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「マルクス……っ!!」
それから小一時間後。
目を覚まして宿のロビーに降りてきたフローラさんはルシエルさんと一緒にいるマルクスさんを見て目を剥いた。
「あなた、どうしてここに……っ!」
「どうしてって、フローラに会いに王都に行ったら俺ん家に行ったって聞いたから慌てて引き返してきたんだよ。いやあ、行き違いにならなくて良かったあ。いや、行き違いには一回なったのか」
フローラさんに向かってマルクスさんがヘラヘラと笑う。
先ほど馬車の前でしていた真面目な顔とは大違いだ。
「あなた……っ、なんっ……っっ、どう……っ」
マルクスさんと思いがけないところで鉢合わせる羽目になったフローラさんは言葉に詰まって顔を真っ赤にする。
その顔は言いたいことが全部喉に押し寄せてつっかえてしまったもどかしさに苛立っているようだった。
「ほらフローラ、これ、届け物な」
そんなフローラさんへマルクスさんはプレゼントの包みをぽんと渡す。
フローラさんは手渡されたプレゼントの包みに目を丸くする。
「トライ・ローゼスの贈り物。遅れてごめんな」
「…………え」
そうしてフローラさんは手渡されたプレゼントの包みに固まった。
彼女は渡されたプレゼントと目の前にいる婚約者の顔を何度も見比べる。
「……心細い思いさせて本当に悪かった。手紙は送っていたんだ。でもお前に届いていないって気づくのが遅かった」
マルクスさんがフローラさんに説明する。
マルクスさんはフローラさんの両親の葬儀の後、一度隣国に戻ってからはフローラさんに手紙を毎日のように書き続けていたらしい。
だがフローラさんからは一切の返信がない。
初めは両親を亡くして落ち込んで、手紙を返す気にならないだけだろうと思っていた。
そうしてなしの礫とわかっていても、手紙を送り続け、隣国で珍しい品物を見かけてはそれも手紙と一緒に送り続けた。
そうしてトライ・ローゼスの日。
あまりに返信のないフローラさんが心配でその日に直接会おうとマルクスさんはトライ・ローゼスの数日前に帰国した。
そこでひょんなことから自分がフローラさんに送っていた贈り物が別の人の手に渡っていることを知った。
それを知ったマルクスさんはその贈り物だけではなく、今までの手紙や贈り物がフローラさんに渡っていないのではないかと思い至り、どうしてそんなことになっているかを調べ始めた。
そうしたらアルビオン侯爵家に郵便を届ける配達人が何者かに買収され、手紙が堰き止められたり贈り物が横流しされたりしていたのだ。
私が送った速達も危うくルシエルさんに届かないところだったらしい。
捨てられる直前でマルクスさんが買収されていた配達人を盗難で捕縛したから何とか難を逃れたのだ。
「まさか、そんなことが……」
「おそらくアルビオン侯爵家を……お前を孤立させようとする何者かの仕業だ。今、それが誰か調べてる。捕まえた配達人が吐いてくれりゃいいんだが」
マルクスさんの言葉にフローラさんは顔を真っ青にする。
そんなフローラさんの肩をさすり、マルクスさんは彼女を安心させるように笑った。
「まあ、大丈夫。きっとすぐ解決するさ。俺もしばらくこっちに残ることにしたし」
「は……そんな、大丈夫なの? あなた、勉強の方は? 留学ってそんな簡単に抜けられたりするものじゃないでしょう!?」
「そっちも何とかなるなる。だって俺ってば優秀だしぃ」
「調子に乗らないで! もう……そうやってあぐらをかいて後で泣きを見ても知らないんだからね」
ヘラヘラと笑うマルクスさんを叱りつけるように怒るも、フローラさんはどことなく嬉しそうだった。
口ではどれほど言っていても頼りにしている婚約者がそばにいてくれることがとても心強いのだろう。
微笑ましい恋人たちの姿に私は口元を綻ばせる。
これでフローラさんとマルクスさんの仲は一件落着なのだろう。
けれどもアルビオン侯爵家を取り巻く問題の根の深さが目に見えてしまった今、楽観だけはできない状況だった。




