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穏やかな日差しが差し込む午後。
王城前の美しく手入れされた庭園にはたくさんの人々がフォーマルな装いで集う。
かくいう私もスカーレット伯爵家の一員として色鮮やかな緋色のデイドレスに身を包み、使用人の差す日傘の下にいた。
本日は第一王子殿下の元に生まれた王女殿下の一歳の誕生式典だ。
リックと婚約をしてからは貴族として式典に出ることはなかった私で、本当は今後もこういった貴族の式典に出る予定はなかった。
けれどもその予定を覆して今日という式典に出席したのはフローラさんがいるからだった。
婚約者であるマルクスさんにエスコートをされて入場してきたフローラさんには今、頼れる人が少ないのは前の事件で知られた通り。
保護者であるルシエルさん。婚約者であるマルクスさん。
マルクスさんの生家でもあるグリューン伯爵家も味方として見てよいのだろう。
けれどもどうしても同性の味方が少なくて、彼女の家庭教師である私はお目付け役として出席することになったのだ。
王女殿下の生誕を祝うための式典は恙なく進む。
国王陛下からのお言葉。
一歳になったばかりの愛らしい姫君のお披露目。
それから聖女による王女殿下への祝福が授けられ、第一王子夫妻のスピーチへ。
やがて第一王子夫妻のスピーチが終わり、王女殿下を連れて二人が下がるといよいよ立食パーティーが始まる。
この時間は軽食を楽しみながら自由に貴族たちが歓談する時間だ。
「先生」
「ごきげんよう、フローラさん。マルクスさんも」
「どうも」
歓談の時間になって真っ先に声をかけてくれたのはフローラさんとマルクスさんだった。
「あれ、セオドアさんは? レティシアさんのエスコートってセオドアさんでしたよね?」
「兄は挨拶回りに出かけたわ。今日は父が出席できないから当主代理としてね」
今、スカーレット伯爵家は門外不出の“魔獣寄せ”が不正に流出したかもしれない事態で大わらわだ。
スカーレット伯爵である父が陣頭指揮をとって改めて“魔獣寄せ”に関する管理体制を見直し、過去の記録を遡って不正がないかを見直している真っ最中だ。
なお義理姉……兄の妻はまだ幼い子供を乳母だけに任せて留守にするのは忍びないと言って欠席。
おそらく私に気遣って兄を譲ってくれたのだ。あの人には本当に頭が上がらない。
「そういうそちらもルシエルさんの姿が見えないけれど……」
「叔父様なら聖女様に声をかけられまして」
と、フローラさんがつと視線を流した。
彼女の視線につられてそちらを見れば、ルシエルさんはたくさんの花飾りやリボンで飾ったクルクルのサイドテールの女性と歓談していた。
今日という日に大神殿から赴いて、王女殿下に祝福を授けた聖女だ。
そういえばルシエルさんは元聖人だ。
つまり聖女様とは元同僚。きっと積もる話もあるのだろう。
「聖女様とお話している間は侯爵様も面倒くさい輩に絡まれずに済みそうなんで安心っすね」
「面倒くさい輩?」
「ほら、あそこ」
マルクスさんの言葉を聞き返せば、マルクスさんはルシエルさんと聖女様が歓談しているところから少し離れた場所を示した。
そこには家族らしき数人の男女がルシエルさんたちの方を気にするようにチラチラと視線を流していた。
「あれはアルビオン侯爵家の分家、ネグロ子爵一家です。前アルビオン侯爵と今のアルビオン侯爵様の従兄弟に当たります」
「分家……」
その言葉に私は少しだけ眉を寄せた。
フローラさんも複雑そうに彼らを見つめ、その視線で私はマルクスさんが浮気をしていたとフローラさんに吹き込んだはとこがあの一家の中にいる少女なのだと気がついた。
フローラさんの同じ年頃の少女はふとこちらの視線に気がついたのか、一度だけこちらに視線を向けたが気が付かなかった振りをするようにまた視線を背ける。
どことなくよそよそしい仕草にフローラさんも視線を背けた。
友達で集まって共にお茶会をする仲だったのだから、きっと仲は良かったのだろう。
けれども彼女は嘘をついてフローラさんとマルクスさんの仲を拗れさせようとした。そのことが不信感に繋がって二人の仲はギクシャクし始めたのだろう。
マルクスさんが慰めるようにフローラさんの背中をさすった。
「彼女はマチルダ・ネグロ。ネグロ子爵の娘です」
フローラさんの代わりにマルクスさんがそう紹介してくれる。
「あの中で黒一点がバーンズ・ネグロ子爵。その隣に寄り添ってる緑のドレスのご婦人がドロレス・ネグロ子爵夫人です。それから--」
マルクスさんがひとりひとりを指し示しながら紹介をし、そしてあの一家の中でもとびきりに派手なドレスを纏った女性を示した。
昼間の、ましてや王女殿下の誕生祭という公的な式典だというのに夜会のように大きく肩と背中を露出させたイブニングドレスのようなドレスを纏う女性は確かに美しいが、なんとなく眉をひそめてしまうような雰囲気があった。
「--あれはネグロ子爵の妹キャスリン。一年くらい前に前の夫と別れて出戻ってきて、今は侯爵様の妻の座を狙って色々とアプローチ仕掛けてるんですよ。ネグロ子爵はそれを後押ししてます」
「それは……」
「まあ、間違いなくアルビオン侯爵の地位を狙ってますね。前々から野心家な一家でしたが、侯爵様が今の地位になってから余計に隠さなくなりました」
マルクスさんの説明に私は顔をしかめた。
それ以上、マルクスさんは何も言わなかったが暗に彼らが容疑者であると伝えていた。
証拠がまだ出てない以上、滅多なことは言えないが、彼らの動向には気を配るべきなのだろう。




