い場所であれば、魔物が出てくることもほとんどないので」
「誰かに依頼すればよかったのに」
「基本的に皆さん、戦争に行かれてしまっていますから、頼むに頼めなかったんですよ。
相当低ランクの人たちは空いていましたけど、彼らに頼むぐらいでしたら、自分たちで採りに行ったほうがいいですから」
「まぁ、それで、襲われるんだから世話ないな」
「はい、本当にそのとおりです。
普段なら、この辺りに魔物が来ることはありませんから、油断していたところをやられてしまって」
「油断大敵って言うやつだな」
「ええ、本当にそのとおりです」
そんな感じで話をすることで彼女の緊張をほぐしつつ、いろいろと情報を得ようとさらに会話を続けたところで、ラグナーのほうが目を覚ました。
「ううっ、ここは?」
「あぁ、ラグナー、良かった」
「おっと、パルヴィか。
あぁ、本当に良かったよ。
えっと……」
自分の妻が飛び掛ってきたはいいが、それ以外のことが全く分かっていないようで、周りを見渡している。
そして、俺とエクラの二人がいるところで目を留めた。
「あぁ、君たちはさっき助けてくれた人たちだね。
本当に助かったよ、ありがとう」
「いえ、大したことではありませんよ。
ちょっといろいろ聞きたい事があるけどいいかな?」
「はい、もちろん構いません。
ですが、あたりももう暗いですし、一度町に戻りませんか?
助けてもらったお礼に、我が家でご馳走いたしますよ」
「おお、それではお言葉に甘えさせていただきましょうかな。
エクラもいいかい?」
「はい、ケイさんがよろしいのであれば」
ご馳走してくれるというのであれば、行かない手はないだろう。
そう思い、俺は彼らの提案に乗ることにした。
仮にも命を助けたようなものだし、悪いようにされることはないだろう。
「よし、それではいこうかの」
二人が立ち上がるのにあわせて、俺とエクラも竜の死体を担ぐ。
「おやっ、それは何ですかな?」
俺たちが担いでいるものに気づき、聞いてくる。
「これですか?
これは少し前に買った獲物です。
町に行けば換金できるかなと思い、運んできたんです」
「おお、そうなのか。
それなら、ぜひとも私たちに買わせてくれないか?
助けてもらったお礼に相場よりも高く出すぞ」
「う~ん、それじゃあお願いいたしますね」
そんな会話をしつつ、町へと向かって行く俺たち。
よし、久しぶりにまともな食事が取れそうだぞ!
その道中、俺の頭にはそのこと以外浮かぶことはなかった。
そして、彼らの家に着くまで、自分たちが言った獲物というのが何かを伝えることをすっかり忘れていたのであった。




