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ヨハンナと話をしてから数週間が経った。
あれからルシエルさんとは何度か会ったが、彼がいつもと変わりないから踏み込んだ話はできないでいた。
心配を口にして彼にぶつけたとして、彼が何を答えるのかがわからないことが不安だった。
彼にとって最愛で、唯一の人がいない世界とはどう見えているのかわからない。
私が、みんなが心配していることを告げて必死に引き留めたとして、彼は本当に踏みとどまる決意をしてくれるのだろうか。
ただでさえ彼を踏み留まらせているのは今は亡き彼の兄の思いというほどだ。
彼の中であまりにも大きいものを超えるほどの何かを、出会ってまだほんの少しでしかない私には示せる気がしなかった。
だから彼の中に踏み込んでもきっと振り払われるだろうと考えると、どうしても踏み込んだ話ができなかったのだ。
「ーー……せい。先生ってば!」
そんなことをぼうっと考えていると、ふとフローラさんに呼ばれて我に返った。
「ごめんなさい、何かしら」
慌てて取り繕って微笑めば、フローラさんは不満そうに唇を尖らせてこう言った。
「もう、ちゃんと話を聞いててください。昨日、マチルダが大神殿に移送される日だったんです」
「ああ、そういえば。きちんとお別れはできた?」
フローラさんの話にそう聞き返せば、フローラさんは困ったような顔をした後、やがてくしゃりと微笑んだ。
「最後も大喧嘩しちゃいました」
「あら……」
「でもいいんです。仲良しだったマチルダが嘘でも、ずっと仲良くしてくれていたマチルダのことを嫌いになれなかったから。マチルダが生きていてくれるだけで嬉しい。って言うと、“そんないい子ちゃんぶってるところが嫌いなのよ”ってマチルダは怒るんですけど」
フローラさんはそう言って微笑んだ。
仲良しだと思っていた友達とのお別れを経た彼女は少しだけ大人びた微笑みをしていた。
そんな彼女の肩を抱いてさすれば、フローラさんは困ったように眉尻を下げて微笑んだ。
その顔が少しだけルシエルさんの顔と似ている気がした。
「ーーフローラ、入るぞ。おっと、姐さんもいたんスね」
「マルクス」
と、その時、部屋の扉がノックされ、マルクスさんが訪れた。
「どうしたの?」
「ほら、今度フローラは貴族学園に入学するだろ。その時の制服が出来たって知らせが来たんだ。それ取りに行くついでに謝肉祭のデイドレスを仕立てよう。プレゼントするからさ」
「っ……! せ、制服を取りに行くのにあなたなんかついてこなくてもって思ったけど……そういうことなら……ついてきてもいいわ」
マルクスさんの言葉にフローラさんの顔が一瞬で真っ赤に染まる。
熱くなった顔を隠すように両手で頬を押さえながら照れ隠しを言うフローラさんが微笑ましくてニコニコと笑んでしまう。
「姐さんも」
「え?」
「フローラと一緒に謝肉祭用のデイドレス、どうすか。侯爵様もお呼びしますんで」
「素敵! 舞踏会の時みたい。ねえ、先生、また一緒にドレスを仕立てましょう。今度はお揃いの色で!」
マルクスさんの言葉に私が反応するよりも早くフローラさんが笑って私の腕に抱きついた。
彼女にそう言われると悪いからと断ることはできず、私は苦笑をしながら頷いた。




