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断罪された侯爵令嬢は、戦場で完成した。なお中身はおっさんである  作者: 月白ふゆ


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第6話 正しくない

 三度目の模擬戦が終わったあと、訓練場には奇妙な静けさが残った。


 完全な沈黙ではない。

 誰かが息を呑み、誰かが喉を鳴らし、誰かが靴の位置をほんのわずかに動かす。

 音はある。

 けれどそのどれもが、場を前へ進めるものではなかった。


 勝敗そのものは、誰の目にも明らかだった。


 一度目。数手で喉元。

 二度目。本気で入っても制圧。

 三度目。魔法まで使って、それでも転がされ、額に演習棒を突きつけられた。


 そこまでやってなお、何か言葉が必要なのだとしたら、それはもう勝敗の確認ではない。

 別のものだ。


 ナタリア・ヴォルディアは、演習棒を学院側の器具棚へ戻したあと、ゆっくりと背を伸ばした。

 視線は集まっている。

 だが、その意味がもう一段変わっていることを、彼女ははっきり感じていた。


 強い。

 怖い。

 理解できない。

 そのあたりまでは、少し前からもう混ざっていた。

 今この場にあるのは、もう少し乾いた種類の視線だ。


 どう扱えばいいか分からないものを見る目。


 彼女はそれに慣れていないわけではなかった。

 ただ、こういう目はたいてい、次に来るものを連れている。

 評価。

 査定。

 すり替え。

 そして、もっともらしい裁定。


 その時だった。


「……あれは、正しくない」


 訓練場の中央で、ようやく立ち上がったエドワードが言った。


 声は大きくない。

 怒鳴っているわけでもない。

 それでも、その場の全員が聞き取るには十分だった。


 ナタリアは視線だけを向ける。

 エドワードの顔はまだ熱を持っている。額に触れた剣の感触が残っているような、うまく呼吸を整えきれていない顔。

 それでも王子は王子らしく立とうとしている。

 立とうとして、その結果、今の言葉になった。


 正しくない。


 それはすでに、勝ち負けの話ではなかった。

 勝てなかったから、その勝ち方を否定する。

 結果そのものではなく、定義の方を動かす。

 論点の変更。

 採点表の差し替え。


 はい、そこへ行くのね、とナタリアは思う。


 エドワードは自分の言葉に押されるように続けた。


「学院の模擬戦で、あのような間合いの詰め方は……」

「それに、婚約者に向ける剣でもない」

「まるで人を斬るための動きだ」


 その最後の一文で、周囲の空気がまた少し変わる。


 高位の令嬢たちの顔に、「そういうことにできるのか」というような安堵に似たものが混じる。

 男子生徒たちは、強さの話から“あるべき姿”の話へ移れると気づいた顔になる。

 教師たちの表情だけが、逆に硬くなった。


 勝てなかった相手に対して、正しくないと言う。

 その形が、あまりにも見慣れているからだろう。


 ナタリアの中にも、はっきりとした既視感があった。

 光景ではなく、空気の方だ。

 結論はすでに置かれている。

 それを通すために、いま理由が後から貼られ始める。

 紙コップのぬるい飲み物を片手に、「君のためを思って」と言いながら、結局は責任だけ下へ流してくる場の空気。

 コピー紙をめくる乾いた音ばかりが響いて、誰も本当の責任者にはならないまま、裁定だけが先に進む時の感じ。

 逃げ道のない会議。

 ああ、知っている。この手の場は。


「殿下」


 剣術教師レイモンド・フェルンが低く呼びかける。

 それはたしなめる声ではなく、むしろ“そこで止まれ”と最後に綱を投げる声だった。

 だがエドワードはその綱に手を伸ばさない。


 いや、伸ばせない。


 三度も負けて、そこから引くには若すぎた。

 引くことが“負けをそのまま受け入れる”としか思えないのだろう。

 だからもう一歩だけ、そちらへ進む。


「強いことと、正しいことは別だ」

「王子妃候補として求められるものは、こうではないはずだ」


 王子妃候補。

 そこへ戻す。


 戦って勝てないなら、妃としての枠で裁く。

 その発想はあまりに分かりやすくて、ナタリアの方が少しだけ冷める。


 そこで、最初に乗ったのは高位の令嬢だった。


「たしかに……少々、実戦的すぎましたわ」

「学院の模擬戦に求められる品位とは、異なる気がいたします」


 別の男子生徒も続く。


「ヴォルディア侯爵令嬢の実力が高いことは分かりました」

「ですが、その……王族に対してあのような詰め方をなさるのは、少々」


 少々。

 便利な言葉だ、とナタリアは思う。

 何一つはっきり言わないまま、否定の方向だけ整えられる。

 はい、評価項目を増やしてきましたね。そういう時はたいてい、結果が動かない時だ。


 彼女は軽く息をついて、ようやく口を開いた。


「そうですか」


 声は穏やかだった。

 穏やかだからこそ、次の一言がよく通る。


「では、実力差ではなく、定義の方を調整なさるのですね」


 訓練場の空気が、また一段冷えた。


 高位側の何人かは意味を取りきれず、目だけを瞬かせる。

 意味が分かった者ほど顔が変わる。

 全部その通りだからだ。

 誰も勝敗そのものにはもう異論を挟めない。

 だから“正しさ”の定義を動かし始めた。

 それをそのまま名付けられると、綺麗に被せていた布が一枚剥がれる。


 エドワードの眉がぴくりと動く。


「私はそういう意味で言ったのではない」


「もちろんでしょう」


 ナタリアは即座に返す。


「そのようにおっしゃってしまっては、格好がつきませんもの」


 皮肉は明らかに強まっていた。

 だが怒りで荒れているわけではない。

 敬語も崩れない。

 だからこそ、言われた側は余計に返しづらい。


 セラフィナがそこで、ようやく本気でまずいと気づいた顔をした。


「やめてください……!」


 細い声だった。

 だが今までの彼女の声より、いくらか強い。


「そんな言い方は……」

「ヴォルディア侯爵令嬢は、ただ……」


 続かない。

 何をどう庇えばいいのか、自分でも分からなくなっているのだろう。


 ナタリアはセラフィナを見る。

 そこに怒りはない。

 あるのは、かなり乾いた理解だけだ。


 今さら止めに入るのね。

 でも、こういう時はたいていたいてい遅いのよ。


 セラフィナは善意で押した。

 そして、善意で押した者は、たいてい崩れたあとの責任の取り方を知らない。

 それもまた、知っている種類の空気だった。


 高位側の令嬢の一人が、半歩だけ前へ出る。

 王子の顔を立てる役を、自分から買おうとしたのだろう。


「ヴォルディア侯爵令嬢」

「強さと妃としての適性は、同一ではありませんわ」


 その言い方に、ナタリアは少しだけ首を傾けた。


「ええ」


 まず肯定する。

 その方が、相手の逃げ道がなくなる。


「結果が動かない時には、評価項目を増やすのが一番早いでしょうね」


 令嬢の顔のまま、それを言う。


 誰かが小さく息を呑んだ。

 もうかなり露骨だった。

 だがやはり、露骨であることと下品であることは違う。

 ナタリアは終始礼を守っている。

 守っているからこそ、その刃はまっすぐ入る。


 レイモンドが額に手を当てるような仕草をした。

 頭が痛いのだろう。

 それはそうだ。

 模擬戦の収拾だけでも厄介なのに、ここから先は言葉の戦いになっている。

 しかも勝てない側が先に論点を変え、周囲がそれに形を与えようとしている。


 ナタリアはそんな教師を見て、胸の奥にまた乾いた空気を思い出す。


 空調の効きすぎた部屋。

 乾いた喉。

 机に置かれた水差しと、誰も手をつけないグラス。

 誰かが「一応、整理したいんだけど」と言いながら、すでに結論だけは決めている顔。

 ああ、本当に知っている。

 この手の場は、いくらでも知っている。


「殿下」


 ナタリアは改めてエドワードへ向き直った。


「ご確認を望まれたのは殿下です」

「三度、条件を変えて確認なさいました」

「その結果を、模擬戦の結果として受け止めていただければ十分かと存じます」


 責めていない。

 事実を並べているだけだ。

 だが並べ方がもう、完全に会議のそれだった。

 議題を戻し、論点を固定し、逃げようとする相手の前へ事実を置く。

 感情を混ぜず、ただ処理だけを進める人間の言い方。


 エドワードはそれに、むしろ苛立ったように見えた。

 怒鳴れればまだ楽だっただろう。

 だがナタリアの言い方は怒鳴る隙を与えない。

 事実でしかないからだ。


「君は」


 王子が言う。

 その先に何を置くのか、一瞬だけ迷っている。

 女らしくない、でもいい。

 妃に向かない、でもいい。

 怖い、でもいい。

 どれも本音だろう。

 けれど、そのどれもが、いま自分が三度負けた事実を消してはくれない。


 だから言葉が続かない。


 その沈黙に、今度は教師側が入る。


「……本件は、この場でこれ以上続けるものではありません」


 今度は魔術教師の方だ。

 学院側としてはようやく、勝敗でも模擬戦でもなく“本件”という言い方を使った。

 つまり、もう授業の延長では処理できないと認めたのだ。


「学院長立会いのもと、正式に整理する必要があります」


 整理。

 その言葉に、ナタリアは思わず笑いそうになった。

 整理。

 ええ、そうでしょうね。

 整理と呼べば、裁定も少しは綺麗に見える。


「後程、場を設けます」

「殿下にも、ヴォルディア侯爵令嬢にも、ご出席いただきます」


 それは実質、断罪前の会議だった。


 高位の生徒たちは少し緊張した顔になる。

 自分たちが好き勝手に言っていたものが、学院長立会いの正式な場へ移ると分かるからだ。

 低位側の下級生たちは逆に青ざめる。

 ナタリアを一方的に裁く場になるのではないかと察するから。


 セラフィナは明らかに怯えた顔で学院教師を見た。


「そんな……そこまでのことでは……」


 だがその言葉は弱い。

 今まで何もかも、そこまでのことではない顔をして、ここまで押し流してきたのだから。


 ナタリアは静かに一礼した。


「承知いたしました」


 短く、それだけ答える。


 それで終わらせてもよかった。

 だが、ここまで来るともう、少しだけ強くてもいい気がした。


「結論の確認、という理解でよろしいでしょうか」


 言葉は丁寧だ。

 学院教師も、王子も、誰も正面から咎められないほどに。

 けれどその意味は容赦がない。


 整理ではない。

 結論はもうある。

 確認のための場だろう、と。


 魔術教師が言葉に詰まる。

 否定しきれないからだ。

 学院長立会い。王子同席。関係者列席。

 それで何が行われるのか。

 誰にだって分かる。


 レイモンドが、苦々しげに目を伏せた。

 この教師だけは、少なくとも模擬戦の流れのどこで何が間違っていたかを分かっている顔だった。

 王子が止まれなかったこと。

 聖女の善意が押し流したこと。

 高位側が論点をずらし始めたこと。

 全部。


 だからこそ、ここではもう何も言えない。

 正しく見えてしまう手順ほど、間違った結論へ滑りやすいこともある。


 訓練場の空気が、そこでようやく少しだけ動いた。

 見物していた生徒たちが散り始める。

 だがざわめきは消えない。

 むしろ散ることで、あちこちに分かれて増える。


「やっぱり正式な場になるのね」

「殿下も相当お怒りだわ」

「でも三度とも……」

「勝敗と妃の適性は別でしょう?」

「そうかしら……?」


 言葉は分かれていく。

 だが核だけは同じだ。

 ナタリアをどう扱うか。

 もうそこへ移っている。


 低位側の下級生たちは、明らかに不安げだ。


「ナタリアお姉様、大丈夫かしら……」

「大丈夫じゃないでしょ、これ」

「でも、お姉様なら……」

「そういう問題じゃないの。こういう時、正しい人ほど押し切られることあるじゃない」


 その言い方に、ナタリアは一瞬だけ目を細めた。


 正しい人ほど押し切られることがある。


 それもまた、知っている気がする。

 現場で間違っていない側が、会議では勝てないことがある。

 誰かが責任を取りたくない時、数字や理屈より“丸く収まる結論”が選ばれる。

 その結果、下が拾う。

 ああ、本当に、この空気はよく知っている。


 面倒ね。


 心の中でそう切りながら、ナタリアは訓練場の端へ移動した。

 訓練場を離れる前、ナタリアは学院付きの侍女が器具棚の前で立ち尽くしているのに気づいた。


 若い侍女で、顔色が少し悪い。

 緊張しているのだろう。

 自分の主人ではなく、学院全体がぐらつくような場に立ち会ってしまった時の顔だった。


「お片づけいたします、ナタリア様」

 声がわずかに上ずる。


 ナタリアは器具棚へ視線を向けた。

「もう戻してあるわ」


 侍女はびくりとする。

「申し訳ございません……」


「あなたが失敗したわけではないでしょう」

「落ち着きなさい」


 その一言だけで、侍女は明らかに少し楽になる。

 そういうものだと、ナタリアはどこかで知っている。

 大丈夫と軽く慰められるより、何の責任が自分にないかを切ってもらう方が落ち着く時もある。


 使用人の扱いも、低位側の下級生の扱いも、どこか似ているのだと思った。

 まず、何が自分の責任かを整理する。

 違うものを背負わせない。

 その方が、人は動ける。


 なぜそんなふうに考えるのかは、まだよく分からない。

 だが、自然にそうしている。


 訓練場を離れたあと、ナタリアは学院の中庭に面した回廊で一度だけ立ち止まった。


 外は相変わらずきれいだった。

 午後の陽が芝生の端を淡く照らし、風は穏やかで、鳥の影が高く横切っていく。

 王立学院は、どこを切り取っても上等な場所だ。

 整えられ、磨かれ、よく保たれている。


 だが、そういう上等な景色の中でこそ、汚いものはたいてい形を整えて近づいてくる。


 結論だけ先にある。

 理由はあとから貼る。

 誰も引き取らない。

 それでも裁定だけは速い。


 はい、次工程。


 その言葉が、ほとんど自然に胸の中へ落ちる。

 自分でも少しだけ驚くほど、しっくり来る感覚だった。


 婚約。

 王子妃候補。

 学院での立場。

 そういうものを、ナタリアはここまで“自分の役割”として扱ってきた。

 好き嫌いではなく、必要だからやる。

 終わるなら終わるで、終わり方があるだろうと思っていた。

 だが今、この件はもうかなり閉じに向かっている。


 実力で否定できない。

 だから定義で切る。

 その次は婚約破棄。

 さらに進めば、公的な断罪。


 そこまで流れが見える。


 ……ああ、閉じるのね。


 その感覚は悲しみよりも先に来た。

 情がないわけではない。

 だが感情より処理が先に立つ。

 そういう順序が、自分には妙に自然だった。


「ナタリア様」


 声に振り向くと、回廊の向こうから第一王子の側近の一人が歩いてきた。

 王城で何度か顔を合わせたことのある若い文官だ。学院の制服ではなく、王家付きの詰襟をきちんと着ている。

 彼はナタリアの前まで来ると、礼を取った。


「陛下と殿下へ、本日の件は報告が上がります」


 陛下と殿下。

 王と第一王子。

 当然だ、とナタリアは思う。

 第ニ王子と婚約者の学院内模擬戦が三度にも及び、しかもその後に適性の話へ移ったのなら、王家が知らないわけがない。


「そう」


 それだけ返す。


 文官は少しだけ言葉を探し、しかし余計なことは言わなかった。

 彼もまた、王家の中で何を言ってよくて何を言うべきでないかを知っている顔だ。


「学院長立会いの場が設けられる前に、王城側でも確認が入るかもしれません」

「その際は、またお伝えいたします」


「承知しました」


 文官はもう一度礼をして去っていく。

 ナタリアはその背中を見送りながら、王と第一王子の顔を思い出す。


 あの二人は、自分の強さそのものにはたぶん驚かない。

 問題は、エドワードがそこから何を学ぶかだ。

 三度やってなお自覚が足りないなら、初めて意味が変わる。

 だが今はまだ、そこまでではないはずだ。


 ナタリアはそれを、不思議と確信していた。

 王も第一王子も、少なくとも模擬戦の結果だけで彼女を切るような愚かさは持たない。

 むしろ、三度逃げ道を与えずに王子へ現実を見せたことを“教育”として評価する可能性の方が高い。

 問題は、その教育を受けた当人がどう振る舞うかだ。


 回廊の端で、セラフィナがこちらを見ていた。

 いつの間に来ていたのか。

 青ざめたまま、けれど逃げずに立っている。


 ナタリアは彼女をまっすぐ見返す。


 セラフィナは何か言いたそうに唇を動かした。

 謝罪かもしれない。

 弁解かもしれない。

 けれど結局、言葉は出ない。


「……ヴォルディア侯爵令嬢」


 ようやく出たのは、その呼びかけだけだった。


「何かしら」


 ナタリアの声は平坦だ。

 責めてもいないし、救ってもいない。

 ただ、返答を待つだけの声。


 セラフィナは目を伏せる。


「わたくし……そんなつもりでは」


 やはりそこへ来るのか、とナタリアは思う。

 予想通りすぎて、もはや苛立ちにもならない。


「そうでしょうね」


 あっさりと返す。


「そのつもりではなかったのでしょう。分かっています」


 セラフィナは一瞬、救われたような顔をしかけた。

 だが次の一言で、それは完全に消えた。


「そのつもりではない方が、始末が悪いだけで」


 静かな声だった。

 強い言い方ではない。

 それでも、セラフィナの肩が小さく揺れる。


「わたくしは……」


「安心したかったのでしょう?」


 ナタリアはそこで言葉を挟む。


「ええ。もう十分聞きましたわ」

「その善意が、どう場を押し流したかも含めて」


 セラフィナは言葉を失う。

 ここまで明確に、自分の“善意”を加害として返されたことがなかったのだろう。


 ナタリアはそこからさらに責め立てない。

 責めても仕方がない。

 彼女が今ここで泣こうが謝ろうが、この場の流れはもう変わらないからだ。


「もう行きなさい」


 それだけ言う。


「今は、あなたがここにいても余計にややこしくなるわ」


 セラフィナは唇を噛み、小さく礼をして去っていった。

 背中はひどく頼りなかった。

 だがナタリアはそこへ情を向けすぎない。

 向けたところで、今やるべきことが増えるだけだ。


 彼女が去ったあと、ナタリアは回廊の窓辺へ寄った。

 開け放たれてはいない。

 磨かれたガラス越しに、中庭の芝生が見える。

 閉じた窓、乾いた空調、外のきれいな景色。

 ああ、本当に知っている。


 会議になる。


 その時、誰がどういう顔で何を言うか。

 かなりのところまで、もう見えていた。


 学院長は中立の顔をする。

 教師たちは秩序の言葉を使う。

 高位側は品位の話をする。

 王子は正しくないと言う。

 セラフィナは困った顔で沈黙する。

 そして自分だけが、それを“結論の確認”として聞く。


 かなり嫌な会議になりそうだった。


 けれど、逃げても仕方がない。

 断った方が余計に話がこじれるのも分かっている。


 はい、次工程。


 また、その言葉が胸の中へ落ちる。

 やはりしっくり来る。


 ナタリアは制服の袖を軽く払った。

 土はついていない。

 それでも払う。

 終わった場から次へ移る時の、無意識の区切りみたいなものだった。


 勝敗は、もうどうでもいい。


 次は会議だ。


 その一文だけをきれいに頭の中へ置いて、彼女はゆっくりと歩き出した。

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