【レポート4】竹取物語
本作はフィクションです。登場する人物・団体・組織・事件などは架空のものであり、実在するものとは関係ありません。
……と、いうことにしておきましょう。
皇管には、毎年、十五夜に行われる特別な祭事がある。
その日は、皇主を中心として、皇管に所属する職員全員が参加する。
祭事の内容は、月に向かって参拝するという、ごく簡素なものだった。
古くから続く伝統行事とされているが、その由来について、詳しいことを知る職員は少ない。
俺も皇管に勤めて五年になるが、この祭事について深く考えたことはなかった。
一通りの祭事が終わると、皇管の職員たちは、それぞれの部署へと戻っていった。
俺も烏山さんや天野とともに、地下にある書陵部へと戻った。
十五夜の月を眺めながら行われた、毎年恒例の祭事。今年も何事もなく終わった。
書陵部へ戻ると、天野が珍しく俺に話しかけてきた。
「近藤さん、皇室に伝わる、もう一つの竹取物語を知ってますか?」
普段、自分から話しかけてくることの少ない天野が、唐突にそんなことを尋ねてきた。
「もう一つの竹取物語? 何それ?」
俺は、手にしていた資料を机に置き、天野の顔を見た。
「話の流れは、皆さんが知っている竹取物語と同じです。ただ……かぐや姫は十人いるのです」
「十人? かぐや姫って、一人じゃないのか?」
俺は思わず聞き返した。
天野は、いつになく真剣な表情でうなずいた。
「日本でかぐや姫が現れた時期に、世界でも九人のかぐや姫が生まれました。ただ……」
俺は、天野の話を黙って聞いていた。
天野は、少し間を置いてから話を続けた。
「しかし、日本以外のかぐや姫は、虐待されたり、実験の対象にされたり、異形の者として恐れられ、殺されてしまいました」
「日本だけは、かぐや姫を成人するまで育て、月へと送り出したのです」
天野は、静かに話を続けた。
「そのお礼として、月からの使者は、日本を今後、守護すると約束したのです」
「そんな馬鹿な……」
俺は思わずそう口にした。
しかし、天野は表情ひとつ変えず、話を続けた。
「それと、もう一つ。かぐや姫は、月へ帰る前に子供をもうけていたのです」
天野は、俺の反応を確かめるように一度こちらを見てから、話を続けた。
「かぐや姫は、その子供を一人、日本に残して月へ帰っていったのです」
「その子孫は、今でも日本のどこかにいると言われています」
天野は、そう言って話を締めくくった。
俺は天野の話を聞き、半信半疑だった。そんな話は、これまで一度も聞いたことがない。
ただ、天野は少し悲しそうな顔をして、静かに言った。
「でも、生きていたとしても、ただのスペアとして生き長らえているだけなんです」
俺は、あまりにも荒唐無稽な話に、ただ黙っていることしかできなかった。
そのとき、烏山さんがふと近づいてきて、俺たちの会話に加わった。
「いや、多分、違うな」
烏山さんは少し考えるように間を置いてから、静かに話し始めた。
「かぐや姫が子供を地球に残したのは、先に寿命を迎える子供を見たくなかったからなのかもしれないよ」
そう言って、烏山さんはどこか遠くを見るような目をした。
「最後まで人間の感情を持ったまま、人生を終えさせてあげたかったのかもしれないね」
烏山さんは、さらに続けた。
「この祭事も、今でもかぐや姫の子孫は元気に過ごしていますよ、という、かぐや姫への報告なのかもしれないね」
そう言うと、烏山さんは天野の肩をポンと叩いた。
天野は何も言わず、うつむいていた。
俺にはなぜか、その姿が、かぐや姫の子孫を慰めているように見えた。
しかし、同時に新たな疑問が浮かんできた。
かぐや姫の子孫は、いったいどこにいるのだろうか?それとスペアとは?
そもそも、かぐや姫とは何者なのだろうか?
烏山さんは、俺の顔を見ると、いつもの穏やかな笑みを浮かべた。
「まあ、昔話だ。そんなに真面目に考えなくていいよ」
そう言って、烏山さんは再び仕事に取りかかった。
今回のお話は、誰もが知っている『竹取物語』を題材にしています。
実は現代でも、かぐや姫は月から来た宇宙人だったのではないか、という都市伝説が語られています。竹取物語に描かれた月の都や、かぐや姫が地球を離れて月へ帰っていく展開を、宇宙人との接触を記録したものだと解釈する説もあります。
もちろん、これらは都市伝説や独自の考察であり、事実と確認されているわけではありません。
今回のお話は、そんな現代の都市伝説をヒントに、もし『竹取物語』に、私たちの知らないもう一つの物語が隠されていたとしたら……という発想から生まれたフィクションです。




