第58話 モブサブの戦闘力!
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爆音が響き、加速感が身を包む。すぐ後ろにセフィアの悲鳴を置いて悪魔族の美丈夫へ飛翔する。周囲の景色が線になるとはこういうことかと頭の片隅で考えながら盾を構える。
悪魔族は、気付いていない。どういう意図か、次の魔法を撃とうと無防備に腕を伸ばしていた。やはりこのイベント装備は悪魔族にも通じるらしい。
「吹き飛べ、悪魔野郎っ」
全身にはしる衝撃。たしかに増えた重みと共に森に飛び込む。バキバキと枝をへし折りながら枝葉の隙間を抜け、暗い地面を転がる。盾を突き立てて無理矢理止まれば、舞い上がる湿った土と森の空気が肺を満たした。
「まったく、妙な真似をするものだ」
凄まじいプレッシャーの中立ち上がり、ピンピンした様子の悪魔族を睨む。今のはアルゴスとして放てる最大威力の攻撃だったはずだが、HPの一割も削れているか怪しい。
「悪いが、少しばかり付き合ってもらうぞ」
だがそれでもいい。こいつをこの場から逃がさなければ。
その間にスタンピードが終息してくれたら、ひとまずクリア。そのまま諦めて帰ってくれれば良し。ダメなら、相打ち狙いの切り札でも使おう。
なに、悔いは残るが、おっさんの命一つでどうにかなるなら安いものだ。
「なんて、思ってたんだがな。こんなところで何してんだ、勇者」
「タンクにはアタッカーが必要かと思ってね」
悪魔族を吹き飛ばす時に見られたか。
「ああ、心配しなくていいよ。サクラムドラゴは大丈夫。ケイン君がいるからね」
ハッ、ケインのやつ、憧れた勇者様にここまで言われてやがる。後で聞かせてやらないとな。
「先刻の剣士か。いいだろう、付き合ってやる。代わりに、聞かせてもらうぞ。貴様らの苦悶と絶望に満ちた嘆きを」
後で、な。なら勝つしかないか、この化け物に。おっさんの命一つで済むならなんて言ってる場合じゃない。ちゃんと勝って、無事に帰ろう。優秀なアタッカーも来てくれたことだし、なんとかなる。
「嘆くのはどっちだろうな。さあ来い悪魔野郎。俺の盾を抜いてみろ!」
まず挨拶代わりにと叩き込むのは挑発スキル。言葉に乗せ、やつの注意を俺に引きつける。
これが効いてくれたら話は早いが……。
「煩わしい」
影響はあるが、効果は薄い。なら、立ち回りでカバーする。
勇者へ一瞬視線を送ってから『シールドバッシュ』で一気に距離を詰め、悪魔族の視界を塞ぐ。
悪魔族は当然のごとく反応してくるが、想定通りだ。振り抜かれる腕に当たらないギリギリの位置で止まり、横へ飛ぶ。
腕を振りきりつつある強敵に、開かれた道。それは勇者、アタッカーの為の道だ。
「『ライトニングスラスト』」
雷の魔法を纏った突きが刺青の顔を狙う。完璧なタイミング。悪魔族はこれを避けられない。
「っ!」
閃光が奔り、俺の打った剣の切っ先が確かに悪魔族の額へ直撃した。
「ほう」
ち、やっぱ大したダメージにはならないか。多少のけぞりこそすれ、余裕は崩せていない。剣が刺さったはずの額からも多少の血が出ているだけだ。
「体感一パーも削れてない感じかな」
反撃を警戒して一度下がれば、後ろから勇者が情報共有してくれる。
「百何十回か今のを当てたら勝てるってことだな」
「そういうこと」
ふっといてなんだが、頼もしい限りだ。
なら俺の仕事は、その百何十回を作ること。そしてその間、勇者に指の先一本触れさせないこと。この化け物を相手に、勇者を立たせ続けること。
俺がミスったら総崩れ。向こうで戦ってるケイン達も含めて全員死ぬ。まったく、懐かしい緊張感だ。今の俺は鍛冶師なんだがな。
「どんどん行くぞ!」
と言いつつ、この手の戦いは焦って動いたら事故る。後出しじゃんけんが基本。相手の動きを見てから最善の一手を選ばなければいけない。
だから位置取りで攻撃を誘発する。
ダッシュで距離を詰める、と見せかけて悪魔族の間合いのギリギリ外側、一歩踏み込めば殴れる位置で止まる。迎撃するつもりだったやつなら――ほら来た!
あっちから踏み込んでの殴打。牽制に近いこれを盾でしっかり受け止め、上から押しつけて一瞬の間を作る。
数字にしたら零コンマの後にさらにいくつか零が付くような、隙と言うには短すぎる時間だが、勇者にはこれで十分。再びスパークする剣が閃いて、悪魔族に僅かばかりの血を流させる。
悪魔族の視線が勇者に向いた。つまり、俺から意識が逸れた。
「『シールドブレイク』!」
ストレージから取り出したハンマーを握り、発動するのは鍛冶師が使える数少ない武器スキル。
攻撃力不足でほとんど零に等しいダメージしか与えられていないが、それでかまわない。メインは、確率で発動する耐久減少のデバフだ。
「デバフか。運の良いやつだ」
余裕は崩れないか。そうだろうな。それだけ力の差があることは分かっている。
さっき殴打を受けたときも微妙にHPを削られた。牽制でしかない攻撃を、を盾で受けたのにだ。
だが、受けられる。受けられるなら、勇者の攻撃を通せる。
見えた勝ち筋を信じて更に数度、懐に飛び込み、勇者の刃を届かせる。攻撃を受け止める度にHPが削れるが、まだギリギリ装備の自動回復効果と釣り合う程度だ。
デバフが通ったおかげでダメージも出ている。一番連発されたくなかった魔法も、まだ余裕があるからなのか、撃ってこない。
こいつの正確に救われているような形だが、それでも順調は順調。このままいけば、勝てる。
同時にそれは、やつがその気になれば一瞬で状況がひっくり返るということ。
「――これは、非礼を詫びなければならんな」
十数度目の直撃。勇者の感覚通りなら、三割は削れただろうとき。悪魔族が全身から衝撃波を発して大きく下がり、虚空から何かを取り出した。
禍々しいオーラを放つそれは、大ぶりな刃を持った槍のような武器だ。
たしか戟だったか。槍の刃の左右に三日月状の刃が二つついたような形状。突く、斬る、叩く以外にも、引っかけるなんて選択肢を持てる武器だ。
それを悪魔族は腰の辺りで構え、切っ先を真っ直ぐに向けてくる。
「貴様らに無手で相対するのは、あまりに愚弄していた。謝罪する」
こっちとしちゃ、もっと愚弄していてくれて良かったんだがな。
なんて言っても、意味は無い。
「貴様らは、武器をとるに足る強者だ」
明らかに空気が変わった。空気のひりつきがいっそう強くなり、胸の潰れるような重圧がさらに力を増す。これがこの悪魔族の戦闘モードってやつか。まったく、変な汗が止まらない。
ゲームのボス戦なら、第二形態。本番は、どうやらここかららしい。




