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絶対に目立ちたくない元社畜おっさんの職人NPCスローライフ~推しモブに成り代わってしまったので代わりに夢を叶えます~  作者: 嘉神かろ
第2章

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第57話 モブサブの覚悟!

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「ア、アルゴスさん、どうしたら……」


 セフィアが不安に瞳を揺らす。応えてやりたいが、俺も分からない。

 こうして考える間にも下の奴らの死はどんどん近づいている。それなのに、なにも考えられない。思いつけない。


「アルゴスさん……」

「……サクラムドラゴへの砲撃を続ける。ただしここからはどんどん撃つ。もうブレスも飛行も無い」


 違う。セフィアが求めているのはこんな回答じゃない。

 あの悪魔族をどうにかする知識を披露しなければいけない。だがダメだ。確かに悪魔族共通の攻略情報は俺も持っているが、それでどうにかできるような実力差じゃない。


 なんなら俺でも勝てるか分からないクラス。それを、あいつらにどうしろと?


「なぎ払い! ケイン君!」

「はい! 全員攻撃用意!」


 ケインが盾に光を宿し、サクラムドラゴの尾を受け止める。ダメージを大幅に軽減するスキルを使って、リリエも攻撃に参加できるようにしたらしい。

 上手いのはサクラムドラゴの巨体が悪魔族との間に入る位置で受けていること。俺の考えられる限り最善の一手だ。


 逆に言えば、それくらいしかできないということ。

 あいつらが他にできることと言えば、悪魔族の放とうとしている魔法が自身のところにこないことを祈るくらい。


「『イビルサンデラ』」


 肌のひりつくほどの魔力が悪魔族の腕の先に収束する。名前からして雷の魔法。視線の先にいるのは、ケイン達だ。

 青みがかった紫の光がバチバチとスパークを始めた。魔族の魔法発動の予兆。ダメだ、間に合わない。誰かが、死ぬ。


「『マナスマッシュ』!」


 思わず目を背けそうになったその刹那だ。勇者の叫ぶ声が聞こえた。

 高く飛び上がった金髪の青年が、淡く光る剣を振り上げる。無属性のスキルの光は悪魔族の伸ばす腕へと吸い込まれ、そして弾いた。


「よしっ!」

「っ……? え? え? 何が起こったんですか!? 悪魔族の攻撃は!?」


 やりやがった、あの勇者、やってくれた!

 なんで知ってるかは知らないが、あれは対悪魔族のテクニックだ!


「ほんの一瞬、あるタイミングに無属性の魔法の効果を持った物理攻撃を当てると攻撃をキャンセルできるんだ。回数制限つきだがな」

「な、なるほど……」


 悪魔族が不思議そうに自身の手のひらを見つめる。そりゃそうだ。改修を諦められたバグの一つなんだから、この世界の悪魔族自身が知ってるはずがない。


 直せなかった以上に、瞬き一回分あるかどうかの時間で攻撃を当てなければいけないというシビアさがいまだに残ってる理由だし、偶然発見されることもなかっただろう。


 それだけシビアな対処法を、この土壇場で、しかも空中の相手に成功させやがった。まさに勇者。これほどその称号が似合うやつもいない。


 ケイン、お前のあこがれは、間違いなく英雄の器だ。


 まあ、あいつならいつかは勇者の隣に並んでもおかしくないとは思ってるがな。


「でも」

「ああ。今、この瞬間を凌げただけだ」


 現実は甘くない。あれが悪魔族の切り札なら良かったが、そうではない。あの感じなら通常攻撃の次に多く使ってくる類いだろう。


「回数制限付きと言ってましたね。あと何回いけるんですか?」

「あのクラスなら、多くて三回。たぶんだがな」


 元がバグだからあくまで予想だ。それも希望的とつくものに近い。

 それに仮にもっと余裕があったとしても何の解決にもならない。成功難易度的にも、悪魔族の強さ的にも。


「三回……」


 セフィアの顔が曇る。その視線の先には焦った様子の傭兵達がいて、騎士達がいて。そんな中でもケイン達はしっかり自分の役目を果たしている。賞賛すべきだが、その余裕がない。


 ケインがせっかく立ち直って、一つの成功を掴もうとしているのに、その命が終わろうとしている。

 くそ、どうしてメインキャラの体じゃないんだ。サブのステータスじゃ、アルゴスの体じゃどんなに目立っても助けてやれない。目立ってどうにかできるなら、今回くらい目立ってもいいのに!


 せめてこれが最新ストーリーで使える兵器なら……。


「――いや、そうだ、あった。どうにかできるかもしれない方法が」


 この方法なら、ただの大砲でもあいつに大ダメージを与えられる。少なくとも戦場から引き離せる。


「あと必要なのは、俺の覚悟だけ、か」


 どうにかできるかもしないが、確実ではない。むしろ上手くいく可能性は高くない。下手をすれば、俺も死ぬかもしれない。この世界に来て、初めて明確に命の危険を感じている。


 手が震えていた。心臓が締め付けられていた。


 悪魔族はまだ不思議そうに自身の腕と勇者を見比べているだけ。辛うじて、猶予はある。


 ふと見ると、ケインがサクラムドラゴ相手に奮闘していた。あいつの今の装備とステータスでできる最善の動きと言っていい。さっきまでの醜態が信じられないくらいに、頼もしい盾役だ。


 そう、だよな。教え子があんだけ頑張ったんだ。師匠役の俺が日和ってるなんてただの笑い話だ。


「よし、セフィア、着火の用意を頼む」

「わ、分かりました!」


 幸い、今なら悪魔族は動いていない。狙うには絶好の状況だ。

 この間に急いで用意を調える。装備は、普段使ってる最高クラスのもの。手持ちのバフアイテムも使っておこう。それと、一番大事なイベント装備、影紛れのローブ。これを纏って照準を合わせ、大砲の中に滑り込む。


「アルゴスさん!? 何してるんですか!?」

「大砲のダメージはな、弾の耐久値が高いほど上がるんだよ」


 通称、職人弾。耐久値が上がりやすい職人をダメージソースにする、レイド戦でよく使ってた小技だ。

 セフィアにはニッと口角を上げてみせるが、上手く笑えているかは分からない。


「合図をしたら着火をしてくれ」

「……お気を付けて」

「心配するな」


 誤魔化されては、くれないよな、セフィアの洞察力じゃ。


「着火! ……もし戻らなかったら、あの家は好きに使ってくれ」



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