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「--……すみません、心配させてしまって。そろそろ戻らないとフローラさんたちにもっと心配をかけてしまいますね」
私がそう言ってガゼボから立ち上がった時、ふとルシエルさんが何かに気づいたような顔をして、
「失礼」
「えっ」
短く声をかけて私の腕を引いた。
途端にバランスを崩して倒れかける私をルシエルさんがそっと受け止める。
「何……っ」
「しっ」
きゅ、と彼に抱きしめられる形で抱え込まれてパニックになった私は声を上げかけるが、ルシエルさんが口元に人差し指を立てて沈黙を促した。
途端に私は何も言えなくなって、彼に抱き留められたまま固まる。
ルシエルさんが口元に立てていた人差し指で小さく何かを描きながら、何事かを呟く。
途端にかすかな淡い輝きが私たちの周りに散った。
一体何が起きているのだろうか。
ルシエルさんはただ油断ない表情でどこかを見つめている。
けれどもルシエルさんに抱き留められたままではその視線の先を辿ることができず、私はただ自分の心臓が大きく鳴るのを聞き続けるしかできない。
「……すみません、レティシアさん。実はあなたを探しに来た、というのは口実でして」
ふとルシエルさんがひそやかに囁いた。
「ネグロ子爵家のキャスリンさんから逃げてきたのです。マルクスさんから伺ったと思いますが、どうにも彼女は押しが強くて」
「え、あ……ああ」
そういえばマルクスさんがそんなことを言っていた。
ネグロ子爵の妹であるキャスリン・ネグロはルシエルさんの妻の座を狙っているのだと。
「アルビオン侯爵はいずれフローラに継がせ、わたしはその時にまた神の道に戻るから妻を娶るつもりはないと何度もお伝えしているのですが、どうにも彼女は退いてくださらないんです。なので話をするのも億劫になってしまってこうして逃げている次第なのです」
「ルシエルさんにそう思わせるなんて、結構強烈な方なんですね……」
「ふふ、そうですね。彼女は何が何でも自分を押し通そうとする意思の強い方、と言えば聞こえはいいのですけれど」
ルシエルさんは言葉を濁したが、要するに我の強い女だということだ。
「--………行きましたね」
と、ようやくルシエルさんが腕の力を緩めて私を離してくれた。
長いようで短いような時間に私はただドギマギとした自分を誤魔化すように周囲に視線を巡らせた。
遠ざかる派手なドレスの背中がチラリと見えてすぐに見えなくなる。無論、キャスリン・ネグロのものだ。
「失礼しました。人避けの結界はこういう式典……王族が関わる場で張るのは本来御法度でして。バレないように小さく薄く張るため、ああしてなるべく密着していただく必要がありまして」
「え、ええ……」
ルシエルさんが言わんとすることはわかる。
けれども今の私は自分の心臓を落ち着かせるために精一杯になっていた。
「……さあ、今のうちに戻りましょうか、レティシアさん」
「…………はい」
ルシエルさんがエスコートのための手を差し伸べる。
果たして、私は平常心を装った顔でその手を取れたのだろうか。




