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それから日は経ち、舞踏会の日が訪れる。
王宮で行われる舞踏会は記憶にあるままの煌びやかさだった。
魔石をふんだんに使ったシャンデリアはキラキラと眩しいほどに輝いて広いホールを隅々まで照らしている。
その下に歓談に勤しむ貴族たちも一段と絢爛だ。この日のために贅をこらした装いを用意するものも少なくないと聞く。
歓談を邪魔しないように奏でられる音楽は今はただゆったりと落ち着いた雰囲気を作り出している。
「--…………」
ふと私は隣を歩く男を盗み見る。
アルビオン侯爵の名に相応しい上品で格式高い装いに身を包んだルシエルさんの姿は煌びやかな装いの貴族たちが集うこの舞踏会という場であっても一際目を引くほどの美しさを保っていた。
まるで天上から気まぐれに地上に降り立った天使を体現するようなルシエルさんが入場すると、周りの貴族たちも見惚れて感嘆のため息を落としていた。
…………彼の隣を歩く私はどうなのだろうか。
アルビオン侯爵家より贈られたシャンパンゴールドのドレスは光沢のある生地で作られ、とても華やかで豪奢だった。人を選ぶ派手なドレスは下手な着こなしではきっと成金趣味のように下品に見えるだろう。
これだけ目立つルシエルさんの隣に立つのだからこれくらい派手な装いでなければルシエルさんの麗しさに負けて沈んでしまうのはわかるけれども、それでも下品に見えないように指の先まで所作に気を抜けないのだと思うと緊張する。
清楚な装いでは衣装の方が地味に見えて似合わない自分の派手顔をこれほど恨んだ日はない。
「緊張しておりますか?」
と、隣から不意に声をかけられて私は思わず飛び上がりそうになるほど驚いた。
振り返ればルシエルさんがいつもの微笑みをたたえていた。
「……まあ、その……そうですね。舞踏会に参加するのは久しぶりなので。パートナーがいるのは初めてだから特に」
そう、パートナーと共にこういう夜会に出席するというのは貴族学院の卒業パーティーで婚約破棄という大立ち回りをやらかした私にとって初めてのこと。
貴族学園を卒業し成人してからリックを付き合うまでの数年は両親や兄夫婦に続いてパートナーなしで参加していた。
だからこんな風にパートナーに伴われて舞踏会に参加する日が来るなんて思わなかった。
ましてやその相手が恋慕う相手なのだから、緊張しないわけがない。
王家主催のもっとも規模の大きいこの舞踏会に好きな人に連れ立ってもらって参加する幸運を夢見る乙女は多く、私だって実は例外ではなかったのだ。
「そうですか。では良かった、緊張しているのはわたしだけではないようで」
「ルシエルさんも緊張を?」
「ええ。このような華やかな催しにお呼ばれすることはあまりなくて。魔獣の大討伐後の凱旋パレードや叙勲式くらいでしょうか。なのでこのような場はどうにも自分が場違いのように思えて緊張します」
そう告白する声音はいつも通りの穏やかさで緊張を微塵も感じさせない。
本当に緊張をしているにしろ、私の緊張を和らげるつもりでそう言っているにしろ、案外この人は貴族に向いているのではないか、なんてどうでもいいことが頭の片隅に過った。
「一番に緊張するのはこの後ですね。フローラに猛特訓させられたのですが、上手にダンスが踊れるかどうか……上手に踊れなかったらフローラの叱責が今から目に浮かぶようで」
「……ふふ、それではその時は私も一緒に怒られなくてはなりませんね」
ルシエルさんとそんな軽口を叩いていると、ふとなんだか座りの悪いような、むずがゆいような胸騒ぎがして私はハッと振り返っていた。




