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 私が出した二通の手紙。


 一通目はスカーレット伯爵家宛てに。

 二通目は当然のようにアルビオン侯爵家宛てだった。


 スカーレット伯爵家の“魔獣寄せ”がアルビオン侯爵家の馬車に撒かれているかもしれない、と気がついた時の衝撃はとんでもないものだった。


 さすがに私ひとりでは抱えきれない問題だ。

 だからすぐさま“魔獣寄せ”を厳重管理しているスカーレット伯爵家と、件の馬車の持ち主であるアルビオン侯爵--ルシエルさんと連絡を取った。


 誰が。どうやって厳重管理の薬を掠め取ったか。いや、まだ“魔獣寄せ”が使われたかどうかもまだわからないが。


 でももし本当に“魔獣寄せ”が撒かれていたのなら、おそらく犯人はフローラさんを狙ったことで間違いはないのだと思う。


 思えばフローラさんの両親、前アルビオン侯爵夫妻は魔獣に襲われて亡くなった。

 あれも事故だと騒がれていたが、もしかして--


 考えれば考えるほどに恐ろしい推測ばかりが先立つ。


 きっと私と同じようにルシエルさんもマルクスさんも考えているのだろう。

 兄が魔道具でアルビオン侯爵家の馬車を瘴気の計測を行なっている間、ずっと固唾を呑んで見守っていた。


 兄が操作する魔導具が計測する規則的な音が響く。

 馬車に対して色んな角度で魔導具をかざしていた兄はやがて難しそうに顔を歪めた。


「ーーアルビオン侯爵、大変言いにくいのですが……結果はクロです。瘴気が検出されました」

「……っ」


 兄の言葉に私は言葉を失った。

 何かの間違いであってほしかったのに、瘴気が検出されてしまった。


 それはつまりフローラさんを狙った何者かがいるということ。

 フローラさんの両親である前アルビオン侯爵夫妻が亡くなったのは事故ではなく暗殺だった可能性が浮上したということ。

 そして何よりその二つの事件にスカーレット伯爵家に連なる誰かが関わっている可能性が出てきてしまったこと。


 あまりのことに私はめまいを感じるようだったし、兄の表情も固かった。


「……そうですか。何事もなければ良かったのですが……いいえ、フローラの身がひとまず無事だったことを喜びましょう。レティシアさん、事が起こる前に気づいていただき感謝いたします」

「いえ、そんな……私は大したことは何も……」

「いいえ、あなたが気づいてくださったからこそ、こうして何者かの悪意を察することができたのです」


 首を横に振る私へルシエルさんはそう言って、マルクスさんを振り返った。


「マルクスさん、アルビオン侯爵家周りのことはおそらく還俗したばかりのわたしよりあなたの方が詳しいでしょう。年若いあなたを頼って申し訳ありませんが、今一度分家や関係先、使用人の洗い出しに協力願えますか?」

「当然です。フローラのためとあらばこの身はいくらでもお使いください」

「セオドアさん、どうかスカーレット伯爵に取り次ぎをお願いします。“魔獣寄せ”という特殊な薬品がどういう代物で、どう管理をされているのか。お話をお聞かせ願いたい」

「かしこまりました、すぐに取り次がせていただきます」


 マルクスさんへ、兄へと指示を出すルシエルさんはひとつの大きな家を預かる侯爵の顔をしていた。


「レティシアさん」


 その顔が私の方を急に向いてどきりとした。


「ーーどうかフローラに暗殺の件はまだ内密に。両親を失ったばかりのあの子にとって、両親の死が暗殺だった可能性が浮上したこと。自身もまた命を狙われたことを受け止めるにはあまりにも重すぎる」

「……はい」

「それから、どうかできるだけあの子のそばにいてあげてください。あの子はあなたを頼りにしているようですので……あの子を支えていただけると幸いです」

「ええ……フローラさんは私の大事な教え子ですから」


 ルシエルさんの言葉に私はそう答える。

 そんな私へルシエルさんは「ありがとうございます」と深々と頭を下げた。

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