第59話 モブサブの盾さばき!
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ただ武器を持って構えられたってだけなのに、こうも違うものなのか。自分が地面を踏みしめただけの音すら耳につく。
戟の切っ先が妙に光って見えて、周囲に漂う血の臭いが強まる。どちらも気のせいだと頭では分かっているのに、無駄に意識してしまう。
舐めてはいなかった。それでもこれほどとは思っていなかった、のかもしれない。
だが、それでもやらなければならない。盾を握り直し、悪魔野郎の一挙手一投足に集中する。
攻めては、こない。向こうの攻撃を起点にしているのはバレてるな。あれだけやったんだから当然か。
なら初手と同じように、こちらから仕掛けて攻撃させる。
盾を前に構え、『シールドバッシュ』で短距離を一気に詰める。スキルキャンセル。間髪入れずに発動するのは、打撃系の基礎スキル、『スマッシュ』だ。
動作としてはただ殴るだけとほとんど変わらない。多少の威力補正があるだけのこのスキルは、攻撃後の硬直が極端に短い。
「ほう、間に合わせるか」
振り抜くとほとんど同時に響く重たい音。盾と戟とがぶつかった衝撃に大気が揺れる。
誘った上で完璧にガードしたつもりだったが、やはり多少HPを持ってかれるか。しかも連続で受ければ自動回復が間に合わなくなりそうな減り方。なんだかんだ言ってもやはり生産職か。ステータスが足りていない。
「次は、そう、貴様だ」
「くっ」
勇者の剣は戟の柄に受けられ、悪魔族には届かない。
タイミングは悪くなかった。だが、長柄の武器の防御範囲が広すぎた。
続けて攻撃の気配。勇者は、スキル後の硬直がまだ解けていない。
俺の耐久でこれだ。絶対に勇者は殴らせない!
「『シールドバッシュ』!」
戟を押さえ付けるように盾を突き出す。僅かに抵抗される感触がして、距離が空く。このノックバック効果を期待してのスキル選択だったが、想定よりも吹き飛んでいない。
「助かったよ。しかしかなり重そうだね」
だいたい大型重量級のモンスターと同じくらいのノックバック耐性か。
少し前に壁際まで押し込んでハメ殺す戦法が流行ったらしいから、その対策だろうな。まったく、余計なことをしてくれる。ゲーム時代なら仕方ないで済ませるが、今かけているのは命だ。
「口を開いていて良いのか?」
悪魔族の腕がブレ、瞬きするよりも速く戟が閃く。そう来るのは、予想済みだ。
「『カバーリング』。問題ない。俺がいるからな」
盾の曲面に沿わせるように切っ先を受け、斜め後ろへ受け流す。今度はダメージも受けていない。メインキャラで培った勘が上手く働いてくれた。
更に再び『シールドブレイク』を発動すれば、悪魔族はこれを無理矢理防ごうと槍を引く。盾で防ぐには膂力不足。だが意識を逸らすには十分。死角に潜り込んだ勇者が剣を翻し、稲妻の力を轟かせた。
「よしっ」
同時に響いた甲高い音に思わず声が漏れる。クリティカルだ。ありがたい。
ユグクロのクリティカルはダメージ増加に加えて行動キャンセルの効果もある。ほんの一瞬だが、この一瞬でとれる選択肢は少なくない。
だがこのタイミングなら、選ぶべきは一つ!
「くらいやがれ!」
ストレージから取り出し放り投げるのは、ケイブタランチュラの糸。それを多少加工して拘束力を高めたものだ。
「むっ、これは……!」
くすんだ糸の玉が広がり、悪魔族を絡め取る。粘着質のそれは大型ボスも確定で拘束できる優れもの。仕組みはよく分からないが魔法の発動も阻止できる。
「ナイス! たたみかける!」
拘束時間はおよそ六秒。セオリー通りなら大技一発と通常攻撃一発がたたき込める時間。ここは俺も攻める!
「『フルフォースブレイク』!」
「『ガイアクラッシュ』!」
それぞれマジックナイトの職業スキルとハンマースキルの奥義。七色の剣と黄金に輝くハンマーが、抵抗を許されない悪魔族へ吸い込まれる。
直後、全身が震えるほどの衝撃。大地が大きく陥没してクレーターが生まれ、属性魔力の余波が森の木々をなぎ倒して傷跡を残す。
属性耐性ダウン効果つきの全属性攻撃に、全ステータス微ダウンのデバフを与える土属性攻撃だ。エレメンタートル程度なら、これだけでHPの八割近くが消し飛ぶ。
タイミングも瞬きの時間ほどずらして、『フルフォースブレイク』の追加効果が乗るようにした。その甲斐あって、手応えは確か。舞い上がる土煙に姿は見えないが、かなりのダメージを与えたはずだ。
ここまでで四秒。残り二秒でスキル無しに一発殴りつけて、即防御態勢。いける、勝てる。勝てるぞ!
「ふっ!」
土煙が晴れるのも待たず、勇者とほとんど同時に武器を振り上げる。大したダメージにはならないが、その少しが生死を分けうるんだ。こんなチャンス、見逃せない。
しっかりと踏み込み、一撃。高速で空気を断つウォーハンマーに、土煙が押しのけられる。
その先、防御態勢をとった悪魔族の姿があった。
よし、入――いや、待て。防御態勢? ケイブタランチュラの糸に雁字搦めにされて動けないはずなのに?
「――『守護者の献身』!」
全感覚が鳴らした警鐘に従い、そして間に合えと祈りながら、上位の盾スキルを発動する。直後に盾から溢れた白い光は俺を包み、勇者の体も覆った。と同時に、視界が覚えのある青に染まる。




