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ルシエルさんからもらった飴玉はとても甘いものだった。
申し訳程度のフルーツフレーバーがついているがほとんど砂糖の塊みたいな味で、舌の上で転がすとその余韻がずっと残る。
普段はあまり好まない味ではあったけれども、その味を彼が好ましいと言ったことを思い出すとその余韻にやっぱり心臓が跳ねてどうしようもなかった。
そうして、あれから私はあの飴玉の包み紙を眺めてはぼんやりと物思いに耽る日々を送っている。
「レティ」
今日もまた薄ぼんやりと物思いに耽っていると、兄が声をかけてきた。
私がハッと振り返れば、兄は呆れた顔をして私を見つめている。
「ちょっと兄様、ノックくらいしてよ。五歳児のノエルでもできることよ」
「何度もしたぞ。それでも気が付かなかったのはお前だろうが」
兄の言葉に私は思わず沸き上がる羞恥とほんの少しの苛立ちに顔を赤くする。
でも兄に何も言い返せずに拗ねるように睨みつけるのが精一杯で、兄はそんな私にため息を落とすと持っていた手紙でぺしりと私の額を軽く叩いた。
「お前に手紙」
「私に手紙?」
「マゼンタ伯爵夫人から」
マゼンタ伯爵夫人とは私が貴族学園に入る前にお世話になっていた家庭教師の名前だ。
優秀だけではなく優雅な方で、私は知識だけではなくこの方から淑女としての仕草やマナーを教わった、とても大好きな先生だ。
恩師の名前に私は兄から手紙を受け取り、封を開く。
恩師の手紙は相変わらず几帳面に整った美しい文字で綴られていた。
時候の挨拶から始まり、私の事件を聞いて驚いたこと、それから体調を心配する内容。
そうして私が仕事を失ったことも聞いたと続き、もし体調が良いようならば仕事を紹介したいと書かれていた。
「ふぅん、仕事」
「兄様、人の手紙を覗き見るのは止めて」
「別に構わんだろ、大したことが書いてあるわけでもなさそうじゃないか」
「兄様」
私の横から手紙を覗く兄の額を、私は先ほど兄に叩かれたように手のひらで軽く叩いた。
兄は小さくため息をついて肩を竦めると頭を退いた。
「マゼンタ先生、もう家庭教師をお辞めになっていたのね……」
「まあ、うちに来ていたのももう何年も前だしな」
私に紹介したい仕事とというのはマゼンタ伯爵夫人に来た家庭教師の仕事だった。
だが彼女はすでに家庭教師の職を引退していた身。受けるには年齢的に難しいらしく、代わりに貴族学園を首席で卒業した私を紹介したいとのことだった。
「で、どうする?」
「受けるわ」
兄の問いに私は二の句もなく頷いた。
マゼンタ伯爵夫人の紹介はまさに渡りに船なのだ。
兄は私の迷いのない返答に「そう言うと思った」と笑った。




