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そうして私はルシエルさんに連れられて談話室へと案内される。
メイドがあたたかいお茶を入れ、砂糖壺とミルクを置いて一礼して部屋の入り口近くに控える。
私のティーカップにはすでに角砂糖を添えているのにどうして砂糖壺? と不思議に思っていると、ルシエルさんが砂糖壺から自分のお茶にいくつも砂糖を落とす。
その数の多いこと。いつつ、むっつとポチャポチャとティーカップに落とされる砂糖の数に思わず驚いて目を丸くしていると、彼は驚いて固まる私にハッと気づいて恥ずかしそうに砂糖壺に蓋をした。
「……ああ、すみません、驚かせて。仕事をした後などはどうしてもこうして糖分が欲しくなってしまって」
「いえ……こちらこそ。まさかお茶にそこまでたくさん砂糖を入れる人を初めて見たもので」
「ああ……やはりそうですよね。これがまさか神殿の外では特異だと思わず」
「神殿でのお食事はそれが普通だったんですか?」
「普通というか……神殿の外に出て、聖女や聖人は世間一般の人と違った味覚をしているのだと気づかされました。例えば我が師である筆頭聖女様はとにかく肉! 脂! みたいな食事を好まれますし」
「それは意外ですね。てっきり野菜や果物の方がお好きに見えましたが」
私は絵姿でしか知らないが、聖母のような優しい微笑みを湛えた現筆頭聖女は線が細く、百合の花のような慎ましやかな女性に見えた。
「とんでもない。あの方はそんなものよりも肉を持ってこいと言うような女傑です。食べられるなら魔獣の肉だって抵抗なく齧り付きますよ」
「それは……豪胆ですね」
「わたしの同僚である聖女や聖人も似たり寄ったりですね。ひたすらに卵が好物でそれのみならず何でもマヨネーズをたっぷりかける方がいたり、食えればいいと食べ物は何でも混ぜてペーストにして飲み込む悪食もいました」
「そうなんですか……」
なかなかにパンチのある情報に私はそうとしか答えられなかった。
聖女や聖人という人はもっと慎ましやかな食事をしているのではないかと思い込んでいた。
ルシエルさんは気恥ずかしそうに微笑みながら、ティースプーンで砂糖をたっぷり入れたお茶を掻き回す。
「それはさておき……フローラとの授業はどうでしょうか?」
「フローラさんはとても素直で賢い方ですね。初めの頃は少し警戒もありましたが、今は少しずつですが色んなことをお話ししてくださいます。私の方が授業らしいことをしていないのにお喋りに付き合わせてしまっているかなって少し心配する時はありますが……」
「いいえ、ありがとうございます。レティシアさんがそうやってあの子に安らげる時間を作るように心を砕いてくださっていることはわかっております」
ルシエルさんがそう優しく微笑む。
「あの子もレティシアさんの授業をとても楽しんでいるようです。あの子の両親が亡くなってからのあの子はいつ切れてしまうかわからない張り詰めた弓弦のようでしたから。でもレティシアさんが授業をしてくださるようになってからずいぶんと態度も柔らかくなりました。今まではわたしに対して『心配するな』『侯爵の仕事だけに集中していてくれればいい』としか言わなかったあの子があなたの授業があった日の夕食時にはその時のことを少しだけでも話してくれるようにもなりました」
「そうだったんですね。良かった……」
「あなたのおかげです。あなたにあの子の家庭教師をお願いして本当に良かった」
そう告げるルシエルさんに対して私の心臓はほんの少しだけ跳ねる。
真っ直ぐ私を見つめて微笑む顔があまりにも眩しくてくすぐったい気持ちだった。
「ですから引き続き、どうかあの子のことをよろしくお願いいたします。あの子はどうにもわたしには遠慮をしてしまうようですから……ふふ、こう言うとあなたひとりにフローラのことを押し付けるようで気が引けるのですが」
「いえ、そんな、とんでもないです」
ルシエルさんの言葉に私は慌てて手を振った。
「……フローラさんのことは……大切な姪御さんは責任を持って見させていただきます。私にとっても初めての生徒ですから」
「ありがとうございます」
ルシエルさんの微笑みにトクトクと駆け足になる心臓を必死に律しながら、私は改めて気を引き締めなくてはと思いを新たにした。




