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トライ・ローゼスの当日。
私はシシリーと共に観劇をしに街に出た。
街は恋人の日に浮かれた雰囲気でどこもかしこも甘やかな空気が流れていたけれど、女二人で連れ立って歩くのも悪くないものだった。
「ーー今日はありがとう、シシリー。でもランディは大丈夫なの? せっかくのトライ・ローゼスなのにあなたを譲ってもらっちゃって」
「いいのよ。ランディとは夜に一緒に過ごす予定だし、どうせ今頃ルーナに首っ丈で楽しくやってるわよ。『ルーナたんは今が一番きゃわわな時期〜♡』って生まれてから一番可愛い時期を更新し続けている子煩悩なんだから」
ランディとはシシリーの夫で、ルーナはシシリーとランディの娘だ。
二年前に生まれたばかりのルーナは相変わらずランディに溺愛されているらしい。
「相変わらずなのね。ルーナに恋人ができたらきっと大変ね」
「本当にね。ちょっと反抗期想像しただけでオイオイ泣くんだもの。ルーナに恋人なんてできたらそりゃあ、ねえ……」
その時のことを二人で想像して苦笑いする。
きっと大変な騒動になるのだろう。
「まあ、それはともかく。あなたの方はどうなの?」
「私?」
「あなた、ほら、アルビオン侯爵家で家庭教師することになったでしょう」
ニヤニヤと笑いながらシシリーが肘で私をつつく。
「憧れのルシエル・アルビオンとお近づきになれるポジションについたんでしょ〜。何かあるんじゃないの? ほらほら〜」
「もう、シシリーったら。何もないわよ」
シシリーの言葉にため息をついて答えると、彼女はニヤニヤ顔から一転して唇を尖らせる。
「そうなの? つまんないわねえ。そうやってうかうかしてるとどこぞの女に先越されるわよ。今、本当にルシエル・アルビオンを狙う女って多いんだから」
シシリーの言葉に私は沈黙する。
それは何となくわかる。
前にもシシリーが話していたことだ。
一時期限定とはいえ侯爵の肩書きを持つ若い侯爵はそれはもうモテるのは当たり前だ。
「さすがにトライ・ローゼスにデートに誘うことはできなくてもデートに誘ってみたらどう? お世話になったお礼だとか、口実一緒に考えるわよ」
「シシリー、そういうのいいから」
ニヤニヤ笑うシシリーに私はそう言って、小さくため息をついた。
「……本当、そういうのは良くないと思うの。フローラさんも家庭教師がそんな浮ついた気持ちで自分の家を出入りしているなんて知ったらきっといい気はしないわ。特にあの子は今、信頼できる大人がほとんどいない状況だし、私はフローラさんを一番に向き合っていたいの」
「相変わらずクソ真面目ねえ」
私の言葉にシシリーはそう言う。
「ま、そういうところがあんたのいいところなんだけどさ。ちょっとくらい自分のことを優先したっていいと思うけどな〜。あなただって大変なことがあったばかりなのよ」
「シシリー……」
明るくあっけらかんとした響きをしていても、シシリーの言葉は私を心配するものだった。
その気持ちに私は少しだけくすぐったい気持ちになって、口元を綻ばせる。
「いいのよ。今はちょっとそういうことを考えたくないから、他のことに集中していられる環境は助かるの」
「…………そう。まあ、あんたがそう言うなら」
私の言葉にシシリーはそう言って引き下がる。
けれども彼女はすぐにいつもの明るい笑顔でこう言った。
「でもまた恋のことで悩んだなら言ってよね。デートコースとかアプローチのこととか、一緒に考えてあげるから!」
「ふふ、もう、シシリーったら」
彼女の明るさに私も笑みがこぼれた。




