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マゼンタ伯爵夫人の紹介状を手にした私は彼女の紹介先の家に向かう馬車の中でずっと落ち着かずにソワソワとしていた。
マゼンタ伯爵夫人の手紙に私はすぐさま承諾の返事を書いた。
その手紙に折り返しまたマゼンタ伯爵夫人から返信があり、内容は家庭教師に行く家と生徒の詳細を話すから紹介状を取りにいらっしゃいというものだった。
私はすぐにマゼンタ伯爵夫人に話を聞きに行き、そこで私はその家がアルビオン侯爵家で、生徒はあのルシエルさんの姪御さんなのだと知った。
なんという巡り合わせなのだろう。
私は心臓が跳ねたことを隠し、マゼンタ伯爵夫人の話に耳を傾けた。
マゼンタ伯爵夫人の話では、ルシエルさんの姪御さんーーフローラ・アルビオン侯爵令嬢はとても聡明で真面目な少女だという。
だが最近ご両親に不幸があったせいか、はたまたその不幸のせいで家が不安定になってしまったせいか。彼女自身もとても不安定で難しい状態になってしまっているという。
彼女をずっと見ていた家庭教師が彼女の態度にノイローゼになって彼女の家庭教師を降り、その家庭教師がマゼンタ伯爵夫人ならばと頼って手紙をよこしてきたのだと言う。
その話を聞いた時、私は初めての生徒がそのようにデリケートな生徒で上手にできるのかと不安に思った。
けれどもマゼンタ伯爵夫人が、大好きな先生が「わたくしが見込んだあなたならば大丈夫」と太鼓判を押してくだされば、彼女の信頼に応えたいという気持ちになるのだから、大概私もチョロい。
こうしてマゼンタ伯爵夫人に背中を押されてアルビオン侯爵家に向かうことになったのはいいのだが、その道中でやっぱり様々な不安が込み上げて緊張してきてしまった。
私は本当にアルビオン侯爵令嬢の家庭教師としてうまくやっていけるのだろうか。
マゼンタ伯爵夫人と一緒に何度も教材の確認をし、アルビオン侯爵令嬢の成績や前家庭教師の引き継ぎ書も読み込んだのだが、それでも不安になる。
何せこれから向かう家はルシエルさんがいる場所なのだ。
私と彼は患者と治癒術師という関係で、たった数度出会っただけだ。
けれども私の中には妙に彼の存在が大きくなっていて、それが家庭教師という職を全うする上で厄介だろうなということが予想できた。
ましてや両親を失ったばかりで不安定な子。そんな浮ついた気持ちできちんと向き合えるのだろうか。
そんなことを考える傍らで、ルシエルさんが姪御さんに叱られてばかりいるのだと苦笑をしていたことを思い出した。
その時の微笑みはとても優しくて、彼にとって姪御さんはとても大切な存在だと伺えた。
そういえばルシエルさんは姪御さんを守るために聖人という地位を捨て、還俗してアルビオン侯爵を継いだのだという噂があるとシシリーが言ってたっけ。
……私なんかが、不純な気持ちを抱え込んでいそうな私がそんな大事な姪御さんを教え導けるのだろうか。
マゼンタ伯爵夫人に太鼓判を押してもらった時にはできそうだと思った自信が、気がつけばもう萎んでしまっていた。
やがて馬車がたどり着く。
私が馬車から降りれば、優雅な曲線を描く鉄柵に囲われた大きな邸が私を出迎えた。
あれがアルビオン侯爵家のタウンハウス。
これからの私の職場。
私は立ち竦んでしまいそうになる足を叱咤し、気力を振り絞ってアルビオン侯爵邸へと臨んだ。




