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絶対に目立ちたくない元社畜おっさんの職人NPCスローライフ~推しモブに成り代わってしまったので代わりに夢を叶えます~  作者: 嘉神かろ
第2章

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第56話 モブサブの弟子復活!

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「ル、カ……?」


 つい聞き耳スキルを発動すれば、呆然と呟くケインの声が聞こえた。今もモンスター達の波が傭兵や騎士達を押し流そうと暴れており、サクラムドラゴと他のやつらの戦いは続いている。それなのに、あの二人の周りだけ、時が止まってしまったように静止して、動かない。


 ケインは盾を中途半端に構えた姿勢でルカを見つめ、ルカも手のひらを振り抜いた姿勢のまま動かない。その彼女の目元には、キラリと光る何かが見えた。


「しっかりしてよ! 今はあんなやつ、かまってる場合じゃないでしょ!」

「でもあいつは皆の仇だ!」

「違う! あの時のやつとは全然違う! そうでしょ!?」


 答えに窮した、ということは、別人であることには違いないんだろう。だが、それでも二人にとっては悪魔族そのものが憎悪の対象だ。実際、ルカもよく冷静でいられているとは思う。


 しかし同じ経験をしたルカの言葉でも、ケインは納得しきれないらしい。いや、頭では分かっているはずだ。だから縋り付いてきた彼女を振り切ることができず、俯いている。


「ケイン、あなたがしっかりしないと、みんな、死ぬかもしれない。あの時みたいに、いなくなっちゃうかもしれない」


 ケインの視線が向いたのは、たぶん、ルカの指にはめられたブルーストーンのリング。二人の故郷を象徴する指輪だ。


「それでもいいの? 私は、嫌」


 普段の彼女とはまったく違う弱々しい声だった。その経験がどれだけ深い傷を刻んだのか分かるような、そんな声だ。ケインの肩を掴む手が震えているように見えるのは、気のせいじゃないだろう。


「ルカ……」


 悪魔族に向けられかけていた盾が、だらりと下がる。

 ケインは琥珀の瞳を数秒伏せて、そして再び、幼なじみの水色の視線を受け止める。宿っている光は、さっきまでの狼狽えたものとも、憎悪にメラメラ燃えるものとも違う。理性と決意に満ちた、強い光だ。


「ごめん、俺、頭に血が上ってた」

「知ってる。あと、謝る相手は私だけじゃないでしょ」


 安心したような声で、ルカは優しく微笑んだ。


「そうだね。――『守護者の威』! こっちだ、サクラムドラゴ!」


 今まさにリリエに振り下ろされようとしていた爪が止まり、獰猛な瞳がぎょろりとケインを睨む。


 それはつまり、ケインが役目を果たそうとしているということ。


「すみません、もう大丈夫です! 指示を!」

「ケイン君……! よし、まずは態勢を立て直す! 森の方に攻撃を誘導してくれ!」

「はい!」


 市壁とは反対側に走り出したケインを追ってサクラムドラゴの視線が動く。もう釘付けだ。ああなれば、しばらくは全方位攻撃以外の全てがあいつ一人に向かう。


 その間は殴り放題も同然。態勢を立て直すのも難しくない。


 実際、さっきまであれほど激しく暴れ回っていたサクラムドラゴがすっかり落ち着いたように見える。


 なんて見ている間に回復を終え、強化魔法を発動して効果の切れたバフもかけ直せた。


「よし、反撃開始だ!」


 こうなれば後はあと一度、咆哮からのブレスを潰すだけ。あの悪魔族の魔法で片翼も潰れたし、飛行は考えなくていい。


 問題があるとすれば……。


「不気味ですね」

「ああ。あの悪魔族、また見ているだけだ」


 ケインに魔法を向けて依頼、ずっとあの調子だ。攻撃を仕掛けるわけでもなく、ただじっとケイン達の様子を見ていた。


 このまま観察を続けてくれるならいいが、もし動かれなら、ケインが暴走していたとき以上に苦しい戦いになる。


 勇者のやつもそれを懸念しているらしく、ちょくちょく悪魔族の様子を確かめていた。


「っ! 耳を塞げ!」


 と、もう期待体力まで減らしたか。そうなれば悪魔族に気を取られている場合じゃない。


「セフィア! 砲撃用意だ!」

「はい!」


 直後、凄まじい音の波が大気を伝ってやって来た。物理的な衝撃にすらなりそうなそれを堪えながら大砲の向きを合わせ、タイミングを見計らう。

 お願いだから、なにもしないでくれよ、悪魔族!


「今だ!」


 セフィアが魔法で点火すると同時に爆発音が響き、金属塊がサクラムドラゴの顔面を目指す。コースは完璧。あとはタイミング。


 どうだ……。


「よし!」


 キャンセル成功だ!

 悪魔族も見ているだけだった。余裕なのかなんのか。分からないが、動かないでくれるなら都合が良い。


 頼むぞ……。


「ふむ、なるほど」


 祈りがフラグになったのかは分からない。だが、抑揚に頷いた悪魔族が今、動き出そうとしていることは分かった。


「面白いものが見れた」


 なら満足して帰ってくれたらいいものを。


「だがこのままでは目的が叶わない。仕方ない。あまり気が乗らないが、私自ら手を下すとしよう」


 ああ、最悪だ。最悪の展開だ。

 このままいけば、この場にいる傭兵と騎士たち、全員が、死ぬ。ほとんど抗うこともできずに。


 どうにか考えないといけない。目立たずに、この状況を乗り切れる方法を。そんなものがあればだがな。

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