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絶対に目立ちたくない元社畜おっさんの職人NPCスローライフ~推しモブに成り代わってしまったので代わりに夢を叶えます~  作者: 嘉神かろ
第2章

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第53話 モブサブの狙撃手!

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 シルエットだけでいえば、オーソドックスなドラゴン。ワイバーンや四つ脚のタイプではなくて、どんな趣味の人間でも思い浮かべられるだろう骨格だ。しかしゲームらしくと言うべきか、サクラムドラゴの名に違わず桜の木が絡み合ってその形をとったような見た目をしている。いっそドラゴン型の大樹と言った方がしっくりくるかもしれない。


 当然花見ダンジョンのモンスターの例に漏れず、身に纏うのは鮮やかなピンクの桜の花だ。本当にアレがドラゴンの形をしているだけだったら毎年花見に来るくらい見事に咲き乱れているが、残念ながらあのプレッシャーを受けながらハメを外せるやつはほとんどいないだろう。


「大きいですね……」

「ああ。立ち上がるとたしか、五十メートルくらいになったはずだ」


 いくら森の木々が背の高い種と言っても、今のように四つん這いで移動していなかったらもっと早く気がつけたはずだ。


「マズいな。下の連中、完全に気圧されてやがる」


 上からだとよく分かる。明らかに、全体的に動きが悪くなった。あれじゃ、サクラムドラゴどころか普段なら問題なく勝てる他のモンスターにやられかねない。


 どうにか――


「恐れるな! あのドラゴンは、俺たちブレイブテュールが受け持とう!」

「っ! お前ら、聞いたな! 勇者のやつらが出てくれるってんなら大丈夫だ! 俺たちは取り巻きどもをぶっ飛ばすぞ!」

「総員、防衛ラインを一つ下げろ! 勇者の戦う空間を作るのだ!」


 なるほど、勇者か。さすがの威光だな。明らかに傭兵や騎士達の動きが良くなった。士気も上がっている。あの赤髪の女騎士も即座に指示を出したあたり、聖命会側からの覚えもめでたいらしい。


 だが、ダメだ。アイツらだけじゃ足りない。勝てない。

 実力は十分なのに、装備が足りていない。くそっ、俺ならもっといい装備を作ってやれるのに。


「ケイン君! 君たちも力を貸してくれ!」

「えっ、俺たちですか!?」

「そうだ!」


 ほう。勇者のやつ、ただ強くてキラキラしてるだけじゃないな。

 状況を冷静に見極め、人を見抜き、対応できる。人を頼ることも知っている。


「傭兵なのが不思議なくらいですね」

「ああ。あの手のやつは大体国か領主かに仕えるからな」


 少なくとも、ゲームの頃はそうだった。これがケイン達みたく辺境の村出身なら納得できるが。


 何にせよ、これで戦力は十分だ。

 残る懸念は、ケイン達に対サクラムドラゴの立ち回りを教えていなかったこと。これは俺がどうにか補える。幸い目立たずできることだからな。


「臨戦態勢に入ったな。角度は、このくらいか」


 サクラムドラゴが立ちあがろうとするのを確認して、大砲の角度を調整する。開幕の確定行動に合わせるんだ。


「ふぅ……」


 手が震えている。当時もこのキャラで何度もした作業なのに、大勢の命がかかっていると思うと、どうも止められそうにない。

 

 だが、外すわけにはいかない。この初手を外せば、そのまま全滅もありうる。


「セフィア、合図したら着火して発射してくれ」

「はい、分かりました」


 俺の緊張が伝わってしまったのか、サクラムドラゴの気配のせいか。声が硬い。


「大丈夫だ。なんとかなる」

「そう、ですね。今までもそうでした」


 彼女視点のピンチは、俺が思っている以上に多かったのだろう。それを切り抜けて、こうして微笑んでくれるくらいには積み上げた信頼、今さら裏切れないな。


 桜の大樹が直立し、その巨大さを見せしめた。胸部が膨らみ、ヤツが大きく息を吸い込むのが分かる。


 角度を微調整しながら、機を見計らう。

 まだだ。もう少し。もう少し……。


「今だ!」


 ドンっ、と火薬式の大砲が火を噴いた。一瞬遅れサクラムドラゴが顎を大きく開く。


「グルァ――」


 上げられるはずだった咆哮は、続けられない。

 代わりに爆発音が轟き、巨龍の口から煙が上がる。たった今ぶち込んでやった砲弾が爆発したんだ。


「よし!」


 これでブレスは来ない!


「い、今、凄まじい魔力が、あのドラゴンから……」

「ああ、咆哮後にある確定ブレスの予兆だ」

「ブレス……。もし、今、外していたら……」


 傭兵や騎士は勇者達とケイン達を残して全滅。

市壁も半壊は免れなかっただろうな。

 何せ、大迷宮九十階層クラスに比肩するドラゴンのブレスだ。


「まだ気を抜くなよ。俺たちで止めないといけない攻撃はまだまだある」

「は、はい!」


 この大砲じゃワンオペはできないからな。着火をやってもらわなければならない。


 さて、メインの連中は……。この好機を逃すような奴らじゃないか。炎や氷が煌めき、剣と矢が樹皮のような表皮を切り裂くのが見えた。各々が瞬間火力の高いスキルで攻撃をしかけているな。


 ブレスキャンセル後の硬直時間をしっかり狙えるなら、あとは時間切れ、リソース切れとの戦いだ。


「下がれ! そろそろドラゴンの体勢が戻る!」


 あの距離での会話も聞こえるな。さすがの肉体スペックだ。これならタイミングを合わせられる。


「ケイン君、立ち位置は――」

「斜めの位置ですね! 防衛だから!」

「そうだ!」


 攻撃が逸れた時に後ろの防衛対象に流れ弾がいかないようにする立ち回り、余談程度に教えた話だったが、ちゃんと覚えていたか。


 感心する間にも手は止めない。次の弾を詰め、いつでも角度を調整できるよう備える。硬直から復帰した後の行動はランダムだから、この段階から一挙手一投足を観察しなければ。


 サクラムドラゴの桜色の目がケインを捉えた。ヘイトをとれたようだ。向けられる攻撃は……桜吹雪からの飛翔!


「点火用意!」


 サクラムドラゴが身を震わせ、纏う花びらを舞わせる。その一つ一つから無視できないほどの魔力が感じられ、硬質な光すら放ち始めた。


 そして翼を大きく広げ、羽ばたかせる。

 生み出された暴風は桜の刃達を乗せ、ケイン達を襲う。効果範囲にいるのはケインの他、勇者パーティの魔法職の男と、ルカだ。


「『フォースガード』」


 白い光が盾から発せられ、巨大なシールドとなって刃の雨を受け止めた。鈍い音が市壁の上まで届くが、打ち砕かれる様子はない。


「よし、着火!」


 指示を出すと同時にサクラムドラゴの生み出す風の向きが変わった。真下へ向けられて、大樹の巨体が地上から離れる。


 ある意味では最も厄介な行動、飛翔だ。空を飛ばれてはどうしても不利になる。


 しかしさせない。砲弾はサクラムドラゴが飛び立つのとほとんど同時にその顔面へ着弾。小ダウンが入って樹皮の足が再び地についた。


「どうやら、優秀な狙撃手がいるみたいだね」


 鍛治師だがな。

 さあケイン、ここからはお前がいかにヘイトを維持できるかの勝負だぞ。



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