10
退院は特に何も問題なくすることができた。
刺された胸が時折痛むことはあるけれど、痛み止めの薬で抑え込めるし、心肺機能も問題なく後遺症も残らなかった。
退院してすぐに家族が心配だからと実家のタウンハウスに迎え入れてくれて、私は今そこで過ごしている。
仕事には復帰するつもりだった。
リックと結婚をするつもりで出していた辞表の取り消しをするつもりで今日、登城した。
けれども、
「……………はあ」
私はそれができずにとぼとぼと街を歩いている。
理由は簡単。すでに私の席がなかったためだ。
リックと結婚して家庭に入る予定だった私は後任に引き継ぎをすでに済ませており、退職届もすでに手続きが終わって処理されてしまっていた。
役所という場所ゆえに融通も利かず、結局このまま私は退職することを余儀なくされてしまったのである。
『すまないな、事情が事情だけに何とかしてやりたかったんだが……』
申し訳なさそうな部長の顔が蘇る。
彼のせいではないのにそんな顔をさせてしまったことを申し訳なく思いながら、私は途方に暮れていた。
部署のみんなも『レティシアならすぐに仕事を見つけられる』と励ましてくれはしたが、それでもショックは大きい。
と、ふと鐘の音が聞こえて私はそちらを見る。
リーンゴーンと鳴る教会の鐘の音は祝福の音だったらしい。教会の前でひと組のカップルが結婚式を挙げていた。
その様子に足を止め、暗い気持ちが湧き上がってしまう。
本当なら明日、私もリックと結婚式を挙げる予定だった。
そのためにウエディングドレスを用意し、二人で結婚式のプランを練って、招待客に一枚一枚招待状を手書きした。
全部、無駄になってしまった。
またため息が漏れそうになって、私は頭を軽く振って暗い気持ちを追い出す。
私は他人の結婚式から目を逸らし、また歩き出す。
暗い過去に囚われている暇はない。
これからのことを考えなければ。
王城近くに借りている家はあるが、仕事がなければ家賃の支払いができないのだ。
それだけではなく生活していくにはお金という先立つものが必要だ。
幸い、家族は私にいくらでも実家にいてくれても良いとは言ってくれているが、それでもあの家はすでに兄が継ぐことが決まっていて、兄嫁と甥や姪がすでにいる。
そんな場所に行かず後家の女が居座り続けるのは気まずい。
結婚……はすでにバツが二つもついたようなものだから厳しいだろう。
そうなるとやっぱり早めに仕事を見つけないと。




